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伝わる気持ち3
「そういえばお店でケーキとか出してるけど、あれってもしかして湊斗くんの手作り?」
「あ、はい。友人に勧められるがままに提供してるんですけど」
「なんだ。僕、もう湊斗くんの作るもの食べてたんだ。何回かフルーツタルト食べたけど美味しかったよ」
「そうですか。ありがとうございます。もっとメニュー増やそうかなと思ってるんですけど」
今はフルーツタルトとベイクドチーズケーキしか扱っていないけれど、もう1、2種類メニューを増やしたいとは思っている。フルーツタルトを作っているからタルト生地で作れるものとしてタルトタタンなんかいいかもしれない。それか男性でも食べられるビターチョコを使ったチョコタルトなんていうのもいいかもしれない。
「女性客が喜びそうだね。って僕は男だけど食べてるけどね」
「優馬さんは甘いのは大丈夫なんですか?」
「好きっていうわけじゃないけど、疲れたときに食べたいなと思う。コーヒーのお供にいいでしょう。僕、ブラック派だから」
「ブラックコーヒーなら確かに甘いのあわせるのいいですね」
スイーツって女性のイメージがあるけれど、優馬さんの言う通りブラックコーヒーにスイーツは相性がいいと俺は思ってる。だから、甘いのが絶対ダメっていう人以外は一度ケーキと合わせてみて欲しいと思ってしまう。そういう俺も甘い物は少し食べるくらいだけど、こういう料理の後やコーヒーを飲むときにたまにケーキとを合わせたりする。特に苦みの強いコーヒーの場合にあうと思っている。
「今度デザートメニューを追加するならどんなの?」
「タルトタタンなんかいいかもって思いました。あと、ビターチョコのチョコタルトとか。タルト生地を使ったものがいいかな、って」
「ビターチョコのチョコタルトなんていいかもね。ケーキに苦みを持たせてコーヒーを甘めにするとかいいね。僕も食べてみたいな」
「そのうち考えてみます。1人だからそんなにたくさんは作れないけど。でもティータイムに来てくれる常連さんは結構ケーキを食べてくれるので、もう少し提供できたらいいなとは思っていたんです」
ケーキメニューを置いてあってもケーキが一番出る時間は15時頃のティータイムだ。ランチ後や夕食後のお茶のときはお腹がいっぱいになっているから、あまりケーキメニューは出ない。だから、作ると言ってもたくさん作る必要はない。
「でも湊斗くんはいいね。美味しいコーヒーを淹れられるし、ケーキも作れる。湊斗くんの恋人になる人は幸せだね。ドイツに行った彼が羨ましいよ」
優馬さんの口から大輝のことが出てきて俺はなにも言えなくなった。そういえば、高校生の頃に大輝にコーヒーを淹れてあげたことはあるけど、修行してからは淹れてあげたことがないことを思い出す。帰国したら飲んでくれるだろうか。大輝は多少なら甘い物も食べるのでケーキと併せて飲んでくれるだろうか。
「だけど、僕も諦めたわけじゃないからね」
そう付け加えた優馬さんに俺はなにも言えない。こうやって時間を共有していって、もしかしたら離れている大輝よりも好きになってしまうこともあるかもしれない。それはわからない。わからないからなにも言うことができない。
「ごめんね。困らせるつもりはないんだけど、僕のささやかな願望だから」
そう言って微笑む優馬さんは優しげなイケメンで俺なんかじゃなく女性にモテそうだけどなと思ってしまう。それでも俺がいいと言ってくれるんだから申し訳ない。優馬さんの気持ちに応えられたらいいのだけど、今はまだ大輝が好きだと思ってしまう。
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