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12話(3)ストーカー男に振り回される私は愚か者?!幸せそうな2人が私は大好き!
有休休暇を取らされた。確かに、消費はしていなかった。勤続年数が地味に足りず、まとめて取ることが出来ない。
こんな週末明けの月曜日に取るなど、この世の終わりだ。することも特にない。1人は寂しいな。
携帯を手に取り、電話をかける。
『もしもし? 僕もうすぐ出勤なんだけど?』
「今すぐうちへ来い。待っているよ、湊」
『はーー』
ぶち。
くるか、来ないかは湊の自由だ。別に来なくてもいい。私には、今、そばにいてくれるやつは|湊《こいつ》しか居ない。
私の我儘に、なんだかんだいつも付き合ってくれる。
1時間程経ち、家のチャイムが鳴った。本当に来たのか。バカだな。玄関を出て、出迎える。
「皐さん、僕の返事は無視ですか?」
「来る、来ないは、自由だ。お前が選んだことだよ、湊」
「来いって言っといて、人に|擦《なす》りつけるなんて、ひどいなぁ。中、入らないの?」
「……私の家は何もないからな」
私も愚かだ。湊が来る前提で、出かける準備をしていた。来なかったら、どうするつもりだったのだろうな。湊が嬉しそうに笑みを浮かべ、口を開いた。
「どっかいく気満々だね? 僕クールビズ だけど良いかなぁ?」
「あぁ、構わないよ。では、私もワンピースからブラウスとスカートに変えることにしよう」
一度部屋に戻り、服を選ぶ。後ろから湊に声をかけられた。勝手に部屋へ上がって図々しい。だからといって、どうもしない。
「僕さぁ、皐さんのこと好きなんだよね」
真面目な顔で、私のことを『好き』だと言い始める湊に驚き、思わず、服を選ぶ手が止まる。いや、驚くことではない。分かっていたことだ。
「タイミングがおかしい」
「それはあるね~~でも、今言いたくなった。だって、僕のために選んでくれているんでしょ、服」
「…………」
湊が私に近づき、顔を寄せる。キスでもするのか? いいだろう。近づいた顔に、軽く唇を重ねた。
「ーーんっ……ちょ……皐さん?」
「まぁ、セフレくらいにならしてやってもいい」
頬を赤く染める湊を見て、笑みが溢れる。こんな可愛い一面もあるのか。
これでも、それなりには愛している。だが、こんな若い奴と、恋人になるなどあり得ない。これ以上の関係は考えられない。
「セフレですか。本気? 自分の顔、鏡で見たら~~?」
見なくても分かる。こんなしょうもない告白だというのに、私の顔は熱い。私は、自分をつけ回すような、くだらないストーカー男に振り回されている。
毎日かかってくる電話を待つ自分も鬱陶しいし、会いたいと思い、こうやって、相手の都合も考えず、呼びつける自分も愚か者だ。
「友達以上恋人未満だね、湊」
「セフレ枠に僕をしないでよ?」
湊が私の隣に座り、並べた服を手に取った。一緒に選んでくれるのか?
そういえば最近、弥生のことを考えていないな。
あぁ。私の生活が湊に毒されていくーー。
*
「ただいまぁ~~」
学校が終わり、帰宅する。今日は兄もいるはずなのに、誰の返事も聞こえない。変だなぁ。玄関でスニーカーを脱ぎ、廊下に上がると、強烈な臭いが鼻を突いた。
「くっさ!!!」
納豆? これは納豆か?!?!
廊下を進み、リビングの閉まっている窓を、全て開けていく。換気換気換気!!!! 部屋の中は納豆の臭いが充満している。一体、何を食べたの??
「痛っ!!!」
何かを踏んだ。足の裏を見る。人生ゲームのピン?? 辺りを見回すと、人生ゲームで使うお札や駒が散乱していた。なんじゃこりゃ!!!
「もう~~」
ある程度、両手で、かき集めて拾う。テーブルの上に置こうとしたが、トランプが散らばっていて、置けない。おまけにノートパソコンが2台と、炒飯を食べたであろう大皿、そして、スプーンも放置されている。
「勉強出来ないじゃん!!」
トランプを束ね、ケースに仕舞う。ぱたっ。足に何かが当たった。
カタカタカタカタ……
下を見ると、ジェンガでドミノ倒しが作られていた。どうやら、足で触ってしまったらしい。なんの捻りもなく、蛇のように並べられたジェンガは、次々と倒れ込む。
どこに続いているのかな? 僅かな音を立て、倒れていくジェンガの先を追う。連鎖は終わりを迎え、最後のひとつのジェンガが、消しゴムに当たった。
消しゴムに何か紙が付いている。消しゴムを手に取り、確認する。
『卯月おかえり、いつもありがとう。むつき、やよい』
なんなのさ。もう~~。
でも、その張り紙に、笑みが溢れる。
ジェンガの側で寝転がり、如月に後ろから抱きしめられながら、幸せそうに寝る兄の姿があった。
如月の右手には、スマホが握られており、面白いのか分からないような動画が、垂れ流しになっている。
一緒に見ていたのかな。それで眠くなっちゃったの? 気持ち良さそうに眠る、2人の寝顔を見つめた。
「部屋汚いし~~」
いい大人がこんなに散らかして遊ぶなよ。
駒やピンを足で踏まないように避けながら、和室へ向かう。薄手の毛布を抱え、リビングに戻る。
兄と如月の寝顔を交互に見つめた。如月の手から、そっとスマホを取り、動画を止める。2人に一枚の毛布をかけた。体を寄せ合い、寝ている姿は、こちらまで幸せな気持ちになる。
「一枚でいいよね? らぶらぶだもん」
2人でいっぱい遊んだのだろう。仕方ない、私が片付けてあげよう。
すーすーと寝息がリビングに響く中、散らかった部屋を静かに片付ける。普段は見ていて、鬱陶しく感じるいちゃつきも、今は少し、微笑ましく思えた。
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