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第26話

 風呂場とトイレを行き来して、最後にシャワーを浴びて風呂場から出てきた雄大は、伊織に聞こえない程度に「はぁ……」と息を吐いた。 (やっぱ全然慣れない……)  何度か練習したけれど、どうしても何をしているのだろうと賢者タイムのような感覚になってしまう。まだ、良さがわからないからなのかもしれないが、疲れるうえにものすごく違和感があるのだ。 (けど……)  すると決めてホテルに入ったのだから、と腰にタオルを巻きつけ、雄大は自らの頬をパチンと叩いた。気合いを入れて、部屋に続く扉を開ける。  そろそろと歩き、伊織近づく。「お前も浴びてきたら?」と伊織に言って、ベッドの端に座った。 「すぐ戻る」 「おう」  風呂場に向かう伊織に返事をして、タオルを巻いた太ももに視線を向ける。  腰にタオルを巻いただけの半裸の格好で、ベッドに座って待機している、なんて『されるのを待っている』みたいで落ち着かない。かといってベッドに寝転がって待つのも、それはそれで『どうぞ』と言わんばかりだ。どうしていればいいのだろうか、とベッドから立ち上がり、部屋の中をうろうろとうろつく。  やっぱり寝転んでいようか、と掛布団をめくり、ベッドに膝をついたら、ガチャリと扉の開く音がした。  顔だけを扉のほうに向けて「おかえり」と言ったら、パチリと瞬きした伊織が無言のまま近づいてきた。  伊織がベッドに上がってくる。ついていた手を離して、伊織へと向き直ろうとした雄大はバランスを崩して転がった。 「あ、えっとオレ、どうし、うわっ……」 「雄大……」  雄大の名を呼んだ伊織が身体の上に覆いかぶさってくる。どうしていればいいか聞こうとした雄大の声は、重なった唇に飲み込まれた。 「っ……、ン……」  当たり前みたいに口内に入ってきた舌が、絡みついてくる。くちゅりと口の中で音がした。口の中をあちこち舐めてくる伊織の舌、お遊びのときとは違うキスを味わっていたら、胸板を撫でられた。手のひらに小さな粒が擦れる。 「っ……」  無意識に身体が強張った。伊織の舌を追いかけていた舌が縮こまる。雄大が舌を引いた瞬間、伊織の唇が離れた。 「悪い。……急すぎた」  数センチ頭を持ち上げたら、口づけができてしまうほど近くに伊織の顔がある。じっと見おろしてくる伊織の雰囲気は、また『友達』じゃないものに変わっていた。 (なんつー顔してんだよ、コイツ……)  腰から下、バスタオルを巻いた太ももあたりに、伊織の熱が当たる。男同士だから、聞かなくてもわかる。伊織の『ヤリたい』気持ちは痛いほど伝わっているのに、それなのに伊織は雄大に気を使ってくる。雄大の機嫌を窺うみたいに。 「……平気」 「すげぇ、固まってるけど?」  本音をいえば、ちょっとだけビビってる。男とエッチしたことなんてないし、こんなふうに見下ろされることもないから。けれど、伊織がしたいと言ったから、雄大も伊織としてみたいと思っているから……。  いや、違う。  雄大自身が、伊織と友達以上になりたいと思っているから、だから、ホテルに入ったのだ。入ったら、何をするのか雄大はちゃんと理解していた。頭で理解して、恥ずかしいとか、格好悪いとか、そういうこともすべてわかって、覚悟を決めたのだろうと自らに言い聞かせる。 「伊織。続けろよ」

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