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第12話

 触り合いをして抜いた日、風呂から上がってきた伊織に雄大はもう一度「俺のこと好きなの?」と確認してみた。けれど、伊織から返ってきた言葉は「そりゃあ、友達だからな」という何とも普通の答えだった。 (あんなの、絶対違うやつじゃん)  あんな状況で言われたのだ。伊織の好きが、友達の好きではないことくらい、わかる。それなのに、伊織は「もういいだろ? 恋人ごっこは終わりな」と言ってきたのだ。 (何が、『もう、満足しただろ?』だよ? 伊織のバカ)  一方的に交際を解消してきた伊織の態度が気に食わない。  ポケットから携帯を取り出し、伊織にメッセージを送ってみる。 『今日バイト?』 『いや、休み』 『じゃあ、どっか行かない?』 『行かない』 (なんなんだよ。友達、って言ったくせに……)  今まで伊織は雄大のお願いをたいてい何でも聞いてくれたのに、雄大が続けると言っても聞いてくれなかったのだ。聞かないなら友達をやめると脅されたから、頷いたのに、距離を取られている、気がする。  ここ一週間、ずっとこの調子だ。 (うーん。マジで最強にわかんねえ……。つか、最短じゃん)  歴代彼女も驚くくらい早い交際解消だ。遊びではあったけれど、これほど早いのははじめてである。  今まで付き合った子たちに別れ話をされたときも意味がわからなかったけれど、今回はそれ以上にわからない。  伊織と抜き合いをした日、普通に楽しかったし、嫌なことは何もなかった。触り合ったのも気持ちよかったし、伊織だって達したのだから、それなりに良かったはずだ。交際を解消される理由が見当たらない。 (聞き間違い、とか? いや、でも……)  確かに『好きだ』と聞こえた気がしたのだけれど、間違いだったのだろうかと考えて、そんなはずはないと思いなおした。雄大が確認したとき、「それ聞いてどうすんの?」と聞かれたけれど、伊織は否定しなかったのだ。 (好きならなんで別れたいんだ?)  雄大のことが好きならば、別れる必要がない。伊織の考えていることが理解できなくて、雄大は「あぁ!」と声を出し、立ち上がった。鞄を掴み、荷物を捻じ込んで肩にかける。足早に玄関に向かって靴を履き、家を出た。

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