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試験と恋と6

 優馬さんに協力して貰い、正門さんにしごかれたおかげで実技は問題なく合格し、最後の座学も無事合格してアドバンスドマイスターになれた。合格したことを正門さんに伝えると来年のコーヒーインストラクター1級を目指せと言われた。お前ならできると。インストラクター1級は取りたいと思っているからまた頑張る。でも、今日は合格のお祝いでステーキハウスに来た。目の前で焼かれる肉がとにかく美味しそうだ。 「合格おめでとう」  いつもなら車なのでノンアルコールの優馬さんだけど、今日はおめでたいから飲みたいと言って電車で来た。 「ありがとうございます。優馬さんにも協力して貰って」 「僕はただ飲んだだけだよ。でも、確かに美味しくなった」 「それなら良かったです。また来年3月に他の資格のレベルアップの試験を受けるので頑張ります」 「じゃあ、また忙しくなる前にデート行きたいな」  そうだ。試験が終わったらお試しで付き合うって言ったんだ。付き合うって言うのならデートをするのは当たり前だ。でも、デートってどこへ行くんだろう。 「でも市内の一番のデートスポットってここだよね」  そう。市内でデートスポットと言われているところは俺のお店があり、家のあるところだ。だから、改まってここでデートするのは少し寂しい。 「まずは定番だけど映画、水族館、動物園っていうところから行こうか?」  動物園、という単語を聞いて俺はピクリと反応した。動物園、好きなんだ。ここから近いところにある動物園は狭いけれど、小さい頃からよく行っていてお気に入りのスポットだ。市内に新しくできた広い動物園もある。珍しい動物もいて、行くのならそっちの方がいいのかもしれないけれど、ここは好きな方に行きたい。そう言うのはわがままだろうか。 「優馬さん、わがまま言ってもいいですか?」 「いいよ」 「動物園がいいです。古い方の」 「いいけど、新しい方が色んな動物がいるよ」 「そうなんですけど、古い方が愛着があるというか。小さい頃から行っているから」 「なるほどね。じゃあそっちに行こうか。そこなら、美味しい焼き肉店があるんだけど、そこで夕食ってどう?」 「焼き肉好きです!」 「じゃあ、今度の火曜日行こうか。予定は空いてる?」 「はい。空いてます」  こんな感じに優馬さんとの最初のデートが決まった。デートなんて大学生の頃、大輝としたのが最後だ。  そこで大輝のことを思い出してしまい、悲しくなった。迎えに来るって言っていたのに、ドイツで女の人と腕を組んで歩いていた大輝。やっぱり長すぎたんだろうか。だから他の人の方へ行ってしまったんだろうか。 「湊斗くん?」  優馬さんの声で我に返る。今は優馬さんといるのになにを考えてるんだ、俺は。もう大輝のことなんて忘れるんだ。大輝だって俺のことを忘れたように、俺だって大輝のことを忘れて優馬さんと付き合うんだ。 「あ、ごめんなさい。ちょっとボーッとしちゃって。あ、お肉焼けましたよ。食べましょう」 「うん、そうだね」  焦って話題を変えたけれど、優馬さんはちらりと俺を見る。結構優馬さんは聡い。だから気をつけないと。 「うわ、お肉が口の中で溶けていく!」 「うん、美味しいね」  お肉がいい味をしていて、柔らかくて口の中で溶けていくのを味わうととても幸せな気持ちになる。きっと今の俺の顔を見たらだらしない顔しているだろうな、と思う。それくらい美味しいお肉だった。大輝とデートした頃はまだ学生だからそんな贅沢なデート出来なかったけど、今はもう社会人で働いているからそんな贅沢なデートもできる。そんなデートを優馬さんとするんだ、と思うと少し楽しい気持ちになった。

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