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14話(6)
もう一度、部屋を見渡す。
なんで床に服いっぱい落ちてるの?! なんで割れたティーカップ片付けないの?! ソファに紅茶かかってそのまま放置?! 何故あんなところにバスタオルが?! てかあそこ! なんで紙が散らばってるの?!
やばすぎでしょ!!
「このまま放置したら危ないって! 怪我するよ! ほら、どいて!!」ソファで執筆する如月の手を引っ張り、退かす。
「ぇえ……」散らばっている紙を集め、割れたティーカップを紙で包む。
「掃除機はどこ?」如月の方を見る。
「あっち」申し訳なさそうに指差す。
床に落ちた服を全て回収し、ポケットの中身を確認してから洗濯機へ放り込む。よし、俺が洗濯もしちゃる。洗濯機を稼働させ、収納から掃除機を取り出す。部屋全体に掃除機をかける。ソファ周りは入念に掃除していく。
「ほら、綺麗になったよ」ソファについた紅茶のシミを濡らした布で軽く叩きながら言う。大方シミは落ちた。
「あ……その……睦月さん」如月は気まずそうに後ろから睦月の服を引っ張る。
「なに?」振り返り、如月の顔を見る。
「……睦月さんのごはんたべたい……」頬を赤く染め、伏し目がちにボソッと呟く。
「もぉ、しょうがないなぁ~~」睦月は目を細め、愛おしそうに、笑みを溢し、キッチンへ向かった。
「……包丁とまな板しかねぇ!!」調理道具の無さにドン引きする。フライパンと小鍋があるのはせめてもの救いだ。
「料理しないので……多分それは皐が買ったものです」はいはい、皐ね。
「上等だコラ!! 作ってやんよ!!」フライパン片手に叫ぶ。皐からもらった買い物袋を台所の上でひっくり返し、材料を確認する。
「誰にキレてるんですかぁ」如月は睦月の背後に立ち、様子を伺う。
「?? ?セロリ? パプリカ? ?いんげん? これ、なんの材料??」もらった時は何か作れそうと思ったが、難解すぎて目が濁る。
「知らないですよ。ねぇ、早く作って?」後ろから睦月を抱きしめる。
「じゃあ、ちゅーして?」横目で誘うように見つめる。
「さっきいっぱいしませんでした?」睦月の顎を持ち、自分の方に向け、口付けする。
「そうだっけ?」睦月は満足気に笑った。
「その材料で何作るんですか?」怪訝な顔でまな板を見る。
「まぁ、見てなって」包丁でセロリ、いんげん、パプリカ、ピーマンを1センチ角に切り、手際よく料理する姿を如月は眺めた。
*
ごま油とにんにく、鷹の爪で野菜と挽き肉を炒めている。あんな変な食材なのに、フライパンからはとてもいい匂いがする。何ができるのだろう。
「ナンプラーは……ないか。鶏がらスープにしよ」鶏がらスープに加え、オイスターソース、醤油、レモン汁を足す。
「チリソースとかないよね?」如月に訊く。
「ラー油ならありますよ」調味料のラックからラー油を渡す。
「ん~~ちょっと違うけど、まぁいいや。ありがとう」ラー油を受け取り、回しかけ、煮込んでいく。
「味見、する?」睦月はスプーンで少し掬い、ふー、ふー、と息を吹きかけ、冷ます。
「良いんですか?」軽く目を瞑り、口を開ける。
「はい、ど~~ぞ」口の中にスプーンが入ってくる。口を閉じるとスプーンが引き抜かれ、口内にはエスニックな味付けが広がった。
「熱くなかった?」心配そうにこちらを見る。
「全然。美味しかったですよ」唇の隅に付いたソースを人差し指で拭う。
「調味料代用しまくりだけど」急に手首を掴まれ、人差し指の先が睦月の口内へ入り、少し甘噛みされる。
「あっ、ちょっと~~」
「美味しいね」睦月は意地悪そうに笑みを浮かべた。
出来上がったものはガパオライスもどき。バジルの風味はない。目玉焼きは乗っているので、なんとなくそれらしくは見える。
「……パンチが足りない」睦月は少し残念そうだ。
「ぇえ? そうですか? 美味しいですよ」美味し過ぎて、幸せ。しっかり胃袋を掴まれている。
「それなら、良かったぁ」幸せそうに笑う顔を見ると、こちらまで、笑顔になる。
今は会いたくない、そう思っていたが、こんな風に笑う睦月の顔を、目の前で見ると、こちらまで、幸せな気持ちになり、笑みが溢れてしまう。距離を置くなんて、無理だ。
ひたむきな愛を感じる。一途にずっと私のことしか見てない睦月が愛しくて堪らなくなる。先のことなど考えないで、同じ愛を返したい。歯止めが緩み始める。
「睦月さん、コピー機直せます?」食べた食器を洗いながら、訊く。
「オフィス勤めの俺に言う~~?」睦月を仕事部屋にあるコピー機へ案内する。
「紙詰まりだね」睦月はしゃがんだり、立ったりしながらコピー機を調べ始める。
第二ボタンまで開いた半袖シャツにスラックス姿。やっぱり、イイ。肩にシャツがピタッとした感じが綺麗に思え、そそる。
「直ったよ、如月!」嬉しそうに笑って報告する姿へきゅん。あぁ、むり!
「キスしていい?」後ろからキツく抱きしめる。
「へ?」フロントカバーを閉じ、コピー機を元の状態に戻している。抱きしめている手でシャツのボタンを更に2つ開ける。
「良いってことで」勝手に同意を取ったことにする。片手で抱きしめ、手でシャツの襟を下げる。見えた首筋に後ろから口付けを繰り返す。
「あぁっちょっ えっ? ここで? あっ」もう頬が赤い。首筋にキスをする度に小さく肩が上がる。かわいい。ま、この辺にしとこ。お楽しみはとっておかなくちゃ。
「好きだよ、だ~~いすき」わざと吐息をかけて煽る。
「~~っ耳元で言うなぁ! お風呂洗ってくる!!」睦月は慌ただしく部屋から出て行った。
その様子を微笑ましく見ながら、後を追う。それにしても、あんなに散らかっていたのに、すごく綺麗になった。すごい。これは一種の才能だ。床に落ちているものは何ひとつない。少し気分が良くなり、掃き出し窓を開け、ベランダへ出る。
「掃除終わったぁ~~」浴室から睦月が戻ってきた。
「睦月さん、こっち」ベランダへ手招きし、呼ぶ。
「んーー?」手すりにもたれ、一緒に外の景色を眺めた。
「如月さぁ、指輪はどうしたのかな?」あ。嫌な汗が出る。
「いやぁ~~……え~~っと……」抜いてどうしたっけ? 思い出せない。
「……ポケットに入ってたよ」お互い黙って、向かい合う。
「…………」手の力を抜き、指先を軽く曲げ、睦月に左手を差し出す。
「…………」睦月は左手で、差し出された手を支えるように持った。
睦月はポケットから指輪取り出す。右手に持った指輪を薬指の付け根まで滑らせるように入れ、はめていく。
「……結婚式みたいですね」睦月の顔を見つめる。
「あなたを一生愛することを誓います」睦月は指輪のはまった指先を軽く持ち、口元に運び、キスをした。
「……何言って……」恥ずかしさと嬉しさで顔と頬が赤く染まる。
「結構本気だけど? 今度ちゃんとした指輪 買いに行かない?」曇りのない瞳でこちらを見つめる。
「……黒はイヤですよ」
本気ですか、睦月さん。
この先訪れ得る輝かしい未来を捨ててまで、一生、一緒に居るつもりですか。まだ、24歳ですよ。決めるには早過ぎますよ。
相手を想って気持ちを抑えることが果たして、睦月のためなのか、分からない。
「夜景、綺麗だね。如月」正面を向き、再び手すりにもたれかかり、遠くを眺める。
「もっと高かったら良かったのですが」手すりに背を向け、寄りかかり、景色を眺める睦月を見た。
「如月、好きだよ」こちらに顔を向け、屈託のない笑みで睦月は言う。
あぁ、私は貴方が好きだ。そんな顔を向けられたら、好きになる一方じゃないか。
「……名前で呼んでよ」無意識に小さな声でぼやく。
「ーーえっ?」
『お風呂が沸きました』軽快な音楽と共にお知らせが響く。
「洗い合いっこでもする~~?」手すりから離れ、如月に詰め寄る。
「いやぁ……そういうのは……ちょっと……」恥ずかしいから絶対やだ!!
「お姫さまだっこで連れて行ってあげようか?」ニタァと睦月は笑う。絶対やだ!!!
「むり……絶対むり!! てかやだ!! 絶対やだ!! ちょっ!! うわぁあ!!」腰と膝の後ろに腕が回り、持ち上げられる。
「むり……むり……おろして……恥ずかしくてしぬ……」恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
「下ろしてっていう割には首の後ろにしっかり手回ってますけど?」抱きかかえたまま、ベランダを出る。
「そ、それは危ないから!」
「如月、窓閉めて」ベランダを出ても依然と下ろそうとしない。
「下ろせば良くないですかぁ……」抱っこされたまま窓を閉める。
「えぇ~~? よいしょ。んーー」睦月は脱衣所へ向かう足が止め、軽く抱き直す。如月を見つめ、口付けをした。
「~~~~っ もうっ!」
「脱衣所着いたよ、お姫さま」足からゆっくり下ろす。
「だ、誰がお姫さまだ……」睦月のシャツのボタンに触れる。
「何してんの?」ひとつずつ、ボタンを外していく。
「お姫さまは王子さまの服を脱がせることにしました」シャツを脱がせ、ベルトに手に掛ける。
「何その物語……」ベルトを抜き取る。
「今作った! お姫さまは王子さまが好き過ぎて襲うことにしましたぁ!」睦月のスラックスを下ろす。
「王子さまは考えました!! 今度は挿れてみたいと!!」睦月は如月のシャツのボタンを外し始める。
「は?」如月は固まった。
「え?」
「それはダメです」目を濁らせ、無表情で答える。
「ぇええぇえええ!!!! なんでぇ!!!」
「睦月さんが私の上に乗って自分で自分の中に挿れるなら歓迎しますよ」シャツを脱ぎ、パンツを脱ぐ。
「それ、騎乗位じゃん……」睦月の顔が曇る。
「そうともいう」薄目で艶かしく睦月に笑いかける。
「いやぁ~~ぇえ~~……」
2人で楽しめればなんでも良いけどね。
洗面台からこっそりバスアイテムを持ち込む。
「何やってんの~~?」浴室から声がする。
「別にぃ~~?」
下着を脱ぎ、浴室へ足を踏み入れた。
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