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11話(7)慰安旅行もお開き!俺が笑えば2人も笑うーー。
私と神谷、兄、如月の4人で仲良く朝食を取る。兄が如月と仲直り出来たみたいで、本当に良かった。
なんとなく、ここに来る前よりも、2人が仲良くなった気がする。
「はぁ~~美味しぃ~~」
兄が満足そうに杏仁豆腐をスプーンで食べているが、如月は箸が進んでいない。
「如月、少食だね」
「えぇ……なんか……疲れた……若いっていいね……」
「あんまり聞いてやるな」
神谷に諭され、口をつぐむ。兄が杏仁豆腐を掬い、如月の口元へ運んだ。こんなところでもいちゃつく気か。
「はい、如月あ~~ん」
「……会社の人もいますよ?」
「ん~~どう思われようと関係ないし。如月が居ればそれでいいや」
如月の顔を見て、兄が目尻を下げ、微笑む。幸せそうな兄の姿を見るのは、私も嬉しい。
ぱくっ。
「美味しかった?」
「えぇ、とっても。ふふ」
朝から、らぶらぶだな、おい。如月の口元が緩んでいるのが見えた。
朝食を食べ終わり、客室に戻る。帰り支度をして、フロントでチェックアウトをした。兄は会社の人たちと集まっている。
私と如月は、会社のお開きが終わるまで、ロビーで兄を見つめながら待った。
「もうすぐね、|父の日《兄の日》があるの」
「あ~~そうですね」
会社の人に絡まれている兄を、ぼーっと見つめる。如月が読んでいる本から目を離して、私を見た。
「カレーは失敗しちゃったでしょ、何作ろうかなって」
「また作る気なんですか……」
「用量を守れば良いんでしょ~~作れるって」
「う~~ん」
とても渋い顔をしている。前科持ちの私達に料理は微妙だろうか? それでも、頭を人差し指でトントンと叩きながら、真剣に考えてくれている。ありがとう、如月。
「あ、タコパにしましょう。きっと失敗しない」
「タコパ!!! 楽しそう!! そうしよう!!」
兄の日というよりこれは自分がやりたい!!!
たこ焼きパーティなら、兄もきっと楽しめるのでは?!?! まだ少し先の予定だが、三人でタコパが出来ると思うと心が踊る。
「お兄ちゃん、楽しそう」
人に囲まれ、何か大声を出してる兄を見つめた。
「表情豊かで、太陽みたいな人ですからねぇ。人が集まる」
「そういうところが好き?」
「ふふ。そうですね。少し暑苦しいけど」
タコパで喜ぶ兄の姿を思い浮かべながら、会社の人と戯れあい、楽しそうに笑う兄を、如月とロビーから眺めた。
*
ぎゅう。
後ろから同僚に思いっきり腕で、首を絞められる。くるしっ!!! 首を絞めてくる腕を叩いた。
「みたぞ~~佐野~~!!! お前の彼女は年下か!!! しかも可愛い!!」
「ギブ!! ギブギブギブ!! 彼女違う!! 恋人年上!!」
「え」
腕が緩み、首の苦しさが解放される。はぁ、助かった。それ、卯月だし。絶対。神谷がスーツケースを引きずり、俺の隣に来た。
「13くらい上だよ、佐野の恋人」
「まさかのお姉様?!?! 年の差じゃん!! アッチはいいの?? どうなの?? 年上」
「…………」
ニヤニヤしながら俺を見てくる。アッチも何も、まだえっちしたことない……。前戯止まりな俺に聞くな……。恥ずかしくて頬が染まる。
「ちょっと~~照れんなよ!! どうなの! 佐野さぁん!!」
「いやぁ、佐野センパイの恋人、ちょーー美人ですからぁ~~見目麗しい! 色白いし、肌綺麗だし、まつ毛長いし、色っぽいし! アレはキますね~~(男だけど)」
神谷がここぞとばかりに煽ってくる。マジでやめて!!!!
「許すまじ!!! 天誅!!」
「ぐっ…ぐるしっ……天誅やめろ!! やめてぇ~~!! 離してぇ!!」
後ろから再び、同僚に腕で首が絞められ、神谷は俺の頬を引っ張ってくる。何この状況~~っ!!!
上司が呆れ顔で俺たちの前に現れた。
「何やってるの~~」
「抜け駆け反対の刑です」
「見ちゃったよ、朝食の時」
「え?」
ニヤリと笑う上司に、顔が引きつり、固まる。いや、別に良いんだけど。良いんだけど!!! 会社の人に見られるのは、恥ずかしいかもしれない!!!
「杏仁豆腐でさぁ。綺麗な人だねぇ~~。でもまさかだったかな~~。良いと思うよ~~。で、どうなの? どんな感じなの? いいの? 教えて~~! 佐野くん!」
「言わないですよ……」
肩に腕が回され、上司に引き寄せられる。もう、団子状態だ。
「佐野センパイ、泥酔の借りは返してくださいよ」
「なに? 連れこんだの? なにちゃっかり!! 天誅!!!」
「痛っ! うるせぇーーーーー!!!」
あぁ、もう早く帰りたい……。家に帰ってまったりしたい。明日有休を取っておいて正解だった。ゆっくり休もう。
飲みすぎて、失敗してしまったが、如月の気持ちを再確認出来た。
蒼がきっかけで自分のセクシュアルマイノリティもはっきりした。女性への性的欲求がある。でも同様に|如月《男性》へもある。バイセクシュアルかもしれない。
たぶん。
女性にも性的魅力を感じる自分が、男性と付き合うことに、少しだけ不安を覚える。
今はまだ、この不安と向き合いたくはない。如月と一緒に居たい。ただ、それだけ。分かりたくない現実から目を背ける。
慰安旅行がお開きとなり、卯月と如月の元へ向かった。
「卯月、如月。お待たせ。一緒に帰ろう」
「遅いよぉ~~」
「早く帰りましょう」
2人を見ると自然に笑みが溢れる。俺が笑えば、2人も笑顔の花を咲かす。2人の笑顔に、その場の雰囲気が、パッと明るくなり、とても安心する。
この関係が俺は好きで、居心地が良い。
さぁ、帰ろう。
3人で横並びに歩き、帰路に着いた。
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