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試験と恋と5
お好み焼きを食べに行ってから、毎日閉店時間になると優馬さんが来るようになり、コーヒーの味見をして貰った。最初の頃は時間がめちゃくちゃで味にばらつきがあったけれど、最後にはほぼ時間に正確になってきた。そして優馬さんには美味しくなったと評価を貰い、翌週は毎日正門さんのところに通うようになった。
「蒸らし時間20秒。トータル2分45秒。だいぶ体が時間を覚えてきたみたいだな。味も整ってきた。これでもう一度淹れてみろ」
そう言われたときはとにかく嬉しかった。これでまた同じに淹れられたらいいのだけど。いや、同じように淹れるんだ。そう思って集中する。
ネルフィルターをセットし、粉を平らに入れて内側から円を描くようにお湯を注いで蒸らす。蒸らし終わったらまた円を描くようにお湯をたっぷりと注ぐ。膨らんだ泡がくぼんできたら3回目のお湯をサーバーのメモリに注意しながら注ぐ。今回は1杯分だ。
1杯のメモリに到達したところで落とすのをやめる。そしてコーヒーの濃度が上下で違うのでサーバーを軽く回してからカップに注ぎ、正門さんの前に置く。
「蒸らし時間20秒。トータル2分46秒。ほぼ同じだな」
時計を見ながら正門さんが言う。そしてゆっくりと口に含んだ。
どうだろう。ドキドキする。同じ味が出せているといいのだけど。いや、時間的には1秒しか変わらない。きっと大丈夫。そう思いながらも、正門さんが口を開くまで不安だった。
「うん。大丈夫だ。雑味もないし、いい味になったな。これなら大丈夫だろう」
表情は変わらないけど、いい味になった、という言葉が正門さんから言われたのは初めてだった。正門さんがそう言うということは美味しいと同義だ。そう思うと嬉しくて泣きそうになった。
「自分でも飲んで、この味を覚えておけ」
「はい!」
自分で飲んでみて、味をしっかり覚える。これが俺のコーヒーの味。
「よく頑張ったな。これならコーヒーインストラクター1級も受かるだろう」
「ありがとうございます! 正門さんのおかげです」
「お前の頑張りだよ。俺がどれだけ言おうが、自分で努力しなかったらできない。ただ、お前なら鑑定士にもなれそうだな」
コーヒー鑑定士。コーヒーインストラクター1級の上。日本に50人前後しかいない。そんな中に入れるのだろうか。いや、これからまた頑張ればいけるのかもしれない。だって正門さんがそう言うんだから。俺が目指すのは正門さんクラスの味だ。だから鑑定士には受かりたい。でも、その前に来週の実技だ。
「座学の方は大丈夫か? 実技が受かっても座学で落ちたらしゃれにならないからな」
「座学は2つ合格しているので、後1つ合格すれば大丈夫です。これは家で頭に入れています」
「そうか。それなら大丈夫だろう。お前からのいい結果を待っているよ」
そう。後1科目の座学が残っているから、実技の特訓の成果が無駄にならないように、落とすわけにはいかない。テキストは当日配布となるものと現在取得しているマイスターのテキストからも出るので、マイスターのテキストはイヤになるぐらい読み込んでいる。
とりあえず、実技の試験は来週だ。今日の味を忘れないでおこう。
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