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試験と恋と4
「試験前で忙しいのに食事に付き合わせてごめんね」
お好み焼きを食べながら優馬さんが謝ってくる。今食べているのは豚玉だ。こんな庶民的なお好み焼きさえイケメンが食べると高級食に見えてくるから不思議だ。俺が食べてもそんなことはない。
「いいえ。食事はとらなきゃいけないものですから1人で食べるか2人で食べるかだけの違いですよ」
「まぁ、ゆっくりとした食事は試験が全部終わってからね。合格祝いにでも行こう」
「まだ合格すると決まったわけじゃないのに」
俺がそう言って笑うと優馬さんは優しく微笑みながら言った。
「これだけ頑張ってるんだから大丈夫だよ。平日、お店終わった後も淹れてるんでしょ」
「はい。じゃないと体が時間を覚えてくれないから」
そう。今までの癖では美味しいコーヒーを淹れる時間から外れてしまっているから、それを直すのはとにかく数を淹れるしかないと思っている。実技の試験まであと2週間。試験前の1週間は毎日正門さんのお店へ行くことになっている。
「正門さんにも鍛えて貰っているんでしょ?」
「試験1週間前は毎日正門さんのお店に通います」
「そこまでしてくれるって正門さんも本気なんだね」
「だと思います。だから落ちるわけにはいかないので、正門さんのところに行かない日は1人で淹れようと思って」
「正門さんのところに毎日行くようになるのは来週か。そしたら今週は俺が味見役してもいい? もっとも正門さんほど繊細な舌持ってないけど」
豚玉を食べながら優馬さんが微笑む。食べているのが高級ステーキに見えるのはイケメンだからだろう。
俺の店の閉店は9時だ。そんな時間から淹れるから終わるのはほんとに遅くなる。そんなのに付き合わせていいんだろうか。そう思って黙るけれど、優馬さんの微笑みは変わらない。
「終わるの遅くなっちゃいますよ」
「うん。でもさ、湊斗くんが頑張ってるんだもの。好きな子が一生懸命やっているのに知らん顔は僕はできないな」
優馬さんはほんとに優しい人なんだな、と思う。恋人を大切にする人なんだと思うと好感度はあがる。こういう人が恋人なら幸せだろうな。
「さっそく明日、閉店時に行くよ。コーヒー飲ませてね」
味見なのに、飲ませてっていうところがずるいなぁ、と思いお好み焼きを食べる手が止まってしまった。イケメンは、行動1つもイケメンなんだな、と変なところを関心する。
「でも、そうしたら夕食惨めですよ」
そう。その間は、というか正門さんのところに行くときもそうなると思うけど、夕食はコンビニのおにぎりになると思う。お弁当を食べる時間ももったいないから。だから、こうやって食事に来るのも今日が最後で、後は実技の試験が終わってからになる。
「惨めって?」
「コンビニおにぎりです。お弁当をゆっくり食べるのももったいないから。あ、でも優馬さんはお弁当でもいいですよ。淹れるわけじゃないから。でも、1週間コンビニ弁当っていうのも申し訳ないので」
「なんだ、そんなことか」
豚玉を食べ終わった優馬さんは明太もんじゃを焼き始めた。なに俺、優馬さんに焼かせてるんだ。と慌てて豚玉を頬張る。
「僕だってアイデアが煮詰まったりしたら寝食おろそかになるから気にしなくていいよ」
「でも……」
「邪魔はしないから」
「……」
そんなのいいんだろうか。そう考えてしまって答えにつまってしまう。でも、優馬さんは俺の返事を気にすることもなく話しを進める。
「もし、僕が邪魔をしたら言って。そうしたら帰るから。とりあえず、明日から行くね」
そう言ってにっこり笑う優馬さんに俺は頷くしかできなかった。
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