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第3話

あったかい・・・。 きもちいい・・・。 いいにおい・・・。 「・・・ん・・・ここ・・・おふろ・・・?」 「起きたか、セナ」 「ん・・・んんぅっ!?」 寝起きにべろちゅーしてくんな! 抵抗しようと暴れると、ばしゃっと派手な水音が響いた。 俺は今、お風呂に入っている。 ゼロの膝上に座らされた状態で。 めっちゃ広い浴槽・・・花びらとか浮かべちゃってる・・・超高級スパですかここは。 「てか、夢じゃ・・・なかったんだ・・・」 例え忘れられない衝撃を伴っていたとしても、いっそ夢であって欲しかった。 「何だ、まだ目が覚めていないのか」 「いやもー起き・・・むうーっ」 だからべろちゅーやめろ!! 「も、やめ、ちゅーすんなっ!」 「ちゅー?」 キスの事ですがご存じないです? 何故か満足そうに俺を抱き寄せて、頬やら頭やら首筋やらを撫でくりまわしてくるゼロ。 やめろ、撫でるな、ちょっと気持ちいいとか思った自分を殴りたくなるから。 「機嫌を直せ、セナ。もう絶対に独りにしない、安心しろ」 いえ、どうぞお構いなく。 俺、お風呂は独りで入りたい派なんで。 てか俺の不機嫌の原因が独りにした事だと思ってんの? 違うよ、無理やり犯された事だよ謝罪していただきたいのは。 「俺の事、不採用なんじゃなかったんですか」 「不採用?何の話だ」 「その・・・来るの遅かったし、いらないのかなって・・・」 「いらない?」 「だから・・・は・・・なよめ・・・」 俺が花嫁とか・・・言ってて恥ずかしい。 ちらっとゼロの様子を伺うと、少し悲しそうな、でも怒ってもいるような表情をしていた。 え、やばい、また怒らせたりたら・・・。 「誤解をさせたな。悪かった。すぐに迎えに行くべきだったんだが・・・仕事があって遅れてしまった。(ゆる)してくれ」 仕事・・・なら、仕方ない・・・のか・・・? 北の魔王は広い北の領地を(おさ)めてるって管理人さんも言ってたし、忙しいのかも・・・。 でも、会った事もない相手で、しかも異世界から来た得体の知れないやつなのに、ほんとに俺が花嫁でいいの? いや、花嫁になりたいわけじゃないけど。 「その、別に気を使わなくてもいいから。俺なんか嫁にしなくたって。仕事もらえたらここで働く・・・」 「セナは俺の花嫁だ。他に選択肢はない」 「なっ、魔王様なら相手なんていくらでもいるでしょ?俺みたいな訳わかんない初対面の男じゃなくたっていくらでも・・・」 「魔王様などと呼ぶな、ゼロと呼べ。何故俺がセナ以外を選ばなければならない?まさかセナは他に好いているオスがいるのか!?」 やばい、怒ったこれ。 頼む落ち着いてくれ魔王様。 「いっ、いないっ、好きな人とかいないっ!」 ・・・てゆーか、いた事・・・ない・・・かも・・・。 そう、俺は恋愛経験がない。 お付き合いをした事がない。 女の子が好きだが、特定の誰かを好きだと思った事が・・・ない。 「そうか。なら俺を好きになれ。俺はセナが好きだ。誰にも渡しはしない」 真っ直ぐ俺の目を見て、告白しないでくれ。 頷く以外の行動が制限されるじゃないか。 「セナ、俺のモノになれ」 「ぅぅ・・・、ま、まだ、会った、ばっか、だから・・・」 「俺は一目でお前に惚れた」 「ぅぅー・・・」 やめて恥ずか死ぬ! いったい俺のどこに惚れるんだよ! ゼロみたいなキラキラした色してない、普通の黒髪黒眼の平凡な日本人なんだけど? 「セナ、顔が真っ赤だ。逆上(のぼ)せたか?」 「・・・ぅん」 一先(ひとま)ずお風呂を出る事に。 ゼロは当然の様に俺を姫抱きして立ち上がった。 「え、ちょ、おろしてっ」 「立てるのか?」 はあ? 何言って・・・。 「・・・ぅぁ・・・た、たて・・・なぃ・・・」 腰から下に力が入らない・・・。 え、何で、俺どうしたの? 下半身付随になる様な事故に・・・。 「まさか・・・」 「激しくし過ぎたな。セナが可愛く()くから」 「───っ!?」 恥ずか死ぬっ!! カウチに座らされた俺は、ゼロに身体を拭いてもらい、服まで着せてもらった。 そうして甲斐甲斐しく世話を焼かれながら、これからどうなるんだろうと不安でたまらなくなる。 でも、塔で待ってた時の様な、吐き気を伴う苦しさじゃないのが、ちょっと救いだった。
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