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第20話 気を遣ったのにぃ

 サービスエリアで休憩となった。  うとうととしていた藤行は彼の肩にもたれてぼーっとしており。「着いたぞ」と言われて初めて伸一郎にもたれかかっていたことに気がついた。 「ごは! ごめんっ」  バスのシートより心地よいなと思っていたら。ずっと体重をかけてしまっていた。  そのことを詫びるも怪訝そうな顔をされただけだった。 「なにが?」 「……え、えっと」  気にしてないのかな? (そうだよな! 俺を担げる熊が。俺がもたれたくらい、重いはずないよな)  返事を待っている彼に、ハンカチを開いてすっかりぬるくなった保冷剤を見せる。 「保冷剤、溶けた」 「保冷材は溶けるもんだろ?」  保冷剤を保冷バッグに仕舞う。 「それよかトイレ休憩だってよ。降りるぞ」 「うん」  彼の後に続きバスを降りる。  ううんと大きく背伸びをして、凝った筋肉をほぐす。血が流れだした気がした。 「あー。気持ちいい」 「俺とヤってる時より?」 「黙れよ! というか、夏のアスファルトだけど。本当に裸足で平気なの?」  気温が高ければ六十度にもなるというアスファルトの上を、この男は家の廊下でも歩くような顔で。  あわあわしている藤行の頭をわしゃわしゃ撫でる。 「何で撫でるんだよ」 「頭があったら撫でるだろ。ガキの頃、ジジイの山で走り回ってたから、足裏は丈夫なんだ」 「まじかよ。あ、でもサービスエリアでサンダルくらい売ってるんじゃね? 見に行こうよ」  彼の手を掴んで引っ張る。  結果から言うと、履き物は売っていた。しかし―― 「サイズがない……」  がっくり肩を落とす藤行の後ろで耳穴をほじる伸一郎。  伸一郎の足が大きすぎてぴったりなものがなかったのだ。なんだよ二十九センチって。親父の靴よりでけーし。 「あの、熊用の靴ってありませんか?」 「ありません……」 「店員を困らすな」  申し訳なさそうな店員から藤行を引き剥がす。年齢と靴のサイズ一緒男はそのままフードエリアに引きずって行く。  時間もあり、店の前には行列が出来ている。  各店の看板を見上げ、顎を撫でる。 「腹減ったな」 「昼飯ステーキなんだから、今食べたら勿体ないよ」  軽く食べるくらいなら良いが、彼が見ているのはがっつり系の店の看板。 「いいだろ別に」 「だーめ。ほら。バスに戻ろうぜ」  土産物も売っていたが初日で買うには早いと判断したので、大人しくバスに戻る。全員が揃ったことをバスガイドが確認し、バスは高速に戻った。  タイヤが高速を疾走する音。  バスガイドが目的地の歴史や良いところをマイクで話している。なので、多少声を出しても前の席の人には聞こえないだろう。  だからって、これは酷いと思うんだ。 「やめてってば。伸一郎さん」  言っても無駄だと分かっているが。言うしかない。  バスが動き出すと同時に伸一郎の手が、藤行の太ももを撫で始めたのだ。最初はどうしたのかと見ているだけだったが、何度も摩られているとくすぐったく感じてくる。 「うるせえな。お前のせいで腹減りが限界なんだ。責任取って暇つぶしさせろ」  これが彼の言い分だった。  昼食をよりおいしく食べるために、そして彼の胃袋のためを思い言ったのに、この仕打ちはあんまりだ。 「ちょっと……」  ぴくっと藤行の肩が揺れる。  大きな手が内ももに入り込む。急いで両足を閉じるも、彼の手は遠慮なしに動き回る。  さわさわと指先で引っ掻くように動かされ、藤行は手で口を塞ぐ。 (声が……)  内ももまでなら耐えることが出来たが、意地悪な彼がそれだけで終わらせるはずもない。  あろうことかズボンの上から股間まで摩り出した。 「んンっ……」  やめろオラァと右ストレートを決めたいが、手が足の間にあるこの状況で目立ちたくないし、恐らく殴った手の方が痛くなる。 「はっ。震えちゃって」  足の間の手が何度も上下する。その摩擦が普段はしっかり閉ざされている快楽の栓を緩ませる。ヤりなれている彼はその気になれば、情欲に火を点けるなんて簡単に出来るのだろう。バスの中でこれ以上のことをされたくなくて、彼を刺激しないよう大人しくする。 「ぅ……ん。ぁ……」 「声出てるぞ。そうだ。胸も遊んでほしいだろ?」  全力で首を振ったが奴は見もせず鞄を漁る。  出てきたモノに顔が引きつった。 「なに……それ?」 「ローター。胸につけてやるよ。夏仕様のヒマワリ柄が売ってたから選んでみたんだ。どうだ?」 「今すぐ死んでください」  旅行に何を持ってきてんだ。割と真面目に言うも笑って流される。  服を捲り上げられそうになり、流石に抵抗した。 「やだって。声出るもん!」  正確には声が出るようにされてしまった、である。  伸一郎はじっと見つめてくる。 「これが嫌なら到着するまでお前の口に舌突っ込むけど。どっちか選べ」  拷問に近い二択に声がひっくり返る。 「え、ええエ選べなかったら……?」  伸一郎は実にさらっと答える。 「尻穴拡張する。今、ここで」  こんな閉鎖空間で追いつめられることになろうとは。  もう、泣きそうな藤行が選んだのはローターだった。 「な、なんでこんなことにぃ」 「期待してたくせに。自分で服まくって乳首晒せ」 「期待してないし……ふざけんなっ!」  血が出そうなほど奥歯を噛みしめ、そろそろと服を持ち上げていく。  消えてしまいたいほど頭が熱くなる。 「は、早くしてよ。見られたら、恥ずかしいじゃん……」 「恥ずかしがってる顔も良いな。どんな気分だ? 人が大勢いるバスの中で肌晒す気分は」 「うるさい。禿げろ……」  伸一郎はわざとのろい手つきで、胸の突起にローターをテープで固定する。何で一日に二度も羞恥プレイを受けなきゃならないんだ。 「んっ……」 「貼っただけで感じたのか?」 「あ、あう……」  手が離れると素早く服を下ろした。ローターがある場所が不自然に膨らんでいる。 「さすがに目立つよ……」 「まずは『弱』からするか」 「聞いてる⁉ 伸一郎さっ」  びくんと藤行の身体が跳ねる。ローターのスイッチを彼が入れたのだ。  強制的に振るわされる乳首。必死に口を押えた。 「んっ。んっ……」 「藤行はこういう玩具。使ったことあるか?」  だから、使う前に聞けや!  涙目でぎっと睨みつけながら首を横に振る。 「マジかよ。お前、ローションもエロアイテムも使わずに生きてきて今まで楽しかったか?」 「うンッ、楽しかったわ……くそが」  声を出さないようにしているのに、性格上どうしても言い返さずにはいられない。 「ふう……はアッ、ん。ん……う……ぁ」 「そんなに口を押えていたら吐きそうだと思われるぞ」  手首を掴んで口から離される。 「だって……はあ、うあ。も、む、むりぃ」 「まだ到着には時間がありそうだな」  先ほどの続きと言わんばかりに、彼の手が太ももを撫でる。 「嘘っ。ン、や、あ。とめ、て。ローター……とめてっ」  どうしても手が口に行きそうになるので、彼の腕を掴んでおく。力を込めるも彼は痛がる素振りさえ見せない。 「伸一郎さん。やだぁ……」  恥を忍んで彼に身体を寄せて懇願するが、なんとその表情をパシャっとスマホで撮影された。 「……え?」  ぽかんとなる藤行。  彼はのんきにスマホ画面を眺めている。 「うっわ。えっろ。待ち受けにしよ」  とんでもないことを言われた気がする。  藤行が発狂する前に、シャッター音が聞こえたバスガイドが遮る。 「はい。もう撮られていらっしゃる方もおられますが、この先しばらくヒマワリ畑が続きます。皆さま、カメラのご用意を」  いつの間にか高速道路から下りていたようだ。  言われて窓の外を見てみれば、遠くに黄色の畑が見える。藤行は彼の腕に自分の腕を絡める。 「俺も、アッ、ん、ヒマワリ見たい。お願い。あ……んっ、今だけで、いいから……とめ、て。ああっ」  びくびく震えながら頼み込むと、伸一郎は口元を押さえた。 「誘ってんのか? お前。すげー頼み方すんじゃん。どこで覚えた?」 「いいからっ。とめろや……変態」  くいっと顎を掴まれ、目を合わせられる。 「あ……」 「その変態に気持ち良くされているのは誰だよ?」 「いいから、とめてってば。あ、ぁ。ヒマワリ過ぎちゃう……ぅ」 「藤行。イくなよ? 下着濡らした状態で昼飯食う羽目になるぞ」  な・に・を他人事みたいに言ってんだあああ!  こうなってんのも誰のせいだ。いや、俺も一ミクロンくらい悪かったかも知れないけど。  ――と言い返す気力もなく、彼の腕にしな垂れかかる。 「……う、ぅ。伸一郎、さんっ……あ、ああ。んぁ……」  自力で声が押さえられなくなってきたため、彼のシャツを噛んで耐える。 「ふう。ん、ん……ふ、ぅ」 「藤行」  なんだか、伸一郎の胸からどくんどくんとやたら大きな鼓動が聞こえる。やはり身体がでかい分、心臓も常にフルスロットルなのだろうか。などと、快感に支配された頭で考える。 「おねがい……。はやく、早くぅ……」  伸一郎はがしがしと髪を掻く。 「仕方ねぇな」  カチッっと音が聞こえ、ローターが大人しくなった。太ももを撫でる手も離れる。  我慢できず、藤行は自分でローターを取った。 「……はあ、っはあ……あ、ありがと。とめてくれて」 「は? キスは?」 「こんなバスの中でするわけないだろ。お前だけバス降りて走れ」  彼の靴で彼の足を思いっきり踏みつけ、窓に額をくっつける勢いでヒマワリを眺める。 「いって……この野郎」 「うわ~。ヒマワリすげー」

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