124 / 141

27話(2)神経衰弱という名のクソゲー?!

 お揃いの時計を買い、気分は上がるが、やはり、距離がある。さっきだって、頭じゃなくて、普通にキスしてくれても良くない? プラネタリウムだって、折角のシートなのに、変な距離取られて、何? なんなの?  最終的にはシートも距離は詰めてくれたし、全く俺に対して触れてこない訳じゃなくて。  手を握ってきたり、頬に触れたりはしてくる。プラネタリウムのとき、アレ絶対、キスする流れだったのに、なんで急に手を引っ込めた? 急に顔を隠して意味わからん。俺から攻めれば何か分かる?  特にどこか行く場所もなく、フラフラと2人で、館内を歩く。如月が「あれ」とカフェを指差した。 「カフェだね、入る?」少し歩き疲れたし、休憩するには良いかもしれない。 「入ります~~」なんだか楽しそうでなにより。  宇宙をテーマにしたカフェはSNSに映えそうなメニューばかりだ。星屑を散りばめたような品々はとても綺麗。これはどれにしようか悩む。 「ドーナツかソフトクリームか……」如月も悩んでいる様子。 「両方頼んでシェアしよ」提案すると、嬉しそうに如月が頷いた。  ソファ席に座り2人でドーナツとソフトクリームを食べる。銀河のようなドーナツは幻想的だ。ソフトクリームも雲のようなものに囲われ、美しい。食べるのが勿体無い。 「睦月さん、プラネタリウム連れてきてくれてありがとう。楽しいです」如月は目を細め、笑った。 「如月が喜んでくれるなら、行きたいところどこでも一緒に行くよ」その笑顔が見れるだけで幸せに想う。  半分ずつ分けて食べたドーナツとソフトクリームは美味しくて、いつの間にか全て食べてしまった。 「次、どこ行く?」如月に訊く。 「そろそろ良い時間では?」時計を見ると16時。帰ったら丁度夕飯時。 「じゃあ、一緒におうちでご飯食べよ」  距離感や如月の態度は気にはなるが、家に帰っていっぱいいちゃいちゃしよう。そうすればこの分からない原因もきっと分かるはず。  ーー帰宅  今日はめかじきの煮付け。砂糖、醤油、みりんで両面焼く、甘辛い照り焼き。フライパンを回しながら片面ずつ焼いためかじきにタレを絡める。 「美味しそう……」後ろから如月が覗いた。 「冷めるとかたくなるから早く食べよう」お皿にめかじきをフライ返しで移す。  いや、違う。違わないけど。後ろから覗く前にいつもならハグでは? モヤモヤ。ハグして『何作ってるの?』とかそういうのいつもなかったっけ?! いちゃいちゃする前にいちゃいちゃ減ってない?!  これはもしや倦怠期?!?!  あり得る!!! 毎日顔を合わせていたら、飽きや慣れが来るのかも!!! そこから面倒とかイヤになって、いちゃいちゃしなくなってるとか?!?! なんてこと!!! 「……はいどうぞ」お皿に移しためかじきを如月へ渡す。 「なんでそんな不服そうな目で見るんですか」如月はめかじきを受け取り、リビングへ運んだ。  不服? そりゃ不服だって!!! 変な距離取られて、いつもよりいちゃいちゃ度が下がってるとか不服と不満しかない!!!  お椀にお玉で味噌汁を入れながら考える。これはいちゃいちゃ度を上げる必要がある。このまま如月に合わせて、倦怠期を過ごしていては、いちゃらぶメーターはこのまま下降する一方だ!!!  無論、俺は倦怠期ではない!!!  いつでもどこでもいちゃいちゃしたい!!  攻撃こそ最大の防御!!!(?)  倦怠期をぶっ飛ばすほどのいちゃつきをして、いちゃらぶメーターを上げる!!! そうすれば、慣れや飽きもなくなって愛が深まる!!! 完璧!!! 「如月!! 味噌汁運んで~~」如月に味噌汁のお椀を2つ渡す。 「はいはい」お椀を受け取る如月はどこか面倒くさそう。倦怠期確定だな。  茶碗にご飯を盛り付け、リビングへ持っていく。なんだこの食器の配置は。向かい合って食べるように食器が並べられている。2人で食べるんだから、横並びかL字にしてよ。  これも倦怠期のせい?!?! 関心がなくなってるから正面に配置した的な?!?! 「なんで正面?!?!」食器の配置を横に並べ直す。 「え……それは…その……なんとなく……」なんてハッキリしない!! 「2人きりなのに正面はないでしょう~~」如月の隣に座る。 「「いただきます」」手を合わせ、夕飯を頂く。 「睦月さんのご飯が1番です」そう言ってもらえると、作って良かったと思える。  ぽろ。  箸から掴んでいためかじきがテーブルに落ちた。 「落としちゃったぁ」  箸で掴み直し、口を開け、口元へ運ぶ。ん? なんだ? 如月の凝視するような視線に気づく。横目で如月を見る。ゆっくり、顔を逸らされた。え、何?  訝しみながら、落としためかじきを食べる。コップに麦茶を入れようと、腕を伸ばす。 「あっ……ごめん」肘が隣に座る如月に当たった。 「は……え……大丈夫です」なんで頬が赤くなってるの?  コップにお茶を注ぎながら考える。なんかさっきから様子が変なのでは? ごくごく。入れたばかりの冷たいお茶を飲む。この飲んでいる時でさえ、少し視線を感じる。  一体、何をそんなに見て……。 「あ、麦茶、飲む?」如月のコップに麦茶を注ぐ。 「……ありがとうございます」なんか気遣う!!!  特に何か会話することもなく、食事を終え、接触を避けるかのように、如月は和室へ行ってしまった。  そもそも会話減る=倦怠期!!! 倦怠期と思い始めたら全てが倦怠期に見えてくる!!! でもさっきなんであんなに見られたんだろう? よく分からないなぁ。  テーブルに残された食器を重ね、台所へ運ぶ。同棲してるから、如月にとって、俺は恋人から家族みたいな感覚になってるのかな。  スポンジを手に取り洗い物を始める。倦怠期をぶっ飛ばせるほどのいちゃつきってなんだろう? う~~ん。  あ、でも、2人で遊べて、少し刺激的でちょっとえっちなら良いのかな? 良いこと思いついたぁ~~。  睦月は鼻歌を歌いながら、使った食器を片付けた。  *  咄嗟に逃げてきてしまった……。  食事ですら、全てがえっちに見えるとか。開けた口をみた瞬間、えっちな妄想が頭に!!! あのおくちに私の……。ぁああぁああぁあ!!! 最低!!!!  お茶を飲んでいるだけなのに、お茶で濡れた唇がすごくえっちに見えた!!! キスを誘ってみるみたいに桃色で……。ぁああぁあぁあぁあ!!! 「だあぁあああぁああ!!! 頭が腐っている!!!!!」壁に額を打ち付ける。じぃ~~ん。いたい。 「どうしよう、一旦、頭の中をリセットせねば!!!」じんじんする額を手で押さえ、考える。  スパン!!!  勢いよく、和室の襖が開いた。 「如月!!! トランプしよう!!!」はぁ? 「トランプですか……」急に現れて、トランプを見せつける睦月に戸惑う。  睦月はトランプを裏向きにひっくり返し、畳の上へ広げ、ぐちゃぐちゃに混ぜ始めた。一体、今から何をするというのか。 「神経衰弱をする!!! 1セット揃ったら、1いちゃいちゃ。負けたら勝った方の言うことをひとつ聞く!!!」睦月は片目を瞑り、誇らしげに言った。  な、なんてひどいくそげーー!!! どっちが1セット揃えても確実にいちゃいちゃしなければならないルール!! そんなことやったら、頭の中がえっちな睦月さんでいっぱいな私はどうなるんだ!!!! 「俺の番ね」  私の同意とか関係なしに、もう始まってるし!!!  睦月は重ならないようバラバラに並べられたトランプを2枚捲った。カードは揃わなかった。心の中で安堵する。仕方がないので、トランプの近くに座り、2枚カードを捲る。 「あ……あ…揃った……」1いちゃいちゃゲット。 「何する?」どういうゲームこれ!! 「ハグで」安全性を取る。  座っている睦月を後ろから軽く抱きしめる。  ぎゅ。  はぁ。少し体温が高くて、甘い良い匂いがする。離れ難い。頭に頬を付け、少しだけ頬擦りをしてから、睦月から離れた。 「まぁまだ始まったばかりだし、ゆっくり楽しもうね、如月」なんかこわい。  まだ腕に残る睦月のぬくもり。軽くじゃなくて、もっと強くギュッと『ぁあっきさらぎ…そんなに強く抱きしめたら』だあぁああぁあ!!!! 「うわぁああぁあぁああ!!!!」如月は頭上で妄想を消すように手を振った。 「どしたの?」不審そうに見てくる。 「な、なんでもない!!! はぁはぁ」頭を押さえ、一旦、気持ちを落ち着かせる。  早くこの神経衰弱、終わらせねば!!! 「あぁ~~また外れだぁ」よしっ!! 「次は私の番ですね」  適当に捲る。外れた。睦月さんが覚えていれば、確実にカードが手に入る数字をめくってしまった。大丈夫か? 「次俺ね~~、これとこれ」完全に獲りにきた!!!! 「はぁい! 揃ったぁ~~」めっちゃ嬉しそう。 「……1いちゃいちゃゲットですね」何するんだろう。 「うん! 如月、ちゅーして?」睦月は瞼を閉じた。  もはや、これは新手の王様ゲームなのでは?!?! 要求ってアリなの?!?! 揃ったら好きなこと出来る的な?!?! いちゃいちゃには間違いはないか?!?!  そう思いつつ、睦月の唇に口付けする。  ちゅ。  ぁあぁああぁあ!!! このまま抱きしめて、押し倒し、深く口付けしたい!!! 湧き上がる性的欲求を一生懸命抑える。  もうこれは、睦月さんにはカードを与えてはいけない!!! 私がカードを揃え、軽いハグ程度で全て済ませるのが無難!!! じゃないと抑えきれなくなる!!!  カードを2枚捲る。揃わなかった。睦月に揃えるヒントを与えた。意外と難しいな、神経衰弱。 「やったぁ~~揃ったぁ」私がヒントを与えたからな!!! 「……よ、よかったですね」 「じゃあ、次は深くキスして?」大きな瞳で見つめてくる。くっ。  また要求……。 「………ん……っん…ん…ふ……はぁ…んん…」  隣に座る睦月の顎に手を添える。見つめ合う瞳に緊張しながら、自分へ近づけ、唇を重ねた。少し開いた唇の隙間から、舌を差し込み、深く絡める。静かな和室に響く、粘液の音が更にいやらしい気持ちにさせる。 「ーーはぁっ……良いですかね……」性的な気持ちが溢れ出して、睦月を直視出来ない。 「……もうちょっとしたかった……だけど…とりあえずは……」睦月は頬を少し染め、恥ずかしそうにトランプへ目線を移した。  何その顔!!! あぁ、もう無理なんだけど!!! どうしよう!!! シたくて堪らない!!! なんのために距離とってきたの!!! まるで意味なし!!! こういう気持ちも愛から来てるってことで良いですか?!?!  大切に想ってる気持ちは変わりない!!! 心も身体も愛してる!!! こんなえっちなことばかり考えちゃう私を許して!!!  まぁ、でも、どうせえっちするなら、この睦月さんが作り出した状況を楽しみたい。  そう考えると頭の中で渦巻いていたものはスッキリし、切り替えされ、目に力が入った。あれ? この神経衰弱、実はすごく楽しいんじゃない? 自然に目が細まり、妖しい笑みが溢れた。

ともだちにシェアしよう!