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第13話
「伊織! いるんだろ? 開けろよ!」
伊織のマンションに向かった雄大は、連続でインターフォンを鳴らし、ドアを叩いた。けれど、伊織の応答はない。
(居留守か?)
何も予定はないと言っていたのだから家にいるはずなのに、と思いつつ電話を鳴らす。ドアの向こうからわずかに着信音が聞こえた。
(電話も無視かよ……)
雄大がきていることがわかっていて、電話に出ないのだろう。インターフォンも鳴らしたし、ドアも叩いている。気がつかないわけがない。だんだんと腹が立ってきて、雄大は秘密の道具を鞄から取り出した。
伊織宅の合鍵である。
鍵穴に鍵を突っ込んで回し、ドアを開けようとした。けれど、ドアは十五センチほどしか開かなかった。
「勝手に開けんなよ。行かないっつったろ?」
開いた隙間から、不機嫌そうな伊織の声が聞こえた。
「納得いかない! なんで別れんの?」
「はぁ? もともと遊びなんだし、納得も何もないだろ?」
「それでも納得いかねえの! だって伊織好きって言ったもん」
「言ってない」
ドアを閉めようとしてくる伊織に対抗してドアを引っ張る。
「絶対言った! 『聞いてどうすんの?』ってどういう意味⁉ 別れんのと関係あんの⁉」
一週間考えて、それでもわからなかったのだ。わからないなら、本人に直接きいたほうが早い。意味がわからなくてモヤモヤするのは苦手だ。
「うわっ、……ってぇ」
「雄大!」
聞きたいことを言ったら、ドアを引いていた伊織の力が弱まった。同時にドアが勢いよく開いて、バランスが崩れる。
尻もちをついた雄大に向かって伊織が手を伸ばしてくる。手を掴んで立ち上がり、雄大は尻を撫でた。
「急に緩めんなよ……」
「……悪い」
「ま、引っ張ったオレも悪いんだけど……、入っていい?」
「あー、……うん」
「お邪魔しまーす」
靴を脱ぎ、伊織の横をすり抜けて中に入り、雄大は定位置のようになっているソファに座った。あとから歩いてきた伊織が、ベッドに座る。
「伊織」
「何?」
「理由、教えてよ」
「何の?」
「別れる理由」
理由がわからないのは気持ち悪い。乗り込んできたのは聞きだすためなのだ。伊織の答えを聞くまでは、帰るつもりはない。
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