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彩雲華胥〜轉合編〜【第二部】 3-27 知りたかったことの答え | 柚月なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
彩雲華胥〜轉合編〜【第二部】
3-27 知りたかったことの答え
作者:
柚月なぎ
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3-27 知りたかったことの答え
逢魔
(
おうま
)
は邸を出て、
碧水
(
へきすい
)
の市井を回ることにした。ここに留まってもう半月以上になる。そうしている内に事態は色々と展開していて、今は各一族から数人ずつこの碧水の
白群
(
びゃくぐん
)
の邸に集まっていた。 顔馴染みも数人おり、
玉兎
(
ぎょくと
)
の
姮娥
(
こうが
)
の一族も来ていた。女宗主の
暁明
(
きょうめい
)
とその妹の
聖明
(
せいめい
)
である。
逢魔
(
おうま
)
はふたりのことを親しみを込めて姐さんと呼んでいた。そんなふたりに偶然出くわしたのは、白群の広い敷地と市井を隔てる大きな門の前だった。 「あれ? 姐さんたちも市井に行くの?」 自分の声に反応して、門の前にいた美人ふたりが同時に振り向いた。いくつになっても迫力美人な暁明と、瞳の大きな可愛らしい顔の聖明は、初めて会った時とほとんど変わらない容姿で目の前にいた。あれから何度も玉兎に立ち寄ったが、いつも快く迎えてくれるのでまるで親戚の伯母さん、もといお姉さんのようだった。 ふたりが来ているのは知っていたが、逢魔はまだ挨拶もできていなかったのだ。なので、ふたりに会うのは二年ぶりくらいである。思い出したように腕を前に囲って作揖し、行儀よくお辞儀をした。 「暁明姐さん、聖明姐さん、お久しぶり」 「逢魔か。神子と黎明は一緒じゃないのか?」 「また背が伸びたんじゃない? あの子とほとんど変わらないもの」 ふたりは嬉しそうに交互に逢魔に訊ねてくる。しかしそれらに答える前に、逢魔は聖明の腹を見て首を傾げる。それに気付いた聖明はその視線の先にあるものに触れ、ふふっと笑みを浮かべた。 「五人目がもうすぐ生まれるの。今度こそ男の子だと思うわ。だってものすごく元気にお腹を蹴って来るんですもの」 「聖明姐さんおめでとう! あ、でも、なんでそんな大変な時にこんな危ない場所に来ちゃったの? 暁明姐さんも俺たちもいるけど、万が一があったら大変だよ」 その大きな腹は今にでも赤子が出てきそうで、逢魔は心配になった。他の四人の子供たちは下の子が五歳、上の子が十二歳だったはず。毎回訪れるたびに一人増えていたような記憶さえある。 「私もそう言ったのだが、聞かなくてね。戦に出向くことはないが、碧水にいる間は役に立ちたいと言って」 「ふふ。あとふた月もすれば生まれるかも。良いことを思いついちゃった! 逢魔、無事に生まれたら赤子に名前を付けてくれない?」 「だめだよ、俺なんかに頼んじゃ! 旦那さんが普通は付けるんじゃないの?」 突然の提案に逢魔はぶんぶんと首を横に振る。こんな、人でもない自分に赤子の名前なんて決められるはずがない。 「いいの!これも何かの縁だもの。私は逢魔に付けて欲しいわ。考えておいてね? 約束よ」 「わ、わかった。でも嫌だったら断ってよ。俺、そういうの苦手だからさ。その時は神子に考えてもらってね?」 頬を搔きながら照れた顔を見られないように横を向いて、肩を竦める。お願いね! と満面の笑みを浮かべられ、なにも言えなくなった。 「では一緒に行こう。どこか行きたい場所はあるか? 私たちは息抜きがてら茶でもしようと思っていたのだが」 宗主が従者も付けずに歩き回るのはどうかと思うが、逢魔はそれが要らぬ心配であることも知っている。なにより碧水は他のどこの地より安全で、平穏であることも理解していた。 「俺はふたりに気を利かせて邸を出てきたら、特に行きたい場所はないよ? 姐さんたちの護衛も兼ねて、好きな場所に付き合うよ」 「頼もしいかぎりだな」 わしゃわしゃと髪の毛を撫でて、暁明はふっと口元を緩める。幼い頃から知っているため、子ども扱いをされることが多いのだが、嫌ではなく、むしろ嬉しいとさえ思う。 三人はゆっくりと長い石段を下りていく。逢魔は必要以上に聖明が心配で何度も手を貸すと願い出たが、さすが黎明の姉で、まったくもって心配無用のようだ。
市井
(
しせい
)
で夕方近くまでふたりとお茶を飲み、菓子をつまみながらおしゃべりをして過ごした後、再び邸に戻って来た逢魔は、縁側で仲良く並んで座っている神子と黎明の姿に眼を細める。 (俺は、このふたりを守りたい。この場所を守りたい。俺をふたりが守ってくれたように。ずっと、この三人でいる場所を) 帰る場所はここだと。 ここでいいのだ、と。 「おかえりなさい」 神子が小さく手を振って微笑んでいた。黎明はその横で静かにそんな神子を見つめていて。 「ただいま。門の前で姐さんたちと偶然会ってさ。一緒にお茶してきた」 「そういえば逢魔はまだ会えていなかったもんね。聖明のお腹にびっくりしたんじゃない?」 「名前を考えてって言われたよ。俺、どうしたらいい?」 甘えるように神子の横に座って頭を撫でられている逢魔は、どこまでも嬉しそうで、まるで少年のようだった。 他愛のない話をし、こうやっていつまでも一緒にいられたらそれだけで良かったのに。どうしてそんなささやかな幸せさえ許されないのか。ここに来て何度目かわからないほど見た夕焼け空を見つめ、黎明は決意を込めて小さく頷く。 そんな願いも虚しく。 別れの時は、もうすぐそこまで来ていた。 ****** ある夜。宵藍が自ら斬りつけた左腕から零れる血を口にし、交わり、禁呪の儀式を行った。 「私は、君に残酷なお願いをしているってわかってる。ひとの魂を縛るその制約は、呪いとなんら変わらない。永遠の輪廻。本来の輪廻とは違う、その記憶を残したまま繰り返すそれは、理から外れた禁呪と同じ。それでも、君の気持ちは変わらない?」 寝台に仰向けになっている黎明の上に乗って、宵藍は悲しそうな顔で言う。頬に触れてきた指先が微かに震えていて、冷たかった。その右手を握りしめ、そのまま引き寄せる。 「変わらない。君を守ると誓った」 近づいたその顔に小さな笑みを確認し、そのまま口づけを交わした。 たとえ、君がいない時間をひとり、生きることになっても。 絶対に、君を見つける。 「だから、君をひとりにはさせない。永遠に、君の傍にいる」 そこで、記憶の
玉
(
ぎょく
)
は途切れた。
無明
(
むみょう
)
はひとり、玉を抱きしめたままその場に蹲る。揺るがない想いに圧し潰されそうになりながら、それでも最後まで見続けた。 黎明がどれだけ宵藍を想っていたか。 宵藍がどれだけ黎明を想っていたか。 ふたりの強い想いは切れずに繋がって、
現在
(
いま
)
があるのだと。 そんな想いを、自分勝手な考えで絶ち切ろうとしていたことを恥じる。永遠の輪廻が解除されることはない。白笶が自ら死を望まない限り。そういう呪いであり、誓いであり、願いだったのだと知った。 『自分が転生をしていることを神子を含め他の者に伝えてはならない』 宵藍のついた"あの嘘"が黎明を縛り、その嘘は彼をより孤独にした。今生に至るまでの黎明が、どんな想いで輪廻を繰り返していたのか。 あの日からずっと、待っていてくれたこと。 「····俺は、
白笶
(
びゃくや
)
のことを好きだなんて言っておきながら、本当は信じていなかった?」 あの時。花嫁衣裳を纏った自分に対して、かけてくれた言葉。ずっと隠していたことを、やっと言葉にできたあの時。神子として生きるということの本当の意味を知って、弱音を吐いてしまった自分に白笶が言ってくれたこと。 『私は、永遠に君と生きていく。あの日からずっと、そうやって生きてきた。君のいない日々を、いつか逢えると信じて永遠ほど。でも、もう君はここにいる。それが永遠なら、何度生まれ変わっても、君に逢いに行ける』 その言葉の意味。 それは、どこまでも純粋な想い。 「いいの····? こんな俺とずっと一緒にいてくれるって····そんな、夢みたいなこと。俺は····願ってもいいいの?」 白笶も逢魔も。 永遠を生きる、本来の神子としての孤独。気の遠くなるような時間を。何度も何度も延々と繰り返す輪廻の中で、共に生きてくれるということ? 無明はいつの間にか消えていた玉のことなど気に留める余裕もなく、そのまま扉を飛び出していた。
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柚月なぎ
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