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第18話

 心の中で呟いて、暖簾をくぐる。ここに入るのははじめてではない。暖簾の奥は、大人のための商品が並んでいる。入ってすぐ右側には、大量のアダルトビデオの棚。左側にはスケスケの下着やナースなどのコスプレ衣装。ちらちらと横目で見ながら、雄大は目的のものを探して迷路のような細い通路を歩いた。  さまざまな小道具が飾られた壁の下、棚になっているところにたどり着いて、商品を一つ手に取ってみる。  同じような商品でも種類がたくさんあってどれがいいのかわからない。携帯を取り出して、『男同士 セックス やり方』と検索をかけてみる。画面を指で撫でてスクロールして、参考になりそうなサイトを開いた。 「うわっ……、マジか……」  サイトには、浣腸薬も載っていて、する前にはしたほうがいい、と書かれていた。けれど、やると決めたのだ。チャレンジもせずに諦める、なんて負けた気がする。 「とりあえず、これと……」  ブツブツと独り言を言いながら、商品を掴んでパッケージを見る。何度か繰り返して、雄大はいくつかの商品を購入した。  暖簾をくぐって外に出る。フロアを進んで階段を下り、薬局に寄って薬を買う。 (よし、完璧。帰ろっと)  自転車の前かごに荷物を放り込み、走りだす。  ネットに載っていた必要なものは手に入れた。あとは練習あるのみだ。  家に帰った雄大は、すぐさま買ってきた荷物をテーブルに広げた。 (ジェルと、ゴムと、浣腸薬。あとは、これか……。こんなん入るかな?)  男は女みたいに濡れるようにはできていないから、潤滑剤は必須らしい。衛生面を考えるとゴムも当然必要だ。あと、雄大がいりそうだと思って買ったのは、小さめのバイブである。 浣腸薬については、洗うのか、と一瞬思ったけれど、よくよく考えてみたら、そもそも入れるところではないのだ。洗うのはマナーなのかもしれない。  だいたい、何かの間違いで、とんでもない大惨事になるくらいなら、先に洗う、というサイトの情報は正しいと思う。 (まずは、浣腸か……。痛いのかな?)  便秘になったことがないから、浣腸薬なんて使ったことがない。どんな感じがするのだろう。  携帯片手に薬のパッケージを開けて使い方を確認する。買ってきた洗浄用のポンプも箱から出してみた。ネットの説明によると、薬を使ったあとお湯で洗い流すらしい。 「ま、とりあえずやってみるか」  パッケージに書いてある使用方法どおりに薬を入れてみた雄大は、盛大に公開していた。お腹は下したみたいにぐるぐるいっているし、トイレまで何度も往復している。けれど、これはまだ一つ目のチャレンジなのだ。これが終わったらポンプで洗浄するという工程がある。 「っ……、腹痛い……、てか、気持ち悪……」 (つか、なんでこんなことしてんだオレ)  すると言ったのだから、と張り切って買い物に出かけたまではよかったのだが、苦しいうえに疲れる。  まだはじめたばかりなのに、メンタルがやられてしまいそうになって、一瞬『やめる』選択肢が頭に浮かんできた。 (やっぱ無理、って言ったら伊織なんて言うかな? ……いや、頑張ったら気持ちいいのかも知んないし!)  テーブルの上にころりと転がっていたポンプを掴み、風呂場に向かう。洗面器にぬるめのお湯を入れた雄大は、トイレにこもった。

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