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同じ空の下10

「いい加減離れろよ」 「いいじゃない。行くところ一緒なんだから」 「一緒だからって腕組んで歩く必要ないだろ」 「まだ日本に置いてきた彼のこと忘れられないの?」 「忘れるもなにも別れたわけじゃない。だから忘れる必要がない」 「その彼ももう他の人と付き合ってるんじゃない? もう7年でしょう」 「湊斗はそんなやつじゃないよ」 「近くにこんな美人がいてなびかないなんて信じられない」 「信じろよ」  今日は同じチームで仲の良いアドルフの誕生日パーティーに呼ばれている。アドルフの家に向かっている俺の隣にはアドルフの妹、エマがいる。それも腕を組んで。  自意識過剰みたいでいやだけどエマは俺のことが好きだ。それはエマに告白されているから間違いない。それで顔を合わせるとこうやって距離を詰めて、まるで彼女かのように振る舞う。俺には日本に恋人がいるから、と何度言ってもエマは諦めない。どうやっても諦めないので、最近は勝手にさせている。  そうしてエマと言い合いながらアドルフの家に向かっている途中でスマホが着信を知らせる。誰からだろうと画面を見ると日本の親友の涼からだった。エマを無視して電話に出る。珍しいな。いつもは大体メッセージなのに。 「もしもし」 「大輝! お前、今1人じゃないだろ」 「え、あ、うん。知人が隣にいるけど」  なんでエマが一緒にいることを涼は知っているんだ? 「知人ね。言いようだな。お前、もう湊斗にちょっかい出すなよ。別れろ」 「え? なんだよ急に」 「今隣にいるのは女だろ。しかも腕組んで。湊斗がいるのになにやってるんだよ。ドイツだからバレないとでも思ったのかよ」 「ちょっと待てよ、涼。一体、なにに怒ってるんだよ」 「なにに怒ってるって自分の胸に手をあてて考えてみろよ。それともなにか。心当たりがありすぎてわからないとか?」  涼がなにに対して怒っているのかわからない。いや、俺が今、人と一緒にいるのを知っていて、しかも腕を組んでいるというのをなぜわかるのか。それがわからない。 「お前、最低だよ! 帰国してももう湊斗と会うなよ。それで、俺もお前に会いたくないね。バレないと思って浮気するなんて最低な男だよ」 「ちょっと待てよ。なんで俺が今、人と一緒にいるってわかるんだよ」 「ほんとのことを指摘されて逆ギレかよ」 「涼、落ち着けって」 「これが落ち着いていられるかよ。湊斗を傷つけて」 「湊斗を傷つけた?」 「しらばっくれるんじゃないよ。湊斗がお前のことを見かけたんだよ」 「え? 湊斗が?」  湊斗が俺を見かけたと言う言葉を聞いて、俺は足を止める。なんで湊斗が俺を見かけた? まさか、今ドイツにいるのか? 頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。 「ドイツへコーヒーを飲みに行っていて、女と腕組んで歩いているお前を見かけたって今さっき聞いたんだよ」 「デュッセルドルフにいるのか?」 「ああ。コーヒーの師匠に勧められてドイツに行ったんだよ」  湊斗がデュッセルドルフにいる。まさか湊斗がデュッセルドルフに来るなんて思わなかった。だって湊斗は俺がドイツのどこにいるかを知らない。  俺がサッカー留学でドイツへ来たのはベルリンだった。でも、所属したチームはデュッセルドルフだ。そのことは涼には話しているけれど、連絡を取っていない湊斗はそれを知らないはずだ。 「俺がここにいるって湊斗に話したのか?」 「まさか。お前と約束してたから湊斗には話してないよ。というか俺がお前と連絡を取ってることも湊斗は知らない。デュッセルドルフに行ったのは全くの偶然だ」  偶然、俺がいるデュッセルドルフに来たなんて。しかも俺を見かけるくらい近くにいたなんて。 「とにかく。湊斗がいないのをいいことにドイツ女と腕組んで歩くような男は湊斗にふさわしくないよ。湊斗は健気に待ってるのに! 俺は湊斗に他の人を勧めておいたよ。イケメンで優しい人がいるからな。じゃあな!」  涼はそう言うと電話を一方的に切った。  俺はあまりのことに突っ立ったまま動くことが出来なかった。  

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