8 / 15

第8話

広い食堂に夕食を食べに来た。 大きなテーブルの向かいでなくても、せめて隣のイスに座らせてもらえたら良かったんだけど。 「ご飯食べるのもここなの?」 執務室と同じ様に、俺はゼロの膝上に座らされている。 料理は豪勢で量も凄いが、カトラリーがゼロの分しかない。 え、首輪()められただけじゃなく、ご飯も抜きなの? 「離れれば辛いのはセナだぞ」 旨そうなミディアムレアのステーキを綺麗な所作で切り分け、俺の口元へ持ってくるゼロ。 これは、あーんってやつ? 「ぁー・・・んむ。んー、んまい」 俺は何を呑気にお肉味わってんだろ。 首輪はまだ気になるけど、とりあえず聞いておく。 「なんであの魔法陣を用意したの?俺の事、帰すつもりだったんじゃないの?」 「セナを帰すつもりはない。あれは・・・お互いに望まない相手が召喚されたら、使うつもりだった」 お互いに望まない相手。 じゃあ俺は、望まれてるって事? 花嫁自体を望んでなかった訳じゃないって事? 「俺が、来るの遅かったから、今更いらないって思って帰すのかと・・・」 「早かろうが遅かろうが、セナであれば帰しはしない」 そんなに俺の事、好きなの? ゼロに餌付けされながら、色んな意味でいたたまれない気持ちになる。 「一目で惚れたと言っただろう。こんなに可愛い花嫁が来るとわかっていたら、魔法陣(あんなもの)を用意する必要などなかった」 「・・・ふぅん」 もぐもぐしながらゼロの話を聞く。 魔法陣の部屋が放置されていたのは、俺をかまっていてすっかり存在を忘れてしまったから、と。 そおだね、ずっと俺に付きっきりだったもんね。 でもさ、首輪はやり過ぎじゃない? 「ねえ、これ外して?」 「だめだ」 「もお帰るとか言わないから」 「だめだ。鎖で繫れないだけいいと思え」 鎖って・・・。 仕方ない、ゼロの気が済むまで我慢するか。 「すごい束縛するね・・・」 「龍の執着は強い、諦めろ」 「りゅう?」 デザートを食べさせてもらいながら、空想上の生き物の名前に首を傾げる。 「俺の真の姿は龍だ。龍の性質として強い執着がある。セナは俺にとって唯一の執着対象だ」 執着って・・・ちょっと恐いんだけど・・・。 てか、ゼロって龍なんだ・・・龍の姿、見てみたい。 「ねえ、龍の姿って・・・」 「春になったらな。城の中では狭い」 春、早く来ないかな。 龍と云えば、逆鱗ってほんとにあるのかな。 触ると怒るんだっけ? 「ねえ、逆鱗って・・・」 「セナなら触れても問題ない。(むし)ろ今はセナが俺の逆鱗だな」 逆鱗あるんだ・・・問題ないなら触らせてもらおう。 俺が逆鱗・・・って事は俺に触るとゼロが怒るのか。 俺自身、ゼロ以外とのコミュニケーションは気を付けた方がいいな。 それにしても、さっきから俺の言わんとしてる事を先読みして応えてくれるけど、龍には読心術なんて能力あったりする? 「もう食べないのか?」 「こんなに食べたじゃん。もーお腹いっぱい」 俺に食べさせながらゼロも食べてたけど、俺の3倍は食べてたな。 身体も大きいし、龍だから? そういえば、身体が大きいのはゼロだけじゃない。 執務室にいた人たちも、騎士たちも、塔の管理人さんもデカかった。 この世界だと、俺はチビなんだろうな。 他の花嫁は、どうなんだろう。 「他の花嫁さんたちは・・・」 「会いたいのか?」 まあ、会えるなら、話したいかな。 こくっと頷くと、ゼロが考え込んだ。 え、他の花嫁との交流はだめなの? 「召喚の塔で花嫁たちの茶会がある。次の茶会に顔を出すか?」 「あ、うん、行く」 ちゃかい・・・って、お茶会か? お貴族様かよ・・・。 「お茶会のマナーとか・・・んぅ・・・っ」 いや何でちゅーするかな。 服の中に手を入れてくるなって。 「ん、はぁっ、ちょ、・・・んんっ、ゃ、ぜろぉ・・・っ」 「やっと呼んでくれたな、セナ」 ああ、さっき魔王様って呼んだの、気にしてたんだ。 ほんと、名前呼んだだけで機嫌良くなるの不思議。 あ、そうか、その手があった。 「ん、ねえ、・・・んっ、ゼロ、くびゎ・・・んぅぅっ」 あ、だめか。
ロード中
ロード中

ともだちにシェアしよう!