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20話(2)

「はい」仕方なく、ドアを開ける。 「むっちゃ~~ん! 居るなら早く開けてよーー」旭は睦月に抱きついた。 「やめてぇ~~何しに来たの~~」手の甲で旭の額を叩く。 「…………」旭はじとっとした目で睦月を見る。 「え、何?」旭を見つめ返す。旭は睦月の手首を掴んだ。 「……手の甲が微妙に白く汚れてる」え? 「それは……ちょっと拭いたから」旭から目を逸らす。 「何を? 行為の後のような匂いをむっちゃんから感じる」うっ。 「ぇえ~~……気のせいでは……」視線が右の上の方に泳いでしまう。 「そんなんで騙せると思うなよ」旭は靴を脱ぎ、部屋の中へ上がり込んだ。 「え? ちょっと!! ダメ!! 勝手に入るな!!」旭の背中を追いかけた。 「弥生さぁん!! 大丈夫?! 睦月に変なことされなかった?!」旭はリビングへ行き、声をあげ、如月を探す。 「え? ちょ…まっ……」如月は慌てて下ろされたズボンを上げた。 「……弥生さん……はぁ、ボーナスショット…はぁ…」ズボンを履く如月をいやらしい目で見ながら吐息を漏らす。 「そんなえっちな目で見ないでください……」如月は自分を抱きしめ、防衛した。 「でもなんでズボンなんか下ろしーーま、まさか……むっちゃんが……ぇえ……そんな……良いなぁ……俺にもシて」旭は睦月に近寄り、睦月の顔を手で掴み、下に引っ張った。 「何するの!!! ちょっとやめて!!! 誰がするか!!! もぉ~~何しにきたの!!」 「何しにって……週末のデートの件で来た」旭は睦月の顔から手を離した。  週末のデートの件? なんかあったっけ? あ、そういえば、如月と旭ってデートしなきゃいけないんだっけ?! 「えっ!! 如月、週末は旭と過ごすの?!」如月の方を見る。 「何むっちゃん、話聞いてないの? 今週末は俺と弥生さんでスパ行くから」旭はニヤリと笑みを浮かべ、リビングの床に座った。 「聞いてないし!!!」如月を睨む。 「……食事代と介抱の借りは返さないといけないので致し方なく……」なんで旭の隣に座るの? 「スパである必要ないでしょ!!!」イライラする。 「それは旭さんの希望で……」如月は俯いた。  スパって、お風呂入ったり、岩盤浴したり、本読んだりするところでしょ!! 如月と旭が一緒にお風呂へ入るってこと?! そんなの…そんなの……!! 考えただけで無理すぎるぅううぅうぅぅう!!! 「むっちゃんだって俺と銭湯行ったんだからさぁ。弥生さんはダメっておかしくない?」旭は机に頬杖をつき睦月へ訊く。 「おかしくない!!! だって…だって!! 如月のことえっちな目で絶対見るもん!!」考えるだけで頭おかしくなりそう。 「そういう理由……」如月は無表情で睦月を見つめた。  そりゃ、デートの件は一度承諾した。でも現実を目の当たりにするとやっぱり無理!!! もうこれ完全にデートだし!! 仮に友達であっても、自分以外の誰かと2人で出掛けて欲しくない!! 嫉妬で死ぬ!!  それにスパなんて。  2人でスパなんか行かせたら『あ、旭さんて……あっ……はぁ…睦月さんと違って……はぁ……良いカラダ(妖艶な眼差し)』『弥生さん……俺、我慢出来ない(欲情)』ぐはぁっ!! あり得る!! そんなのだめぇええぇえぇえ!! 「スパとか……スパとか……(妄想)うわぁああぁあぁ!! だめぇええぇぇえ!! 無理ぃいぃいぃいい!!!」睦月は頭を抱えた。 「ちょっと服脱いで、裸同士でぬくぬくするだけだってー大丈夫大丈夫ー。ねっ、弥生さん」裸同士でぬくぬく?!?! 「あぁ、そうですね。体が熱くなって気持ちよくなりますよね」ナニするの?!?! 「うわぁああぁぁああん!!」耳を塞いで絶叫する。 「裸同士で、体が熱くなって気持ちよくなるって…そんなぁ俺っ(※温泉に入る)あぁっ耐えられないっ!!! ぁああぁあぁあ!!!」顔を両手で押さえ、叫ぶ。 「…………」如月と旭は淀んだ目で睦月を見つめた。  どうする? どうする?! 俺!!! このままだと、2人はスパという名の快楽園へ行ってしまう!! 良い解決策を考えろ!! このままじゃ『あ~~ん』な展開になっちゃう!!  睦月は閃いた。 (あ、そうだ!! 俺も一緒に行けばいい!!!) 「俺も行く」これしかない!! 名案!! 「えーーむっちゃん来るとデートにならねーじゃん……」旭は嫌そうな顔をして睦月を見つめた。 「絶対に行く」如月は俺が守る。 「来なくていいってー」旭はシッシッと手で睦月を払う。 「嫁が他の男と会う時、ついて行くのは当たり前」 「束縛の強い旦那だなぁ~~」旭は眉にシワを寄せる。 「まぁまぁ、両手に花(?)ですよ。旭さん」如月は旭の肩をトントンと叩き、嬉しそうに微笑んだ。 「んーー確かに? 良いシチュだけど~~」肩を叩く如月の手を掴む。 「へ?」如月は旭を見つめた。 「んー?」旭は顔を傾け、如月を見つめる。 「…………」如月はきょとんとして、瞬きをする。 「…………いいの?」旭は如月の顔にゆっくり近づいた。  え? 何を見つめ合って……はっ……き、キス?! 「何が『いいの?』なの!!! ダメに決まってんだろ!!!」手のひらを旭の顔にくっつけ2人の間に距離を作る。 「むっちゃん邪魔ばっかする!! 何もしてないのに」事故は未然に防ぐ!! 「もう帰っては如何?!」如月の股の間に座り、壁になる。 「まだ帰らん!!」旭は顔に張り付いてる手を剥がした。 「睦月さぁん、お腹すきましたぁ」如月は睦月を抱きしめ、自分の頬を当て、ぐりぐり擦る。 「あぁ、もぉっ! 今準備しまぁす!!」ぁあっもう少しほっぺぐりぐりされたいっ。 「俺も食べて行っていいの?」旭は睦月に訊いた。 「お前の飯はない、帰れ」如月の頬に自分の頬を押し当てたまま答える。 「むっちゃん冷たいぃー前はそんなんじゃなかった~~俺にもほっぺやってー」旭は睦月の手を引っ張る。 「貴方は誰が好きなんですか」如月は顔を顰め、旭に訊いた。 「ぇえ? イケメンは好物です」旭は2人にウインクをする。 「…………」 「…………」 「2人して黙るなよ。2人とも好き。最高だろ?」何が最高なのか。  旭は立ち上がり、玄関へ歩き始める。 「じゃ、帰るわ~~」旭はチラッと振り返り、如月を見る。 「旭さん、またね~~」如月は旭に手を振った。 「弥生さん~~ばいば~~い」旭は嬉しそうに手を振り返し、玄関を出た。  はぁ、嵐が去った。  如月に声をかける。 「如月、スパのデートが終わった後は如月の家で過ごさない?」こうでもしないと、2人の時間がどんどん削られていく気がする。 「もちろん」如月は目を細めて笑った。  あーあ。嫉妬からかな。シたくなってきた。まぁ、元々、スッキリしたの如月だけだし。 「えっちしよ」如月を見つめる。 「何突然……」如月の表情が曇る。 「いいじゃん。卯月寝てるし。なんかむらむらする」肩に手をかけ、押し倒す。 「はぁ?! 何言ってるんですか!! しませんよ!!!」ぐぬぬ、手で抵抗してくる。 「お願い、ちょっとだけだからぁ~~すぐ終わる~~」如月のシャツの下に手を入れる。 「睦月さぁん!!!」あっ、突起っ。 「っ……あっ、ちょっ ダメ!! お腹空いた!!」如月は睦月の肩を掴み、押し上げる。 「俺もお腹が空きました。如月が食べたいです」じーー。 「ーーっもう何言ってるんですか!!」顔赤くなってるし。 「卯月、卯月、ここにいます~~卯月もお腹空きました~~」あ~~うるさいの起きた。 「睦月さん、ご飯にしましょう!!」はぁ。諦めて、如月から降り、キッチンへ向かう。 「手伝いましょうか?」後ろから如月の声がした。 「手伝ってくれるの?」ガスコンロに火をつけ、麻婆豆腐を木ベラで軽く混ぜる。 「うん。出来る限り睦月さんと一緒に居たいから……」如月は引き出しから片栗粉を取り出した。 「……俺がいつか居なくなるみたいな言い方しないでくれる?」如月の目を見つめる。 「え……? そんなこと……思ってないですよ」如月は寂しげに薄い笑みを浮かべた。  なんでそんな寂しげに笑うの? 俺が言わなければ自分からは別れるつもりはないんでしょ。如月は俺がいつか居なくなると思ってるの……?  あれ? なんでだろう。涙が出てきちゃった。うぅ。自分とは違う未来を描いているような気がして胸が苦しい。 「ちょ……なんで泣くんですか……」如月は睦月の瞳から流れる涙をみて固まった。 「……っ…分かんないっ……けど……かなしくなっちゃって…っ……ごめん、なんでもないから気にしないで」手の甲で涙を拭い、無理やり笑って見せる。 「いや、気にしないとか無理でしょ。どうしたの? ほらおいで」如月は軽く両手を広げた。 「いや……ほんと……っ……ごめん……っ」如月の腕に包まれる。 「何? 言ってよ」如月は片手で睦月の頭を撫でた。 「っ…本当になんでもないから……ごめん。今は少しだけこのままで居させて……」そっと腕を背中へ回す。  本当は訊きたい。でもそう感じたのは俺の杞憂で何もないかもしれない。杞憂程度でこんなにメンタルやられる俺自身もどうかしている気がする。 「んー……ごめんね?」 「え?」顔を上げ、如月を見る。 「発言的に私のせいかなぁって。将来は不安に思ってるよ。20代みたいに突っ走れるほど若くないですからね」如月は睦月の頭を撫でながら、話す。 「睦月さんが私のそばから居なくなる可能性は捨てない。あらゆる可能性を天秤にかけ、自分の人生を決めていく。それぐらい慎重なんです」如月は睦月の目を見つめた。 「涙が出た理由、合ってた?」眉を八の字に下げ、申し訳なさそうにしている。 「うん、まぁ……でも……」続きの言葉を発するのをやめ、口をつぐむ。  同じ未来を描きたいなんて、安易に言っても良いのか? 如月の可能性の中に俺とずっと一緒にいる未来はあるのか?  それに俺は今後、リアルに如月とどうなりたいんだ? ずっと一緒にいるとはどういうことを指すのか。そんなことも分からないのに簡単には言えない。 「でも?」如月は訊き返す。 「……なんでもないよ」目を閉じて、口元だけ笑って見せる。 「そんな訳ないでしょ……こんなに泣いてるくせに」静かに流れる涙を如月は人差し指で拭き取ってくれた。ごめん。 「最近泣いてばかりで情けないなぁ」少しずつ落ち着いて来た。 「言えないことなの?」真剣な眼差しで見てくる。 「如月のことが好き過ぎて悩んでるとしか言いようがないな」眉を下げ、困ったように笑う。 「その悩みを聞いているのに。睦月さんのばーか」キツく抱きしめられた。ありがと。  だって言えないし。如月と出会って、半年は過ぎている。恋人になって2ヶ月程度。毎日共にする衣食住は重みがある。今まで目を背けてきたけど、少しずつ考えないと。将来のこと。 「ばかとはなんだ、ばかとはぁ~~片栗粉入れたら完成だよ」片栗粉を水で溶き、如月に渡す。 「ありがとうございます」如月はフライパンの中に水溶き片栗粉を入れた。  木ベラで混ぜなから如月を見る。目が合い「お腹空いたね」と、お互い笑った。

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