7 / 15

第7話

「めーっっっちゃ広ーい」 2人の護衛騎士に案内してもらいながら、城内の主要施設は確認した。 1時間しかないから早足でさくさく見て回ったけど、これ独りだったら確実に迷子になってたな。 絶対自力じゃ執務室とか寝室とかには戻れない。 そうなったら泣く自信がある。 うん、強制転移の魔法陣は必要だ。 ごめんゼロ、束縛とか思ったりして。 「ん?この部屋、魔法陣だけ?」 通りかかった部屋の扉が半開きになっていて中が見えた。 家具とかはなにもなく、床に大きくて複雑な魔法陣が彫られている。 「あ、こちらの部屋は・・・」 護衛騎士さんが少し焦っている様に見える。 え、これ見ちゃダメなやつだった? でもゼロはどこ見てもいいって言ってたし。 「これって何の魔法陣?」 「ぁ・・・それが・・・」 何でそんな言いにくそうなんだろう。 もしかして誰か、悪い事しようとしてる? 「言えない様な事してるの?」 「い、いえ、その様な事は・・・ただ・・・」 はっきりしないなあ。 まあでも可哀想だし、見なかった事にして次に・・・。 「これは、魔王陛下のご命令で準備した・・・花嫁様返還の為の魔法陣・・・です・・・」 ───え? 花嫁、返還の、魔法陣? だって、そんな方法はないって、管理人さんも、ゼロだって・・・。 いや、ゼロは帰さないって言っただけで、方法が無いとは言ってなかった・・・。 でも、帰さないなら何で準備させたの? いつ準備したの? もしかして、俺を迎えに来るのが遅かったのって、仕事じゃなくて、これを準備してたから? ・・・ああ、北の魔王様は、嘘吐いたんだ。 やっぱり募集してなかったんだな。 欲しくもない花嫁が遅れてやって来て、うんざりした気分で返還するための魔法陣を用意したんだ、きっと。 「・・・なんだ、帰せるんじゃん」 さっさと帰せば良かったのに。 好きだなんて心にもない事言って。 初対面で俺が泣いてたから、同情した? ちょっと慰めてやろうって? そんな事する必要ないのに。 北の魔王様は優しいんだな。 「執務室に、連れてってください」 今ならまだ、酷い夢だったって済ませられると思うから。 大丈夫、帰れる、吐きそう、そんな事ない、大丈夫、良かった、帰れる・・・。 「失礼致します。花嫁様をお連れしました」 執務室に入ると、仕事していたゼロがぱっと顔を上げ、俺の方にやって来た。 「セナ、魔法陣を使えば良かったのに・・・」 「うん、使うよ、魔法陣。あれって完成してんの?完成してるなら今すぐにでも、帰るから」 さっき笑ったら喜んでたし、出来る限りのにこやかな顔で、伝える。 わざわざ俺を帰すために用意してくれたんだから、お礼を言わないとな。 「何を言っている?お前はもう俺の元に戻って来ただろう。何故そんな顔をしている?何があった、セナ?」 「俺を帰すための魔法陣、用意してくれたんでしょ、ありがとう魔王様」 なんで上手く笑えないんだろう。 帰りたいって思ってて、その願いが叶うのに。 もっと嬉しそうに笑わなきゃ・・・。 「ああ、あれを、見たのか」 うん、見たよ。 だからもう、俺を花嫁扱いしなくていい。 手を伸ばしてくるな、髪に触るな、腕を掴むな、抱き寄せるな・・・! 「あの部屋を破壊してこい。欠片(かけら)も残すな」 俺を案内してくれてた騎士たちに、魔王様が低く冷たい声で命令した。 「なっ!?何で!?俺を元の世界に帰すために用意して・・・」 「言ったはずだ!お前は俺のモノだ!元の世界になぞ帰さない!!」 身体が震える。 魔王の迫力か、実際に部屋の温度が急激に下がったのか。 声も出ない。 「こんな魔法陣では足りないな」 魔王が俺の右手の甲の魔法陣をぎゅっと強くなぞった。 そうやって魔法陣を消すと、両手を俺の首にかける。 え、首、絞めようとしてる・・・? 俺、このまま殺されるの・・・。 「───っ!?」 魔王の両手は俺の首を絞めなかったが、代わりに冷たい首輪を()めていった。 切れ目のない、破壊するしか外す方法がない様な、銀色の首輪を。 「な、に・・・これ・・・」 「俺から離れれば締まる。可哀想だが、セナは身体に覚えさせる方がいいだろうからな」 感情のない銀色の眼で、魔王が俺を見下ろしている。 なんで? 意味、わかんない。 いらないから、必要ないから、帰そうと思ってたから、あの魔法陣を用意したんじゃないの? 「ゃ、やだ、はずして、くびわ・・・」 「だめだ。苦しい思いをしたくなければ俺から離れるな」 そう言って、俺を抱き上げる魔王。 これ、俺が悪いの? 用意してくれた魔法陣を使うって申し出ただけなのに、俺が罰を受けるの? ほんとに、魔王は、ゼロは、俺の事を帰したくないの? 「俺は・・・ここに、いて・・・いいの・・・?」 「セナは俺の花嫁だ。何処へも行かせはしない。二度と俺から離れられると思うな」 そっか、もう本当に帰れないんだ。 帰らなくて・・・いいんだ。 ゼロは、本気なんだ。 仕事を再開したゼロの膝上で、彼の仕事が終わるのを俺はただぼーっと、冷たい首輪を触りながら待った。
1
いいね
0
萌えた
2
切ない
0
エロい
0
尊い
リアクションとは?
コメント

ともだちにシェアしよう!