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29話(2)雨に濡れた訪問者?!キスしても俺たちは友達です?!

 ーー夜  コンクリートを打ち付ける強い雨音が外から聴こえる。如月がいないせいか、部屋の中がいつもより静かで、激しい雨音だけが部屋に響く。それが余計に淋しさを誘う。 「如月、夜ごはーー居ないんだったぁああぁああ!!!! あぁああぁあ!!! さびしいっ……」  ご飯を作っている最中は料理に集中し、全てを忘れることが出来る。無意識に用意してしまった3人分の夕食。それに気づいた瞬間、如月が居ない現実に戻され、淋しさで胸が苦しくなる。  さびしさを誤魔化すように、自分の腕を抱く。 「お兄ちゃんキモ……」引いたような目で見てくる。 「だってさびしいんだもん……」  もう如月は実家に着いただろうか? なんの連絡もないから分からない。送り出した時、あんなにいちゃいちゃしたのに、もう何も思い出せない。  いちゃらぶエネルギーが切れそう!!! いや、むしろ切れているに等しい!!! 「あぁああぁあぁあ!!! さびしぃいいぃいい!!! 如月ぃぃぃ!!!」睦月は自分を抱きながら叫んだ。 「お兄ちゃん、うるさい。てか、ご飯3人分用意したの? バカじゃないの~~」机に並べられた3人分の夕食を見て、卯月は呆れた。 「いつの間にか手が勝手に……はぁ」もうさびしくてしにそう。  はぁ。淋しい、淋しい。まだ1日も離れていないのに、この淋しさ。写真を見ても、匂いを嗅いでも、妄想しても、やっぱり実物には敵わない!!! 何をしても淋しさは埋められない!!! 「明後日には会える明後日には会える明後日には会える」呪文のように唱え、自分に言い聞かせる。 「台風近づいてるけど、会えるの?」卯月は夕食を口に運びながら首を傾けた。  え、台風? 確かに雨は強い。台風が近づいてきたら如月に会えない?! 俺が会いに行けなかったら、千早と如月が2人で会ってしまう?!?! そんな!!! 嫌だ!!! 「会えなかったらどうしよう!!!」 「いや知らんし……早めに会いにいけば」心なしか卯月の目が冷たい。もぐもぐ。 「なるほど!!!」  よし!!! 台風が来る前に早く会いに行く!!! これしかない!!! 体調不良で明日、仕事休もう!!! 1日前倒し作戦!!!  ピンポーン  こんな夕飯時に誰? まさか如月が帰ってきたとか?!?! 台風だし?! もしそうなら嬉しい!!!   足早に玄関へ向かい、覗き穴から相手を確認する。はぁ。ガッカリ。またお前か。何故来た。ドアの向こうにはびしょ濡れになった旭が立っていた。 「……どうしたの? 大丈夫?」ドアを開け、家の中へ招き入れる。 「雨すごくてさぁ、傘持ってなくて。駅から近かったから来ちゃったー、ねー今日泊めて? 帰れん」良いなんて言ってないのに勝手に靴を脱いで部屋に上がっている。  泊めてと言われても……。如月はいないし、ここで旭を泊めたら俺は如月に言ってることと、自分のやってることめちゃくちゃになってしまう。  脱衣所へ向かい、棚からタオルを取り出し、リビングへ行く。 「卯月ちゃん、こんばんわ。ご飯おいしそーー!!」 「ばんわ~~1食分余ってるよ、食べれば」卯月は手のつけていない食事を指差した。 「えーいいの? いただきまーす」旭は腰を下ろし、食事に手をつけた。 「ちょ…なんか食べてるし!!! 旭……うちに泊まるのは考えさせて!!!」旭の頭にフェイスタオルを被せる。  せめて、泊まらせるなら許可取らないと!!! 俺の家なのに許可ってなんか変だな!!! でも勝手には泊めたくはない。まぁ、旭をうちに泊めるなんて、如月が許可するわけないと思うけど。 「タオルありがとー。泊めてー、お願ーい。いくとこないのー。ご飯おいしー」めっちゃ食ってる!! 「今からメールで訊く!!!」スマホを取り出し、メール画面を開いた。 【旭が台風の影響で家に来た。泊まりたいって。泊めていい?】送信。 【いいのでは】即レス!! しかもいいの?!?! ダメでしょ!!! 「……良いって……」少し旭を警戒する。 「やったぁーありがとー」いつもの旭。何も変わりはなさそう。  まぁ、大丈夫か。卯月もいるし。  夕飯を食べ終わり、食器を重ね、キッチンへ運ぶ。一食分多く作ってしまったが、旭が食べてくれたおかげで無駄にならず、済んだ。良かった。  何も考えずに、無心で汚れた食器を洗っていく。そうやって洗わなければ、さびしい気持ちが全面に出て、ぼーっとしてしまい、手が止まる。 「ふぅ。洗い物終わり。休憩~~」タオルで手を拭き、リビングへ向かう。 「あ、むっちゃん~~」座ってスマホをいじる、旭と目が合った。  いつも居る人がいなくて、居ない人がいる状況に、なんだか、心が休まらない。致し方なく、隣に座り、リモコンでテレビを付ける。  大して何も面白くないテレビ番組だが、何も考えずに見て、笑うことができるのは少し気が紛れる。 「ちょ……何して」後ろから腕を回され、旭の元へ手繰り寄せられた。 「え?『友達』もこれくらいするでしょ」背中から旭の体温を感じる。  友達とは……。背後から抱きしめられ、座って一緒にテレビを見るのは友達? 神谷とはしないな。あ、でも卯月と如月はしてる? ということは、まぁ、これは友達としてあることなのか? 「むっちゃん良い匂い~~はぁ」首筋に旭の鼻が当たった。 「……如月にも言われる」密着感に少し緊張する。  ……これは友達? テレビより旭が気になる。いやでも、匂いがしたら、嗅ぐか。如月だって、よく卯月の匂いを嗅いでる。(※背中に顔をくっつけてるだけ)  旭の行為が『友達同士でも普通にやること』と都合の良いように、自分で解釈している気がしてならない。朝以降、如月といちゃいちゃしていない身体は、旭と触れ合うと少しだけ、ドキドキした。 「なんで弥生さん居ないの?」 「実家に帰ってる。明後日は会う予定だけと、1日早めちゃおうかな~~」相手が旭でも、包まれていると少し落ち着く。 「へーそうなんだ。じゃあ2日くらい泊まろうかな?」旭は睦月の顔を覗き込んだ。 「なんで?」旭を見つめる。  如月のこと好きになったんじゃないの? 急に何? 変なの。腰回りを抱きしめる腕に、色んなことを意識してしまう。欲求不満なのかな。はぁ。 「なんかむっちゃん大人しいね。何か俺に求めてる?」旭はニヤッと笑い、睦月を見つめた。 「……何も求めてない。如月が居なくて淋しいだけ」  気まずくて、旭から目を逸らす。何も求めてないと言ったら嘘だ。現に、抱きしめられてさびしさを紛らわせている自分がいる。  旭に気持ちは何もない。そもそも旭をそういう目で見たことないし。でも感情とは裏腹に、身体は後ろから伝わる旭の全てに、鼓動が早くなる。はぁ、どうしよ。風呂でも入ってもらおう。 「旭、お風呂入ったら?」  この抱きしめられている状況も早く脱した方がいい。旭を促す。 「今卯月ちゃん入ってるよー」失敗。 「そっか。なら、お風呂あがってからで」  返信の来ないスマホを見つめる。俺のこと心配じゃないの? 旭に何かされてないかとか思わないのかな。気が狂うくらい心配するほど、俺に溺れてほしい。  そういえば、如月の口からは俺と離れてさびしいなんて出なかったなぁ。さびしいと思うのは俺だけ? つら。 「はぁ、さびしい」愚痴るように言葉を漏らす。 「俺が淋しさを埋めてあげようか?」旭の手が頬に触れた。 「どうやって?」旭の顔をじぃっと見つめる。 「どうやってって……こうやって」旭の手がTシャツの下に入ってきた。 「っん……」どき。素肌に触れる手に頬が少し染まる。  ただ、Tシャツの下から抱きしめられてるだけ。何かされてる訳ではない!!! と、友達!!! そう、友達!!! 感じない!! ドキドキとかしないし!! 卯月、早く風呂上がれ!!! 「直に触った方がぬくもり感じて淋しくないでしょー」どういう理論……。 「別に直じゃなくていい……」身を少し乗り出し、床に置いたスマホへ手を伸ばすと、旭の指先が胸の先端に当たった。 「ぁっ……」最近すごく感じやすくなってる身体。少し触れただけで、肩がビクッと上がった。 「むっちゃ……」旭の頬が赤く染まり、驚く。変な空気にはなりたくない。 「ひどい!!! 友達なのに!! 触るなんて!!!」振り向き旭の頬を横に引っ張る。 「痛い!!! え? 触ってないし!! むしろ当たりに来たことね?!」むぎ。頬が旭に引っ張られた。 「いったぁ!!! 違う!! 俺スマホ取っただけ!! なのにどさくさに紛れて指先で触った!!!」頬を引っ張って動かす。 「痛いな!!! 俺は指先ひとつも動かしてねー!!」 「2人で何やってんの?」お風呂から上がった卯月が呆れた目で見てきた。 「むっちゃんと戯れてるの~~」幸せそうに旭が答える。 「戯れてないわ!!! ほっぺ痛いし!! 服の下に手入れるし!!! 何もう!!! 旭ばか!!!」引っ張られていた頬は離され、今度は両手で頬が挟まれる。 「むっちゃんのくせに口達者!!! くそ生意気!!! も~~うるさいな!!!」  ちゅ。  え。思考停止。 「はぁーーやっと静かになった」満足気な笑みを浮かべ、こちらをみている。 「っだぁああぁああ!!! 如月のキスが……キスが…上書きされたぁああぉあぁ!!」口元を手で押さえる。涙出る。 「じゃあ、風呂入るんで~~」旭は立ち上がり、脱衣所へ向かい歩き始めた。 「お前家から追い出す!!! 帰れーー!!!!」旭の背中を追いかける。  ピシャ。  脱衣所のドアが閉められた。 「…………」  もういちゃらぶ不足。さびしい。しぬ。  やっぱり明日仕事休む。  明日会いに行くもん。  リビングへ戻り、如月のことを考えながら、寝転がり、丸まった。  ごろん。  ーーーーーーーーーーーー  ーーーーーーーー  ーーーー    

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