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第7話
「めーっっっちゃ広ーい」
2人の護衛騎士に案内してもらいながら、城内の主要施設は確認した。
1時間しかないから早足でさくさく見て回ったけど、これ独りだったら確実に迷子になってたな。
絶対自力じゃ執務室とか寝室とかには戻れない。
そうなったら泣く自信がある。
うん、強制転移の魔法陣は必要だ。
ごめんゼロ、束縛とか思ったりして。
「ん?この部屋、魔法陣だけ?」
通りかかった部屋の扉が半開きになっていて中が見えた。
家具とかはなにもなく、床に大きくて複雑な魔法陣が彫られている。
「あ、こちらの部屋は・・・」
護衛騎士さんが少し焦っている様に見える。
え、これ見ちゃダメなやつだった?
でもゼロはどこ見てもいいって言ってたし。
「これって何の魔法陣?」
「ぁ・・・それが・・・」
何でそんな言いにくそうなんだろう。
もしかして誰か、悪い事しようとしてる?
「言えない様な事してるの?」
「い、いえ、その様な事は・・・ただ・・・」
はっきりしないなあ。
まあでも可哀想だし、見なかった事にして次に・・・。
「これは、魔王陛下のご命令で準備した・・・花嫁様返還の為の魔法陣・・・です・・・」
───え?
花嫁、返還の、魔法陣?
だって、そんな方法はないって、管理人さんも、ゼロだって・・・。
いや、ゼロは帰さないって言っただけで、方法が無いとは言ってなかった・・・。
でも、帰さないなら何で準備させたの?
いつ準備したの?
もしかして、俺を迎えに来るのが遅かったのって、仕事じゃなくて、これを準備してたから?
・・・ああ、北の魔王様は、嘘吐いたんだ。
やっぱり募集してなかったんだな。
欲しくもない花嫁が遅れてやって来て、うんざりした気分で返還するための魔法陣を用意したんだ、きっと。
「・・・なんだ、帰せるんじゃん」
さっさと帰せば良かったのに。
好きだなんて心にもない事言って。
初対面で俺が泣いてたから、同情した?
ちょっと慰めてやろうって?
そんな事する必要ないのに。
北の魔王様は優しいんだな。
「執務室に、連れてってください」
今ならまだ、酷い夢だったって済ませられると思うから。
大丈夫、帰れる、吐きそう、そんな事ない、大丈夫、良かった、帰れる・・・。
「失礼致します。花嫁様をお連れしました」
執務室に入ると、仕事していたゼロがぱっと顔を上げ、俺の方にやって来た。
「セナ、魔法陣を使えば良かったのに・・・」
「うん、使うよ、魔法陣。あれって完成してんの?完成してるなら今すぐにでも、帰るから」
さっき笑ったら喜んでたし、出来る限りのにこやかな顔で、伝える。
わざわざ俺を帰すために用意してくれたんだから、お礼を言わないとな。
「何を言っている?お前はもう俺の元に戻って来ただろう。何故そんな顔をしている?何があった、セナ?」
「俺を帰すための魔法陣、用意してくれたんでしょ、ありがとう魔王様」
なんで上手く笑えないんだろう。
帰りたいって思ってて、その願いが叶うのに。
もっと嬉しそうに笑わなきゃ・・・。
「ああ、あれを、見たのか」
うん、見たよ。
だからもう、俺を花嫁扱いしなくていい。
手を伸ばしてくるな、髪に触るな、腕を掴むな、抱き寄せるな・・・!
「あの部屋を破壊してこい。欠片 も残すな」
俺を案内してくれてた騎士たちに、魔王様が低く冷たい声で命令した。
「なっ!?何で!?俺を元の世界に帰すために用意して・・・」
「言ったはずだ!お前は俺のモノだ!元の世界になぞ帰さない!!」
身体が震える。
魔王の迫力か、実際に部屋の温度が急激に下がったのか。
声も出ない。
「こんな魔法陣では足りないな」
魔王が俺の右手の甲の魔法陣をぎゅっと強くなぞった。
そうやって魔法陣を消すと、両手を俺の首にかける。
え、首、絞めようとしてる・・・?
俺、このまま殺されるの・・・。
「───っ!?」
魔王の両手は俺の首を絞めなかったが、代わりに冷たい首輪を嵌 めていった。
切れ目のない、破壊するしか外す方法がない様な、銀色の首輪を。
「な、に・・・これ・・・」
「俺から離れれば締まる。可哀想だが、セナは身体に覚えさせる方がいいだろうからな」
感情のない銀色の眼で、魔王が俺を見下ろしている。
なんで?
意味、わかんない。
いらないから、必要ないから、帰そうと思ってたから、あの魔法陣を用意したんじゃないの?
「ゃ、やだ、はずして、くびわ・・・」
「だめだ。苦しい思いをしたくなければ俺から離れるな」
そう言って、俺を抱き上げる魔王。
これ、俺が悪いの?
用意してくれた魔法陣を使うって申し出ただけなのに、俺が罰を受けるの?
ほんとに、魔王は、ゼロは、俺の事を帰したくないの?
「俺は・・・ここに、いて・・・いいの・・・?」
「セナは俺の花嫁だ。何処へも行かせはしない。二度と俺から離れられると思うな」
そっか、もう本当に帰れないんだ。
帰らなくて・・・いいんだ。
ゼロは、本気なんだ。
仕事を再開したゼロの膝上で、彼の仕事が終わるのを俺はただぼーっと、冷たい首輪を触りながら待った。
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