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試験と恋と3
正門さんが淹れた後は緊張するけれど、いつも通りに、と自分に言い聞かせ集中してコーヒーを淹れる。淹れ終わって小さく息をつく。すると正門さんはまず先に一言、時間を体に叩き込めと言われた。美味しいと言われる時間とズレていたということか。
「蒸らし時間は23秒。淹れ終わるまで3分25秒。どちらも時間が長い」
そんなに時間がかかっていたのか。ゆっくり丁寧に淹れようとしていることが裏目に出たみたいだ。
そして正門さんはコーヒーを一口口に含む。
「やはりな。少し味が濃い。だから雑味が感じやすいのかもしれないな。時計を見ながらもう一度淹れてみろ」
そう言われて時計を傍に置いて再度コーヒーを淹れる。蒸らし時間を確認し、次にゆっくりと小さな円を描くように淹れていった。
「蒸らし時間は19秒。トータル2分43秒」
蒸らし時間が1秒短いけど、トータル時間は結構縮まった。ストップウォッチを横に置くと、正門さんは先ほどと同じように一口飲んだ。
「そうだな。大分良くなった。自分でも飲んでみろ」
言われて一口飲んでみると、確かにさっき淹れたものよりも美味しい。コーヒーのゴールデンタイムと言われているのはほんとなんだなと実感する。
「味が違うのがわかるだろう」
「はい」
「たかが数秒。でも、その数秒で味はこれだけ変わる。丁寧に淹れるのは大事だが、それで時間がかかりすぎたら意味がない。だからとにかく時間を体に叩き込め」
その日はそれで終わり、翌日からは時計を横に置いてコーヒーを淹れるようにした。そして、自分が淹れたコーヒーを飲む。すると確かに微妙な差ではあるけれど、以前と味が違うのがわかる。
休みの日もお店に来て、とにかくコーヒーを淹れる。最初は時計を見ながら。そして次は時計を見ないで淹れる。すると時間が少し違うのか、やはり味が微妙に違う。体がまだ時間を覚えていないのだろう。
今日も休みにも関わらず朝からお店でコーヒーを淹れる。今日は自分でも飲むけれど、デートも兼ねて優馬さんが来ている。
時計を見て淹れたものを飲んで貰う。
「うーん。微妙な差だね。でも、言われてみればさっきのよりも美味しい気はするかな」
「そうですか」
「でも、ほんと少しのことで味って変わるんだね」
「そうですね。体が時間を覚えればもう少し美味しいのを出せるんだけど……」
「試験まで後どのくらい?」
「実技はあと2週間です」
あと2週間で実技の試験がある。座学に関しては2つ合格している。あとは座学1つと実技だ。座学もスクーリング前にみっちり予習して行っている。
最近は試験に向けて毎日夜と休みに、とにかくコーヒーを淹れまくっている。
「そうか。じゃあ残り2週間頑張れるように美味しいもの食べに行こうか」
「あ、ごめんなさい。お腹空きましたよね」
時計を見るともう20時をまわっていた。
「いいよ。じゃあ片付けたら行こう」
俺はいいけれど、優馬さんはお腹が空いただろうなと思うと申し訳ない。俺がコーヒーを淹れている間、優馬さんはなにも食べずにコーヒーだけ飲んでいるのだ。
「今日はお好み焼きがいいかなと思うんだけど、どう? 好き?」
「お好み焼き! 好きです!」
「良かった。この間、美味しいところ見つけたんだ。もんじゃ焼きも美味しかったよ」
「わ〜。お好み焼きとかもんじゃとか久しぶりです」
「そっか。じゃあ行こう」
お試しで付き合うのはコーヒーのレベルアップ後と言っているけれど、結局こうやって今まで通り同じように美味しいものを食べに行っている。付き合うようになったら食事だけじゃないんだろうと思いながらも、もう付き合っているようなものだよな、と思いながらお店を出た。
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