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やっぱり…
「じゃあ帰って、京介に今日てつやくんと話したことを話すから。それで|京介《あの子》がいつここに戻ってくるかはあの子に任せるね」
「はい…」
玄関まで見送って、京介の自宅までは歩いて20分はかかる。酒を飲んでしまって送れないからタクシーでもと言ったが、酔い覚ましに歩くという。時間もまだ9時ちょっと過ぎ頃だし平気と言うので
「じゃあ、お気をつけて」
「うん…ありがとう。あ、てつやくん」
「はい?」
「待っててあげてね」
父親の顔でそう言われた。
「勿論です」
雄介はその応えに安心して部屋を出ていった。
戻ってこないってことも…あるよな…
元々悲観論者なてつやは、すぐにこっちに思考が行きがち。それを自覚してるから、今はいやいや戻ってくるでしょ当たり前に…と気持ち入れ替えて、飲んでいたテーブルについて、1人で飲み始める。
今日は色々学んだ気がした。柾哉が結構まともなこと(失礼)。父親と言うものの存在感。父親に関しては仕方ないことだが、やはり少し悔しい気持ちする。
でも雄介は自分の息子「達」と言ってくれた。これからは自分にも父親ができたことも素直に喜ぼうと思う。
「あれ?」
てつやは持って来てもらった惣菜の唐揚げを口にしてふとパッケージを見てみた。
スーパーの惣菜ならば、プライスシールとか何かが貼ってあるはずだが、そのパックにはなくて、今食べた唐揚げは味に覚えがある。
これは、眞知子さんの手作りだ。そう思った時に、思わず笑みがこぼれた。
「全くあの家族…最高だな」
眞知子さんも、気にしてこんなに沢山作ってくれたんだな、と唐揚げを噛み締め、自分もその家族の一員だと思ったらなんだかうれしくなった。
見れば、ほうれん草のバター炒めや、ナスの揚げ浸し、肉じゃがなどが、俄然美味しそうになって、何度もうめえと言いながら食べた。
食べながら考える。
きっと戻ってきてくれるとして、どんな顔であったらいいのか。
何も分かってなかった子供の自分を京介はどう受け止めてくれるのか。それは不安でもあった。
大方食べ終わったころ、不意に玄関の鍵がガチャガチャ言う音がした
え、なになに?こわっ!
立ち上がりかけた時にはもう玄関が開いた音がして、なんだよなになに!
と怯えながらも迎え撃つ体勢を取り始めた。
大抵なら◯ れる。
京介にしても時間的におかしいから。
しかし、バタバタと短い通路を歩く音がしてリビングの扉が開いた時に入ってきたのはそのおかしいはずの京介だった。
「え…」
心の準備ができてない…とてつやは頭で思う。しかも早過ぎる。。お父さん家に帰ったか帰らないかだろう…なんで…
京介は息を切らしてリビングのドアを開けたところで立ち尽くし、こちらも勢いで来たもののどうしていいかわからん、と言った顔をしていた。
てつやは呆然としながら、その場に何故か京介に向かって正座をすると、自分の前の床をトントンと叩いて
「正座」
と一言言った。
それに反応して、京介は言われた通りにてつやの前に正座してなんでか2人は正座して向き合う。
そしててつやは、手はお膝の京介の両手を両手で握り込み、そのまま頭を下げて
「ごめん」
と一言だけいった。
そんなてつやの後頭部を見ながら、京介は
「いやいやいや、頭あげて。部屋でて行った俺が悪かった。もっときちんと話せてた…うわっ」
京介の言葉の途中で、てつやが抱きついて来た。その勢いで京介は後ろに倒れそうになるのをかろうじて耐え、足を崩しててつやを引き寄せて抱きしめ返した。
「ごめんな…俺お前の気持ち…解ってなかった」
肩に口を埋めて、ボソボソとてつやが話す。
「俺も話し合い放棄してごめん」
てつやの首元の髪を撫でながら、京介も言葉を繋げる。
付き合ってからも京介のマンション に住むまでは1週間会わないなんてザラだったのに、この1週間弱は随分長く感じた。
「会いたかった」
てつやが腕に力を入れ、ぎゅうっとキツく抱きつくと、京介も背中に回った手で愛おしそうに背中を撫でる。
「うん、俺も…」
「お父さんさっき来てたけど、会ったのか?」
「うん、俺帰った時玄関で会ってさ、てつやのところ行ってたって聞いて、そんだけで俺走ってきちまったわ。まさか親父がここに来るとは思わなかったから、びっくりしてスーツのままきちゃったよ」
「その姿見るのも久しぶり」
頭を上げて上体を離すと、てつやはーネクタイを解いてーと京介を見た。
言われるままにネクタイに手をかけ、少し緩め結び目を少し綻ばせ、下になっていた片方を抜き取って結び目を解き、手のひらをてつやに向ける。
てつやの好きな手が指が、てつやの好きな動作をするのをじっと見つめていた。
「次は?」
てつやのいうことはなんでもききたい。どんなことでも応える。
「シャツをボタン2個目まで開けて」
言われた通りにボタンを外し、今度はその手でてつやの腰を抱いた。
「次は?」
「今度は俺が」
てつやは開いた京介の鎖骨のあたりに唇を這わせ、そこを強く吸い上げる。
「俺の」
鎖骨についた所有印を舐めて、反対側の首筋低いところにも同じ印をつけた。
「ん、お前のだ」
2個目の印に指を這わせて、京介が言うと、その指にキスをして
「馬鹿みたいだよ、俺」
そう呟いて起き上がり、てつやは再び京介と目線を合わせる。
「なんで?」
言われてもう一度顔を隠すように抱きついて、
「なんだか1番子供染みてた…柾哉にすら負けてさ…いい気になってたわけでもないんだけど…なんでも自分が、って2歳児じゃんよ」
2歳児には流石に京介も笑う。
「おれ2歳児にこんなエロいことしてんの?」
背中の長Tの中に手を入れて、背中を直接撫で回している手を止めた。
「淫行だぞ」
てつやも笑って、ー手は続けて…ーとおねだり。
「淫行もなにも」
爆笑しそうになったが、手のお許しが出たのでそのまま肌を撫でてゆく。
その手に微かに感じ入りながらてつやは言葉を繋いだ。
「お前のことを考えているようで、全然考えてなかったんだなって気づかせてもらった…でもどうやってお前に会ったらいいのか色々考えてて、会って何から話せばいいのか判らなくていたら、お前が来た」
顔は見えないけれど、どんな顔で話しているのかは京介にはよくわかっていた。
「俺も、実は小林に色々言われてさ…話の持って行き方が不味かったって。確かにあんなふうに通帳出されて使って、なんて言われてもお前だって困るよな」
京介の口から「通帳」の言葉が出て、さっき雄介父さんから聞かされたその通帳の重みを思い出す。
何年もかけて、俺のために使おうって決めて貯めてた物。それをつっかえしてしまった罪。
「ごめんな」
その一言に色々が詰まっていて、京介は思わず強く抱きしめた。
「親父に何か聞いたな?」
笑った声が耳元でして、てつやも歯を見せる。
「色々聞いた。あの通帳が存在する意味も聞いたよ」
「喋り過ぎ、あの親父」
笑いながら悪口。
「親父っていいよな…俺にもいたら良かった…俺の本当の親父はまともそうだし」
そこまで言うともう笑うしかなく、2人は抱き合ったままくすくすと笑い合った。
「お父さんが…俺らのこと『息子達』って言ってくれたんだ。嬉しかった。俺にも父さんできたから、もういない親父はいらね」
「そうか…いいこともする親父でよかった」
京介の唇は、襟足の長い髪ごとてつやの首筋を這っていて、髪が揺れてくすぐったい。
てつやは顔を上げて
「ちゅーしよう」
と、照れ隠しに変な言葉で誘ってくる。京介もーわかったーといって軽く唇を当ててきた。
ちゅ、ちゅ、角度変えてちゅちゅ。笑いながらちゅ
「こんなんでいいのか?」
目の前に愛おしい人の笑顔
「そんな訳ない」
てつやも笑って、その後薄く開いた唇を京介のそれに当て、腕を首の後ろに回して舌を絡めていった。
穏やかに、キスをして何度も離しては笑い合い、そして何度も唇を重ねる。
今日はなんだか「そう言う気」にはなれないでいる2人。
こうやって抱き合って、キスして笑い合って、少し話してまたキスして、をずっとしていたい。
それでもいつかはどちらかが求めてはいくのだろうけれど、今はそれは要らなかった。
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