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3-28 誓いの盃
「さて、と。じゃあ、俺たちはなにして遊ぼうか」
やがてふたりだけになると、逢魔 はふっと口の端を上げていつもの胡散臭い笑みを浮かべながら、白笶 に向かってそう言ってきた。白笶は眉を顰めて怪訝そうに逢魔を見据える。なにをするつもりでいるのかはまったく予想もつかない。なんにせよ、厄介事に付き合わされるのは御免だ。
「····逢魔、大人しくしていろ。光架 の民はお前のことを神子の眷属として崇めているようだが、本質を知ったら幻滅するだろう」
「別にいいじゃん。そういうの、俺興味ないし。そもそも四神である姐さんや兄さんたちとは別物だしね。それよりもあんたがあそこまで嫌われてるとは思わなかったけどね」
くつくつと喉で笑って、逢魔は肩を竦めた。神子と華守 の関係は彼ら彼女らにとっては汚点なのだろうか。それとも親を取られた嫉妬のようなもの?
兎にも角にもこの亀裂が修復されることはないのかもしれない。光架の民は記録の民。自分たちの神子を奪われたという事実が、子々孫々受け継がれていくことだろう。
(それはそれで面白いけどね)
どちらにしても、ふたりには関係ないことだ。過去も現在も、このふたりは惹かれ合い結ばれる運命だと逢魔は信じている。そして自分はそんなふたりを見守るという役目を担っているつもりだ。永遠に三人でいることが逢魔の望みであり、願い。ずっとこのまま、離れないように。あの頃と同じように。
そんな中、邸の扉が開かれる。そこに立っていたのは光架の民の長、栄藍 だった。白笶はすっと立ち上がり拱手礼をして挨拶を交わし、逢魔はその様子をただ眺めていた。
「お邪魔かな?」
「いえ。なにか御用ですか?」
栄藍は白い酒瓶を掲げて「一緒にどうだ?」とでも言うような素振りを見せた。白笶は珍しく困った表情を浮かべ、逢魔は「酒なんて久しぶり」と愛想よく答えた。
「鬼神殿と酒を酌み交わせる日が来るとは、幸運なことだ。白笶公子は噂通りで安心したよ」
現世でも変わらず華守として神子の傍にいる青年。その見た目以上に長い年月を永遠ほど繰り返してきた存在でもある。すべては、いつかこの世に再び生まれるだろう神子のために。自分自身を犠牲にして生きてきたこと。それくらい、彼にとって神子が大切な存在であろうことを、知っている。
「すまないな。如何せん、我々も複雑な気持ちなもんでな。俺にとっては大事な孫でもある。神子だから、というよりはそっちの方が感情的には強いかもしれん。だからこそ、訊きたい。華守殿の覚悟というやつをな」
栄藍は白笶の前に腰を下ろして胡坐をかくと、持ってきた酒瓶を床に置いて袖から三つ盃を取り出し並べ酒を注ぎながらそう言った。
「私は、無明 が神子だからという理由だけで傍にいるわけではない。無明が無明として生きたいと望むなら、それを叶える。神子として生きていくというのなら、永遠に共に生きていく覚悟がある。今までそうしてきたように、これから先もずっと。傍にいると誓った」
手渡された盃を受け取り、白笶は落ち着いた声音で淡々と答えるが、手に持ったまま口に運ぶ気はないようだ。
「俺は無明が好きだから、これから先も永遠に付きまとうと決めている。ずっと待たされた分、それくらいは許してもらわないとね」
逢魔は注がれた盃を勝手に取って、くいっと飲み干した。そんなふたりを目の前にして栄藍は盃を掲げると、無言で酒を呷った。予想通りの答えが返ってきたことに満足しているようにも思える。
「可愛いの孫のことはおふたりに託すと決めた。なにがあっても守って欲しい。あの子がひとりにならないように。すべての元凶である邪神との戦いを終わらせるためにも。そして、あの子がかつての神子と同じ道を辿らないように、しっかり見ていて欲しい。なにがあっても、あの子の味方でいてくれ」
栄藍は床に頭がつくくらい深く頭を下げ、己の想いごと託した。
光架の民の役目は記録すること。
五大一族を上回るほどの力があっても、この戦いに介入することはない。そういう決まりだからだ。関わることが赦されていない、監視者としての役割が故に。
「頼まれずとも、最初からそのつもりでいる」
白笶は手の中の盃に視線を落とし、それから一気に酒を口に流し入れた。あまり得意ではないのだが、栄藍に対しての返答として行動で示したのだった。逢魔は「当然でしょ」と頷く。
「俺たちはこの地に生きるモノすべてを敵に回してでも、無明を守ると決めてる。これは四神の総意であり、鬼神である俺の答えだよ」
ならば心強い、と顔を上げた栄藍は頷いた。
「だ、そうだぞ、無明」
栄藍は自分が入って来た扉に向かって声をかけた。少し前から扉の前に立ち尽くしていた無明に気付いていたらしい。
逢魔ももちろん気付いていたが、あえて知らないふりをして会話に付き合っていたのだが、白笶は本当に気付いていないようだった。
内開きの扉の片方がゆっくりと開かれ、そこに立つ無明に視線を向ける。扉は開いたものの、俯いたままその場に立ち尽くしている無明に対して、栄藍は目を細めて穏やかな笑みを浮かべた。
「お前の探していた答えは見つかったか?」
無明が知りたかったことの答え。手に取った記憶の玉に込められた想い。記憶であり記録であるそれは、光架の民と神子である無明だけが観覧を許されているものでもある。過去と現在。すべての記録があそこに存在しているのだ。無明が望めば、いくらでも読み取れる。良くも悪くも、真実しかないともいえよう。
「うん。俺、間違ってたみたい」
そう言って、今にも泣きだしそうな表情で無明は白笶をじっと見つめるのだった。
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