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12話 休みの日はすることがない!
慰安旅行の翌日は有休を取っておいた。疲れが溜まっていそうだし、ゆっくり出来た方が良いと思ったからだ。
いつも通り、卯月を送り出し、家事を済ませる。この後、何をしよう。
「睦月さん、休みなんですか……?」煩わしそうな顔で訊く。何その顔、ひど。
「有休取ったからね」2つのコップにお茶を注ぐ。
「有休ってそんな無限大にあるんですか……」如月はリビングに腰を下ろす。
「少なくとも18日は毎年支給される。来年は20日になるかな~~」お茶を淹れたコップを如月に渡した。
如月と2人。これは……デート日和!!
慰安旅行の疲れが残り、少し怠い。あまりハードに出かけたりはしたくない。
着替えるのも面倒だし、まったりおうちで過ごしたい。
「ありがとう」如月はコップを受け取り、髪の毛を耳にかけ、お茶を飲む。あ、良い。今の、良い~~。好き。
「何?」如月と目が合う。
「おうちデートしたいなぁって」もうずっといちゃいちゃしてたい。
「………………」目が濁り、眉の辺りに嫌な線が出る。
「何その嫌な顔! ひどい!」
「毎日がおうちデートみたいなもんでしょ……」コップを机に置き、和室へ行こうとする。
「え、ちょっと待ってよ!」如月の服を掴み引き止める。
「はぁ。もうね、何考えてるか、分かるんですよ……」眉を八の字にため息を吐いている。
「うぐ……一緒にゲームしよ? それなら良いでしょ?」
「ゲーム?」如月は少しだけ興味を示した。
和室にある如月のノートパソコンと、洋室に放置されている自分のノートパソコンを抱え持ってくる。テーブルの上に並べ、開く。
如月のパソコンにシューティングゲームをインストールした。
「なんですかこれ……」怪訝な顔で画面を見つめる。
「爆弾の設置爆破で倒すゲーム。インストール終わったよ。キャラクター 選んで」簡単に操作方法を説明しながら、キャラクターを選んでいく。
「エージェントとは? 複雑すぎる……全然わからない……」ゲームは着々と開始に近づく。
「チーム戦だよ。あ、守りだね、頑張ろうね~~」キーボードを叩き、キャラクターを走らせる。
「え? ちょっと待って! 移動早い!! なんでそんなに早く動けるの!! 今から何をすれば……」
「だからぁ~~爆弾 を解除して、敵を倒すんだってば」
「スパイクとは?! 今どうやって登ったの? 登れないんですが!!!」
「何してんの? 如月早く来て! 手伝って!」
「あれ? ここどこ? なにこれ? この人誰? あっ!! 死にました!!!!!」
「えぇ~~~~」
ある意味面白いけど。ゲームとして、2人で楽しむには、如月が弱すぎて楽しめない。初心者には難しかったか。もう少し、簡単なゲームの方が良いだろうか。
「うーーん、人生ゲームとかにする?」如月に提案する。
「その方が私にも出来そうです」如月はノートパソコンをそっと閉じた。
押入れから人生ゲームを取り出し、テーブルに広げる。駒に人物ピンを刺し、スタート地に駒を置く。ルーレットを回した。
ーー30分後
「……失業…だ……と……」如月は絶望した。
「やだぁ~~また子ども生まれちゃったぁ~~」駒にはたくさんの人物ピンが溢れている。
「人生ゲームでもそんな感じなんですか……」如月は呆れた顔でルーレットを回す。
「え~~っと『ヤンデレに好かれ、監禁される。全財産奪われ、10回休み』やってられるかぁああああ!!!!」如月はボードゲームをひっくり返した。お金やピン、駒などが辺りに散乱し、復元は不可能だ。
「ちょっと! 何すんの!」
「こんな人生あるかぁあああ!! もうっ!! 違うゲームに変更で!!!」少しふてくされている。
「あ、良いこと思いついたぁ~~負けた方が勝った方のいうこと聞くゲームしよ」ニヤリと笑い、如月を見る。
「えぇ……」顔を顰め、実に嫌そうだ。
「ババ抜きにしよ」
引き出しから、トランプを取り出す。ジョーカーを一枚抜き、トランプを何度も切る。交互に一枚ずつ配っていく。
自分の手札から、同じ数字のカードを捨てる。ジョーカーを持ってしまった。どうにか如月に引かせなければ。
「…………」全然ジョーカーを引いてくれない。
「睦月さんはババ抜き向いてないと思いますけどねぇ」如月の手札から一枚取る。手札は減るが、ジョーカーは残る。
「どっちにしようかなぁ?」2枚の手札を交互に触る。あっ! そっちはダメ!
「なるほど、こっちにしま~~す」手札にジョーカーが残った。
「あーーーー!! なんで!!」
「誰でも分かりますって……」
「私が勝ちましたねぇ、何を言うこと聞いてもらおうかなぁ」如月が妖しい微笑みを浮かべる。
「言わなきゃ良かった……」後悔する。
「睦月さん、マッサージして。誰かのせいで身体中痛いし凝るんですよね」如月は肩を押さえながら首を横に傾け、鳴らす。
「あ、変なことしないでくださいね」釘を刺される。如月は和室へ向かい、敷布団を一枚引き、うつ伏せになった。
なんでこんなことしないといけないの~~。
如月の側に座り、渋々、肩を揉む。如月は気持ち良さそうにしている。凝っているのか、とても硬く、手が疲れる。
「腰もよろしくお願いします~~」はぁ?
指で指圧し、ほぐしていく。
「もう少し強く」はぁあ?
「ズレた、下、もう少し下。もっと強く」はぁああ?
イライラしながら、言われた通りに腰を指圧する。
「脚も~~~~」はぁあああ?
手で脚を揉みほぐす。
いや、負けたけど。負けたけどさ。なんかちょっとこれは違うくない? しかも作業量多いし、疲れる。
「手、止まってますよ」うるさ!!!
「なんか違う!! ふつーキスしてとかでしょ!!!」止まった手を動かし、脚を揉む。
「いつもしてるからいいでしょ」なにそれ!
「背中もう少しやって?」おいぃいい!
「もうやだぁ~~!」
如月が仰向けになり、背中に伸ばそうとした手を掴まれる。手を引っ張られ、如月の身体の上に倒れ込んだ。背中に優しく腕が回る。
「怒らないで?」如月はなだめるように頭を撫でる。
「……もう怒ってない」
抱きしめられただけで、先ほどまで感じた腹立しさは、どうでもよくなり、許せてしまう。自分は御し易い人間だな。
密着する身体、胸元から香る如月の匂い。心臓がドキドキする。
「ゲームも飽きましたね。えっちでもする?」如月はクスッと笑った。
「えっ!」身体に付けていた顔を上げ、如月を見る。
「冗談ですよ、冗談~~」婀娜 やかな目で睦月を見つめる。その瞳に引き寄せられる。
両手で如月の頬を包み、顔を近ける。如月は委ねるように目を閉じた。唇を重ね、軽く押し付ける。如月の唇の感触が伝わる。
愛情を確かめるように、少し離しては、また唇を重ねる。キスをするごとに、体は少しずつ熱を帯びてくる。
一度やめ、如月を見る。
「如月、あのさ、今日は……最後までしたい……」恥ずかしさで伏し目がちになる。
「やめた方がいいかと……」猫を撫でるかのように、睦月の頭を撫でた。
「それは俺のため?」
「そう……ですね……見えているものが見えなくなりそうで……まだこれから色々あるでしょうから選択肢は広い方がいいと思いますし……」目を見ようとしない。
「何それ……なんの選択肢?」思わず眉をひそめる。
「それは……私以外と今後お付き合いするかもしれないのに……挿入 は必要はないかと……」気まずそうに手のひらで顔を隠す。
なんだそれ……。さも、この先に別れるしかないみたいな言い方。俺が女性も恋愛対象だから? 未来がないみたいだ。
自分が『将来』という現実から目を背けているのは確かだが、別れる気など更々ない。
「今後どうするかは俺が決めること。如月はこの先、別れたいの?」顔を隠す手を剥がし、目をじっと見つめる。
「私は睦月さんが別れを切り出さない限り、別れる気はありません」真剣な目つきで睦月を見る。
「ふ~~ん。なら別にいいよね。余計なことだとは思わないし。コミュニケーション取りたいから。それに選択肢が狭くなっても構わない。限られたカードの中から選んで、それが間違っていたとしたら、また、選択し直すだけだから。自分のことは自分で決める。そんな優しさは要らない」如月の耳を少し甘噛みする。
「……っ」
「ねぇ、まだ分からないの? もう、見えているものなんて限られているよ」もう一度、如月の頬に触れ、唇に口付けをする。
「……でもおうちでしたくないです……」はぁ?
「……色々準備もあるし……」色々って何……。
「過程までで許して?」かなしみ。
「しょうがないなぁ~~」如月に覆い被さり、唇に軽いキスを繰り返す。
「……あの受けはちょっと……」少し頬が赤く染まっている。
「またそれ~~? 今日は優しくするから、いっぱい声出してね」耳の下から首元にむかって、首筋に口付けをしていく。
「~~っ……そう言いながらいつも荒いんですよ」荒くないし。荒いって何さ。如月のシャツのボタンを上から順に片手で外す。
「あ、私も良いこと思いつきました~~」不敵な笑みを浮かべる。嫌な予感。
「な、何?」途中までボタンを外し、手を止める。
「この前は散々な目に遭いましたからねぇ」覆い被さっている睦月の腰を押し、身体に密着させ、履いているステテコの中に後ろから手を入れる。
「!! 待って! まだ心の準備がーーっあぁっ」
後ろから触れられる、未体験の刺激に気持ちが乱れた。
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