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第10章:楽園 5

今からするよと言われてするセックスほど、恥ずかしいものはない。 服を剥ぎ取られ、熱い指先で肌を撫でられるとその一つ一つに律儀に反応してしまう。そして、いつもカメラ越しに見られている視線と同じようにジッと射抜かれるような目で見つめられたら、由利の心臓に穴が開いてしまうんじゃないかと思うほどだった。 「……綺麗だね、由利…」 「あ、あんまりまじまじと見るなって……!」 「無理。綺麗なものは見たいし、撮りたくなる性分なんだよ、僕は」 こんなに恥ずかしい思いをするのなら、いっそのこと寝ている間にイタズラされたほうがマシだとか、強引にされたほうがマシなのかも、なんて歪んだ考えが頭をよぎる。 ――いやいや、今自分たちは恋人同士なのだから、真正面から誘われたってなにもおかしくないしそれが普通だろ。 頭の中では分かっていても、やはり少し気恥ずかしくて足をもぞもぞと擦り合わせた。 「ふふ、可愛い。なんでそんなに緊張してるの?」 「べ、べつに緊張してない……」 「そう。じゃあ、よいしょっと」 「うぁっ!?」 ぐるり、一瞬にして視点がひっくり返る。今まで天井と藍の顔を見ていた由利は、いつの間にか自分がつかっている枕にぼふりと顔を埋めていた。 「この体勢のほうが、うなじが噛みやすい」 「……っ」 無防備にうなじを晒していて、いつ噛まれるか分からない恐怖と期待に震える。そんな由利を見下ろしているであろう藍が小さく笑うのが分かって、ぶわりと体が熱くなった。きっと背中まで肌が赤く染まっているのが藍にはバレているだろう。 「可愛い。うなじも真っ赤になって……おいしそう」 「んん……っ」 「ゆうり、想像して感じた?」 真っ赤に染まっているうなじから背中、腰にかけて指先一本でなぞられる。するりとベルトを抜き取られズボンを剥ぎ取られると、これから何をされるのか分かるので思わず腰が揺れるのが自分でも分かった。 「えっちだね、由利。腰揺れてる」 「んぁっ」 「温感ローションってやつ買ってみたんだけど……由利も良さそうだね」 「なに、あったか、なんかきもちわる……っ」 「そんなことないでしょ。いつも冷たいローションにびくびくしてるから、あったかいほうがいいのかなと思って。なんかこれ、由利の中から出てきた愛液みたいだね」 「ちょ、っと……!」 背中に口付けながら、あらわになったそこにとろりと温かいローションが滴る。藍の言うように、まるでオメガの発情期の時のように自分の中から出てきたのかもと思うと恥ずかしかったが、ローションが温かいだけで変な気分になるものだなと枕に顔を押し付けた。 「……やば、すごく濡れてるって感じがするよ、由利のなか」 「やめ、音いやだぁ……っ」 「恥ずかしい?音、ぐちゃぐちゃ言ってるもんね」 「わざわざ言うな、ばか!」 「ふはっ」 藍は一度スイッチが入ると、とことん意地悪になる。嫌だと言っていることをしつこくやってくるし、今回に関してはわざとローションの音を響かせるように大袈裟に指を動かし、由利の羞恥心を煽ってくるのだ。 静かな室内にぐちゃぐちゃと卑猥な音が響いて、由利はまるで自分の耳の中まで犯されているような感覚に陥った。卑猥な音が耳から入り込み、脳まで届いて頭の中までおかしくなりそうだ。 最初は違和感しかなかったこの行為も徐々に慣れてきて、今では違和感ではなくただただ『気持ちいい』としか感じない。 もっとして、もっと奥に来て、奥の奥に出して、うなじを噛んで。 快楽に堕ちた従順な体ではそんなことしか考えられなくて、こんなにはしたない自分のことは知らない。藍が相手じゃないとこんな恥ずかしいことは考えないだろうなと思うと、無意識にきゅうっと中を締め付けた。 「……どうしたの?中がきゅって締まったね」 「んん……っ、して、ない!」 「したの。僕にはちゃぁんと分かるんだから」 「ひぁ……!」 何本入っていたのか分からないが、中でバラバラに動いていた指が勢いよく引き抜かれる。腰を上げたまま固定されていた由利はへなへなと腰が落ちてしまう。束の間の休憩だと思っていたのだが、ぺり、という音が聞こえて少し首を傾けると、藍がコンドームの袋を破っているところだった。 「あ、あのさ、らん……」 「ん?」 「その、ゴムなしで、してみない?」 「……え?」 「いや、あの、そっちのほうが効果があるのかもと、思って……」 一度うなじを噛まれているが自分の体に変化がないような気がしているので、それならアルファとオメガが番になるときの条件を満たしてみたらいいと思ったのだ。これはネットの情報でしかないのだが、アルファがオメガの体内で果てた時にうなじを噛んだ時が最も番の成立がしやすいらしい。 由利と藍は番より前にビッチングの話なのだが、それに倣ってみるのもいいと思ったのだ。 「由利が許してくれるなら、そうしたい」 「……うん、大丈夫。お願い、藍」 そう言って誘うと、藍がごくりと息を呑むのが分かった。 藍でもそんな、余裕のない顔をするのだなと思うとなんだか嬉しくなる。彼は開けかけのコンドームの袋をぽいっとサイドテーブルに放り投げ、反り立つ自身を数回上下に扱いて収縮を繰り返す由利の秘部に押し当てた。 「……っゆうり、やばい…僕、あんまり持たないかも…!」 「あ、あ、おれもやばい、お腹の中、あっつい……っ」 ゴム一枚でこんなにも違うものか。 そう思うくらい、二人の邪魔をする薄い膜がないだけで火傷しそうなくらい熱いし、リアルに藍のことを感じて体内が喜んでいるのが分かる。藍の熱や脈などがダイレクトに伝わってきて、その嬉しさにぎゅっと締め付けてしまう。その度に藍が小さく唸って「ゆうり、力抜いて……!」と余裕のない声を出した。 「ゆうり、ゆうり、愛してる……!由利と繋がれて嬉しい、すごく気持ちいい……」 「んぅ、あぁっ…!俺もきもちい、藍、あたまおかしくなる……!」 激しく腰を打ちつけられ、顎を掴まれながらキスをされる。はぁはぁ、と荒い息を吹きかけられ、興奮して粘つく唾液をたっぷり流し込まれながら奥を刺激されるともう、何も考えられないほど興奮した。 「………っはぁ、ゆうり…!」 「あ゛ぁ……ッ」 後ろからぎゅうっと抱きしめられ、先日と同じ場所を噛まれると体が雷に打たれたような衝撃が走った。それと同時に、由利の中に熱い精液が注ぎ込まれるのが分かる。びくびくと痙攣している内壁が藍を締め付けていて、中からも外からも藍の刺激を受けた由利は自然に流れてくる涙で視界がぼやけた。 「……お願い、ゆうり」 「ん、ぁ……?」 「僕の"番"になって……」 くったりとしている由利の体を抱きしめる藍の涙で、噛まれたうなじには甘い熱がじわりと広がった。

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