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第4話
4.
卒業試験当日の夜、ルブは早速、初めての自分の固定獣を『お客様』に会わせることにした。
抱きかかえていたコテンをテンの傍にそっと降ろす。不思議なことに、体格差では勝っているテンの方が後ずさり、ルブの後ろに隠れてしまった。
「ギィィ」、コテンが更に低く唸り声をあげれば、テンは扉に体当たりをする勢いで、小屋から脱兎のごとく走り去ってしまった。
「どうしたんだろう」
首を傾げながら開け放たれた扉を締め直す。
振り向き、コテンを抱き上げようと床の方に手を伸ばす。そこに、コテンの姿はなかった。
裸の少年が立っている。ルブと目が合うと、満面に笑みを浮かべた。抱き寄せられる。
「え」
ルブは混乱していた。
人型になれるのは、ミスズのように上位の召喚獣だけと言われている。それなのにどうしてと疑問符が頭の中を埋め尽くす。
「コ、コテン?」
「ああ」
確認をすれば大きく頷かれた。
「ご、ごめんなさい。てっきり人型にはならないものだと思って、服の準備が」
「ルブのでいい」
「少し小さいかも」
「いい」
そう言いながらもコテンはルブから離れようとしない。背はルブよりも少し高い程度だが、力が強い。これでは動けない。
しかし、離す気もないようだ。
「コテン? わあ!」
しきりに臭いを嗅がれていたかと思えば、突然膝裏を掬われ、抱え上げられた。そのまま、部屋を見回していたコテンは奥に寝台を見つけると一目散に歩き始める。
共に倒れこむようにして、そこに仰向けになった。すぐさま、唇が降ってくる。何度も何度も角度を変え、次第に深く口内へ舌が潜りこんでくる。
もともとこういった行為に不慣れなルブは、だんだんと頭に熱が登り、視界がぼやけていくのを感じた。
「もーう、我慢できねえ。俺、頑張った」
「コテ、コテン、どうしたの」
もしや契約が嫌になったのだろうか。ルブの目にみるみる内に涙が溜まっていく。
「やっぱり、僕なんかが主じゃ」
「違う。そうじゃねぇよ、ルブ。俺はもうお前の傍を離れない。そのためにたくさん準備をしてきた。ああおい、ちゃんと食べてたのかよ。いくつになったんだ? まだガリガリじゃねぇか」
「う、あ、やめ」
中に潜り込んだ掌が胸や首筋を撫で回す。その間にも絶え間なく唇に、あちこちを触れられ、ルブの思考を奪う。
「じゅう、はち」と荒い息の間を縫いながら、やっとの思いで素直に答える。それを褒めるかのように、コテンはルブの髪を前から後ろへ撫でてくれた。
「ルブ、絶対に痛くしない。優しくする。だから俺を助けると思って、ここを開放させてくれ」
ここ、と手を導かれたのは、コテンの下の部分だった。すでに固く起立している。赤く腫れているようにも映り、痛そうだ。
実際、コテンの顔は歪められていた。
「ぼ、僕、どうすれば」
「許すっていってくれ。それだけでいい。そうしたら、あとは俺に任せてくれればいい」
「ゆ、許すって、」
「頼むよ、ルブ。ルブ」
「あ、あ」
ルブの緩く立ち上がった自身に擦り付けるように腰を振られ、確かな快感が身体中に広がっていく。
コテンは力ないルブの手のひらを今度は自分の頬に寄せた。
「お ね が い」
ルブの心臓が大きく跳ね上がる。
「ルブ」
指を一本一本、上から下へと舐められ、ついにルブは折れた。これ以上こんなふうにされていたらおかしくなってしまいそうだった。
何よりつらそうな様子のコテンを助けたかった。
「ゆっ、許す。っ」
固い感触が指周りにあった。コテンがそこに軽く牙を立てていた。にぃと笑う。「ありがとう」と言った言葉は、ルブにはよく聞き取れなかった。
そこからのコテンの動きには容赦がなかった。いくらルブが「待ってくれ」と懇願しても愛撫はやまず、やがては、一人で昇りつめてしまった。
「濃い」
コテンは嬉しそうに腹にまで飛んだルブの白濁した液を掬い、ひと舐めした。それから、ルブを俯せにすると、後ろへ手を回しほぐし始めた。
指が入り込んでくる感覚に、背筋が震える。ジュポジュポと泡立つ液体の音が聞こえ、ルブは顔を真っ赤にし、必死にシーツにしがみついていた。
痛みはないが、異物感がひどい。それでも、コテンがルブの放ったばかりの自身を扱き続けるものだから、うまく抵抗できない。
「もういいかな。小さいし」
コテンの独り言を聞き返そうと口を開いたところで、ずんと奥まで指よりも長く太いものが入ってきた。
その衝撃に閉じられなかった喉から甲高い声があがる。
「こら、ルブ。そんな声、他の奴らに聞かれるな」
「ん、んっ」
指で口をふさがれ、腰を振られる。ようやく、自分の中にあるものが、先ほど触ったコテン自身なのだと気が付いた。
コテンはその行為に夢中なようで、ルブの前に触れ続けていることを忘れているようだった。
前と後ろからの刺激に、ルブは昇りつめたまま戻ってこれない。怖い。ルブは初めて感じる恐怖に涙を零した。
「好きだ、ルブ、ルブ。愛してる」
「あっ」
中に熱いものが注がれる。おそらくはコテンの精液だろう。しかし、ルブの中の彼自身は一向に萎える気配がない。
「ルブ、ルブ」
首筋に噛みつかれ、鋭い痛みが走る。痛くしないのではなかったのか、しかし、それを配慮できるだけの余裕はコテンからは既にないようだった。
***
解放されたのは、陽も昇ってからだった。
ルブはがっちりと抱きしめられた腕からなんとか顔を出し、コテンを見つめた。眉間の皺は消え、規則正しい寝息が聞こえてくる。ホッとした。どうやら、熱は収まったらしい。
偶然にも発情期だったのだろうか。今日にでもリースに聞いてみよう。続くようならもっといい相手を捜さなければならないだろう。
それにしても、と思う。
やっぱり似ている。
白い髪も、赤い瞳もそっくりだ。
ただ、彼はコテンよりも大人だったが。
ルブの幼少期の記憶は痛みと飢えから始まる。両親からの暴力の末、奴隷として売られた。それを、召喚師の親切な老人が買い上げてくれたのだ。
そこに彼はいた。
筋肉の滑らかについたしなやかな体躯、身長は当時のルブの3倍は高かったように思う。
ルブは初めて優しさを知った。話す相手のいる楽しさを知った。
初恋だった。
しかし、また何か失敗をしてしまっただろう。そこからも追い出されてしまった。森から顔を出すほどに大きな獣姿となった彼に、食い殺さんばかりに牙を剥かれ、逃げ出した。
涙が止まらなかった。
自分の相手をするのが嫌になったのだろうか。
うっとおしく思っていたのだろうか。
毎日を後悔しながら過ごした。
召喚師にならないかと誘われたのはその日々の中だった。自分のようなものがあの優しくしてくれた召喚師のようになれるのだろうか。不安はあったが、憧れの方が勝った。
召喚師を育成する学園への入学を決めた後、ルブは再び老人の元を訪れたが、そこに二人の姿はなかった。
もっとも、彼が自分のことを、例え熱にうなされていたとしても「好き」など言うはずもないが。
コテンはただただ辛かっただけだろうに、昨晩の行為を嬉しく思っている自分がいることに気がついた。
申し訳ない。
けれど、本当に
「そっくりだ」
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