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コロッケ

「さて本題だ。今回君らが揉めたのはさ、京介もまだまだ小僧だから言葉にできなかったんだろうけど…」  京介が小僧呼ばわりされるのを聞くのは初めてだった。  ほんわかした雰囲気の雄介ではあるが、やっぱり『父親』なんだなとなんだか威厳を感じる。 「てつやくんと京介は、もう家族な訳だろう?」  不意にそう言われて 「え…家族…なんすかね…」  ちょっと動揺してしまった。なんとなくだけど友達の延長というか、まあ家を構えると思った時点で出来はしないが「結婚」めいたことも考えたりはした。しかし「家族」とは思ってもみなかった。 「京介はただ単に、家族だから対等でいたいと思ったんじゃ無いかな」  さっき柾哉が言っていて、てつやに刺さった言葉『対等』がまたここでも出てきた。  柾哉も、経済的にまっさんに寄りかかりっぱなしにはなりたくなさそうだった…しかし自分らは別段そう言ったわけでもないし…。 「家族ってさ、みんなで力を合わせて家庭を作っていくんだよね。うちもさ、田舎から出てきてあの場所に家買ったけど、恥ずかしい話かなり無理をしたんだよ」  情けないけどね、と笑っていう。 「立派な家ですもんね、京介の家」 「なんだか見栄張っちゃってね、設計のうちからあれこれ盛り込みすぎてしまって、ぶっちゃけて言ってしまえば、今の時点でも詩織にまでローンが残るんだよ。情けないね」  恥ずかし紛れに、イカフライを口に入れてー参っちゃうよねほんとーなどと言いながらお酒も口にする。 「それをしたくなくて母さんもパートに出てくれててね、詩織もバイト代、君も知ってるだろうけど京介も出してくれてるよ。そうやってさ、家族全員がみんなで家を買って、家を守ってる。だから家の中で言いたいこと言って怒ったり笑ったりができるんだよ」 ーあ…ーと、てつやの中に少しだけ何かが見えてきた。 「まあ子供はね、そこまで心配してくれなくていいし、詩織から渡されてるものは全部かあさんが貯金してるよ。結婚式に使えるようにってね。話逸れたけど、だから、京介が今度住む部屋にお金をださなかったとするだろう?そうすると何が起こると思う?」 「京介が言いたいことも言えなくなってしまう…ってことですね…」  だいぶ見えてきた。 「それはてつやくんの思うところではないんじゃないかな」  てつやは黙ってしまう。 「あのお金さ、京介は高校の時からずっと、家に入れる分を引いたバイト代を全部貯金してたんだよ。自分の小遣いはまあその時なりに使ってたんだろうけど、ほぼ残り全部だったと思ってるよ。それどうしてだと思う?」  自分が裏新市街にいた頃の話だなと思う。  あの頃は日々が目まぐるしく過ぎ、みんなのことも考えているようで考えていなかったんだなと今更気づいた。  雄介は話を続ける。 「学生時代にそんなストイックに貯金してるのが僕も不思議でね、一度聞いたことがあったんだよ。そうしたらこう言ったよ。『てつやは今頑張ってるけど、もしどこかで折れてしまったり、また何かあって心が痛んだりしたときに、自分が助けられるように居たい』って、君のために貯金してたんだ。君との関係もさ、僕らがやけにすんなり認めたと思わない?それはそんなことを言う息子が、てつやくんに一途なんだなと知ってたからなんだよね。だから改めて君が話に来てくれた時、すぐに認めてあげられたんだよ」  知らないところで色々起こっていて、当たり前だがそれが総合して『今』がある。京介のそんな話が聞けるのも、自分たちがこうなったからで、その頃の自分も何かといえば京介を思い出していた時期だ。 「これは親心と思って聞いて欲しいんだけど、京介が新しい家で言いたいこと言って楽しくいられるように、君と対等に話ができるように…普通にマンションの部屋を買える金額ではないだろうけれど、でも京介も自分で得た家だと思うためにさ、貰ってやってくれないかな。京介の気持ち。それに僕はね、萎縮してしまう京介に意味がわからなくて苦しむてつやくんも見たくないんだよ」  ずっと押し黙って話を聞いているてつやの手の上に手を重ねて 「僕の息子たちが、幸せになるためにさ」  とっさに顔を見てしまったてつやは、雄介のその優しい笑顔に京介を重ねて 「ありがとうございます…」  そう一言だけ言って、手を重ね 「お父さん…」  と、囁くような声で言った。  突っ走り過ぎてたなと思った。自分が自分がと思うあまりに、恩返しがしたかったはずがいつの間にか相手の気持ちを蔑ろにしていた。  雄介はその上から手をのせてポンポンと叩くと 「いくら親子でもこれを見られたら京介に殴られてしまう」  などと言って笑い、優しく手を離してー1つ面白い話を教えてあげようーと、すでに笑いながらやっと一杯目のお酒を空けた。 「なんです?」  てつやも笑いながらお酒を注ぎ、自分にも注ぐ。 「対等にで思い出したんだけどね、僕も会社で昇進してもうかあさんがパートをしなくてもやっていけるようになったときに、もう仕事しなくてもいいって母さんに言ったことがあったんだ。その時に母さんが言った言葉がさ『私はお父さんや子供達と同じ量のコロッケが食べたいの』って言い出すんだよ」 「コロッケですか?」 「そう、なんでかわからないけどコロッケって言ったんだよ。なんのことかわからなかったんだけど、かあさんはね、『自分が家にお金入れていないと、きっとコロッケもみんなが2個食べても私は一個しか食べられなくなる。シチューもおかわりできない。だからパートはやめません』って」  思い出したのかクスクス笑って、おかしいだろとちょっとツボに入ったように笑い出した。 「対等ってそういう事なんですね、わかりやすいです…コロッケか」  自分も京介をそう言う気持ちにさせるところだったんだなと、理解するにはいい実例だった。 「君たちは特殊だけどさ、女性は家のことやったりで十分『仕事』はしてくれてるはずなんだけどね。かあさんはそういう考えの人なんだよ。あんなにフワフワしてて意外と中身は鉄の女性なんだよ」  「じゃあ京介は、眞知子さん似なんですね」 「うちの子は、中身みんなかあさんに似てるんだよ〜怖いくらいにさ。僕のこのなんて言うか自分でも思うぼんやりしたところないんだよなー」  それを聞いててつやはお酒を吹き出しそうになってしまった。 「自分で言っちゃいますか?」  そこで2人で笑ってしまう 「でも京介も詩織も、お二方のいいところばかりを受け継いでるように見えますよ。俺がそれ以上にぼんやりしてるからかもですけどねw」 「あ、僕のことぼんやりって言ったね!」  笑いながら責めてくる雄介に 「お父さんが先に言うから」  と2人で爆笑しあって、そこから小一時間。楽しい飲み会で終わった。

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