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第6話
「・・・ん、・・・ぅ」
あ、俺、寝てた。
身体はキレイになってて、服も着せられてる。
これ、ゼロがやってくれたのかな。
それとも執事さんとか侍従さんかな。
どっちにしろ恥ずかしい・・・。
「・・・ぜろ?」
いない。
窓から見えるのは真っ白な吹雪で、昼か夜かもわらかない。
どれくらい寝てたんだろ。
ゼロは仕事しに行ったのかな。
「ぅ、なんとか・・・立てる・・・」
ベッドからそおっと下りて、ゆっくりだけど自力で歩ける事を確認する。
せっかくだからお城の中をこっそり探検しようかな・・・。
「あっ!?」
部屋の扉を開けたら、目の前に護衛騎士が2人立っててびっくりした。
「お目覚めですか花嫁様」
「魔王陛下をお呼びして参ります。お部屋でお待ちください」
「へ、あ、いや、だいじょぶです、自分で行くので・・・」
ゼロを呼びに行くと言った騎士は、俺の返事を聞く前に猛スピードで立ち去ってしまった。
あー、そんな急がなくてもいいのにー。
残った騎士は俺の事を心配そうに見てる。
そんな心配しなくても、悪さなんてしないのに。
「えっと、あの、探検・・・いや散歩とか、しても・・・?」
「申し訳ございません、陛下をお待ちいただきたく存じます」
「・・・あ、はい」
勝手に出歩いちゃだめか。
そうだよね、異世界から来たばっかりの得体の知れないやつが、城の中うろうろしていい訳ないよね。
仕方ない、部屋の中に戻って待つか・・・。
「セナ!」
「ぅわっ!?ぜ、ゼロ?びっくりしたぁ・・・」
突然目の前にゼロが現れ、俺をがばっと抱き上げた。
足元が光ってたから、転移魔法を使ったんだな。
「独りにして悪かった、よく寝ていたから起こしたくなくて、お前が目を覚ます前に戻るつもりだった、悪かった、何処へも行くな・・・!」
「ぅ、うん、落ち着いて?行かない、どこも。仕事でしょ?大丈夫だから・・・」
なんでそんな焦ってるの、魔王様。
・・・あ、もしかして、独りにしないって約束、したから?
え、なにそれ・・・。
「ふふ、律儀だなあ」
「セナ・・・笑ってくれた・・・」
あ、俺、笑った?
焦ってるゼロがなんだか微笑ましくて、思わず・・・。
そういや、こっち来てから初めて笑ったかも。
「可愛い。セナ、もっとお前の笑顔が見たい」
「か、かわっ!?」
可愛くないからっ!
てか童顔なのちょっと気にしてて可愛いって言われんの嫌いなのっ!
・・・嫌いなの、に。
「・・・ぅぅー・・・」
なんで俺は照れてるの!?
いつもなら嫌な顔するかキレるかなのに!?
これじゃ、まるで・・・ゼロに可愛いって言われて・・・嬉しいみたいじゃん・・・。
「耳まで赤くなっているな。美味 そうだ」
「ひゃっ!?」
み、耳を噛むなあー!!
「恐れながら陛下、花嫁様はお散歩をご希望です」
「散歩?」
護衛騎士さんがゼロに俺の希望を伝えてくれる。
散歩ってゆーか、城を探検したかったんだ、こっそり。
ゼロが来て、俺を独りにしないって約束を彼が頑なに守るのであれば、こっそり探検は出来ないわけだから、散歩でもいいか。
「外には出せない」
「え・・・?」
それって、俺を外に出すのは恥ずかしいとかそーゆー事?
俺ってそんなみっともないの・・・。
「春が来るまで城の外は危険だ。セナは孅 いから寒さで死んでしまう」
ゼロによると、この北の領地は冬が長い極寒の地らしい。
数ヶ月間の春はあるらしく、その春でないと俺を外には出さない、と。
「俺、冬好きだよ?暑いのとか湿気とか苦手だけど、寒いのは好きだし。雪とか氷柱 とかも好き」
だから外出ても大丈夫だよ。
冬の寒さに負けない強い子だよ。
「セナ、冬より俺を好きになれ!」
なに言ってんの・・・。
「あ、じゃあ、城の中は歩き回ってもいい?入っちゃだめなとことかは入らないから」
「セナが入っていけない場所はない。だがまた執務室に行かなければ・・・」
まだ仕事中だったのに、俺が起きたからわざわざ戻ってきてくれたんだ。
俺、邪魔ばっかして申し訳ないな・・・。
「独りで大丈夫だよ」
「セナを独りにしないと約束した」
「じゃあ誰か手の空いてる人と・・・」
「セナは俺の側にいないとだめだ」
おおう。
どうしたもんか。
俺だってゼロと一緒にいる方が安心できるのは確かなんだけど・・・。
「えっと・・・ここはゼロの城でしょ?ゼロの城の中なら俺は安心だから、ゼロが仕事してる間、ゼロの城を散歩してたい」
ゼロの、と連呼したのには理由がある。
彼は名前を呼ぶとなぜか機嫌が良くなるからだ。
つまりこれは、うまくゼロのご機嫌を取って、城内散歩を許可してもらおう作戦。
「セナは俺の城なら安心なのか」
「うん」
即答。
根拠はないけど、安心できるのは本当だ。
ベッドであんな事されたのに、俺は何でゼロにこんな依存してしまうんだろう。
ゼロの花嫁として召喚されたから、なんだろうか。
「・・・わかった。護衛を2人付ける。それから、手を出せ」
「て?」
ゼロが差し出した左手に、反射的に右手を乗せる。
あ、犬がお手するみたいになってる。
掌を上にするべきだった?
ちょ、自分でやっといて無性に恥ずかしいんだけど。
ゼロの様子を伺うと、俺の右手の甲に自分の右手をかざしている。
え、何して・・・?
「あ、魔法陣?」
俺の右手の甲に、くっきりと魔法陣が刻まれていた。
「1時間後、俺の元へ強制転移するよう設定した」
え、待って。
本人の承諾なしに魔法陣刻むとか、散歩は1時間だけとか、強制転移とか・・・ちょっとヤバくない?
これって、束縛ってやつなんじゃ・・・?
色々言いたい事しかないけど、今それを言うと散歩自体がダメってなる可能性を感じる。
ここは俺が折れておこう・・・。
「えー・・・っと、ま、迷子になる心配はなくなった、ね」
「時間にならなくても、セナが俺の元に戻りたいと思えばすぐ転移魔法が展開されるからな」
「そーなんだ・・・」
時間いっぱい散歩を楽しめるように、極力ゼロの事は考えないようにしないと。
それから、いつまでも名残惜しそうに俺を抱きしめるゼロを執務室へ送り、散歩を開始した。
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