70 / 74

幸せに向かって2

 動物園を満喫した後は、動物園から坂を下ったところにある焼肉店だ。動物園が近すぎて、その近くで食事をすることがなかったので、このお店も存在は知っていたけれど、入るのは初めてだ。 「動物園って久しぶりだけど、大人になっても楽しめるものだね。でも、あんなふうに動物にふれあえるっていいね。ただ、服が……」  そう。動物園には柵越しに動物を見れるのはもちろんだけど、動物に直に触れられる”なかよし広場”と言われるスペースがある。小動物が主だけど、今日は山羊がいた。そして優馬さんは白い上着の裾を山羊にむしゃむしゃとされていた。おかげで優馬さんの服は山羊の唾液がべったりだ。白い上着だったから紙と間違えたのだろうか。笑ったら失礼だと思いながらも、つい笑ってしまった。 「クリーニング行きですね」 「うん。まさかこんな目に遭うとは思わなかったよ。でも、楽しかったね」 「良かったぁ。俺、あの”なかよし広場”結構好きなんですよ。ああいうスペースのある動物園って他にもあるのかな?」 「どうなんだろうね。少なくとも僕の田舎にある動物園にはなかったな。子供がたくさんいたけど、子供にはいいよね」 「だと思います」  俺も子供の頃はなかよし広場でうさぎとかを触っていた。山羊を見た記憶はなかったけど。 「さあ、肉来たよ」  ロース、カルビ、ハラミと注文した肉が運ばれてきた。 「後でタンでも頼もうか」 「はい!」  焼肉なんてめちゃくちゃ久しぶりだ。この間はステーキハウスに行ったけど、ステーキハウスと焼肉だと全然違うし。だからめちゃくちゃテンションがあがっている。  肉はタレ付きはもちろんだけど、俺が塩が好きだから塩も頼んでいる。だからテーブルはお肉でいっぱいだ。 「そう言えば、湊斗くんと結構食事に行ったけど焼肉は初めてだったね」 「そうですね。お肉と言うとこの間のステーキハウスとかハンバーグのお店になってましたね」 「そうだね。焼肉もだけど、韓国料理も食べに行ってない」 「中華は行ってるのに」 「まぁ、中華街があるからね」  そう。韓国料理は食べに行ってないけど、中華料理は飲茶を含めて何回か行っている。 「今度は韓国料理行きましょう」 「そうだね。あ、このカルビ焼けたよ」  そう言って優馬さんは俺の取り皿にお肉を置いてくれた。食事に一緒に行くようになって知ったのは優馬さんは甲斐甲斐しく世話をやいてくれる人だ。本人いわく妹がいて、その妹の世話をしてたからだと言う。でも、俺は弟がいるけど、世話焼きじゃないから性格だと思う。でも、優馬さんのルックスで世話焼きなんてモテ要素が増えているだけだ。だから以前のように優馬さんが好きで俺に嫌がらせしてくるような人が出てくるんだろうな。その後、あんなことはないけれど、優馬さんみたいに完璧な人が俺みたいな平凡な男を好きでいいんだろうか。そんなことを思いながら肉を焼く。やっぱり焼肉は塩が美味しい。 「次のデートはどこに行こうか」 「あ! 飲茶が食べたいです」  俺がそう言うと優馬さんは困った顔をする。 「うん、飲茶行こうね。でも、どこか行きたいところない?」 「あ、そしたら服を買いに行きたいです。コートが欲しくて」 「そしたら、来週は冬物でも見に行こうか」 「はい」 「もう冬か。1年って早いね」  もうすぐ12月。俺の誕生日も近い。ということは優馬さんから告白されてもうすぐ1年だ。1年経ってお試しで付き合うことになった。これまで長かった気がする。優馬さんはよく根気よく待てたなと思う。だって、俺は大輝が好きなのだから。そう、大輝が……。 「そろそろタン頼もうか」  俺が大輝のことを思いだしかけていたところで優馬さんの声が聞こえる。そうだ。今は優馬さんと食事中だし、お試しとはいえ付き合っているんだ。大輝のことは忘れるんだ。俺がそんなことを考えている間に優馬さんはタンを注文してくれた。優馬さんを好きになろう。そう思って優馬さんを見た。

ともだちにシェアしよう!