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第2話

2. 「ルブ様は、あまりに大きな姿だと恐怖を抱いてしまい、契約を結べないようだ」  ミスズの言葉に、集まった召喚獣一同は「ああ」と納得の頷きを返した。  ルブの召喚師としての力は強く、そのため、『あちらの世界』へと自分たちを導くための扉もそれはそれは豪奢で大きなものが現れる。  ルブを慕う召喚獣達は、少しでも役に立てるようにと、『こちらの世界』で上位階の獣が率先して行くようにしている。 「それでこの間の召喚では契約まで至らなかったのか」 「お前は大きいだけでなく見た目も厳ついからな。怖がらせたのかもしれん。ちなみにその前は俺が行ったが、やはり契約はして頂けなかった」 「けど次の召喚では必ず、契約して下さるのだろう? ソツギョウシケンといったか」 「そのとおりです」  ミスズは深く頷いた。  集まったのはいずれも上位階の獣達ばかりだ。ミスズの言葉に、そわそわとその巨体を揺らし始める。 「最初で最後の機会かもしれません。今回はいつも以上に慎重に扉をくぐる者を決めましょう」  「おおおおおお」、低い唸るような雄叫びが広間を揺らす。  さて誰がいくのが一番いいだろうか。議論は紛糾した。「下位であれば身体は小さいさろうが、彼を守るには頼りないかもしれない」、「かといってまた上位が出向けば契約には至るかもしれないが怯えさせてしまうだろう」。  立候補者は多い。ここに集まる全てがそうだ。下位階まで含めればもっといるだろう。  それほどにルブは慕われていた。  力の強さに純粋惹かれたという者もいるが、多くは血縁の獣を助けてもらったことへの恩返しをしたいという理由だ。  『あちらの世界』に呼び出されたにも関わらず、雑魚だ弱いだの理由で捨てられてしまった召喚獣は多い。  ルブは彼らが飢えていたり怪我をしていたりするのを見つけると、手厚く保護をしてくれていた。 「俺に行かせてください」  ミスズの前に進み出たのは、彼の倍はあろうかという体躯の持ち主だった。四足の獣姿をしており、長い毛色は銀に近い白、鋭い赤い目をしている。  『こちらの世界』の中でも最上位に位置する獣であるが、周囲の反応は冷ややかだった。ミスズも同様だ。長いまつげを伏せ、即刻決断を伝えた。 「却下」  「どうしてですか」、当然、獣は食い下がる。  ミスズは彼から、目線を逸らし、言い淀みなく理由を告げた。 「あなたは大きすぎる。それに、何より性格が悪い。不真面目で軟派で女癖がひどいし、薄情だ。いくら力が強いとはいえ、ルブ様との契約は許しません」 「最近はそんなことはしていません」 「最近といっても、ここ10年ばかしの間でしょう。信用できませんね。却下。下がりなさい」 「好きなんです、彼のことが」  ミスズはカッと目を見開き、相手を睨みつけた。 「ますます近づけられません! 却下!」 「俺は、彼に……ルブに会ったことがあります」  怒号の飛び交っていた広間が一瞬にして静まり返った。ミスズの前には、人型が立っていた。癖のある長い髪をしている。小柄な少年だ。  彼は赤い瞳を細め、ミスズの前に小瓶を差し出した。中には何やら液体が入っており、コルクで栓がされている。 「この中に俺の力の大半を入れてあります。これをあなたに」  ミスズもまた人型となり、それを受け取った。手のひらに収まる程度の大きさであるのに、ずしりと重い。  男の本気に鳥肌が立った。 「扉をくぐる際には、嘘がつけない。けれど、こうすればほら」  次いでミスズの前に現れたのは、膝下よりも更に小さい。『あちらの世界』でいう犬と酷似した獣型だった。 「ギィィ……」  ただし、鳴き声は可愛くはない。  彼は再び人型に戻った。 「これなら、ルブに怯えられることもなく、受け入れてくれるかと思います。万が一のときには、その瓶を割ってくれさえすれば、元の姿に戻れます。そうすれば、彼の力にもなれる」  自分の魔力を切り離し、別のものに籠めるには長い時間と根気が必要だ。それを彼はやってのけたのだ。  ミスズはしばし逡巡した後、頷いた。小瓶を握りしめる。 「預かろう」  

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