28 / 94

第28話 推しDomがサロモだった件について

「はい、こっちにゃん来い。手は、にゃんの拳の形だこの馬鹿たれが」  と、SNSフォトブースで芹沢が希逢に指示出しをしてポーズを決めさせる。照明をバンバン当ててまるで本物のサロンモデルの撮影みたいだ、と由羽は見守る。なぜか希逢は猫のにゃんポーズを芹沢に強制されており、むすっとした無表情で撮影に臨んでいる。それにしても、芹沢は希逢のことを「馬鹿たれ」と呼ぶのが当たり前のようだ。そのことに由羽が少し笑ってしまいそうになる。けれど、きっと笑ったら希逢がキレかねないので笑いをこらえて様子を見守ることにしたのだ。ちょうどハロウィンの季節でこの間、由羽はウォン・ポムとフォトブースの飾り付けを行ったばかりなので、早速お役に立てて嬉しい。ウォン・ポムも目を輝かせながら希逢の撮影を見つめている。 「すみません。この骸骨持ってもいいですか?」 「はい。ぜひお使いください」  芹沢の問いかけに由羽は笑顔で答える。すると、希逢が骸骨を持ち上げ抱きしめるポーズを撮った。その瞬間、ぱちりと由羽にウィンクをしてきた。由羽はぴく、と反応する。  え、今の……俺にウィンク送ってくれたのかな? いや、まさか撮影中だぞ。俺の気のせい、気のせい。  由羽はふるふると頭を振って、撮影風景を見守る。 「いやいや、とても素敵な撮影ブースをお貸ししてくださりありがとうございます」 「いえいえ。お役に立ててとても嬉しいです」  芹沢と由羽の話に聞き耳を立てながら、希逢はちらちらと由羽のことを見る。  ーー……やっば、かわいすぎるこの生き物。  ぱっちりとした二重は垂れ目メイクをしているのか、穏やかな印象を受ける。少し長さのあるウルフカットは、全体がミルクティー色なのだが、前髪から触覚にかけて薄い水色に染められている。  1つびっくりしたことがある。それは、由羽が想像よりも背が高いことだった。希逢の身長は186センチと高身長の部類に入るが、由羽も180センチはあるのではないかというほどの背の高さなのだ。希逢はてっきり、由羽は小柄な人だと思い込んでいたため、長身に映える長くて細い足を想像したら頭がピンク色に染まりそうなので、ふるふるとかぶりを振った。 「おい。馬鹿たれ。お礼を言いなさい」  芹沢からの呼びかけにハッとして振り返れば、由羽がいつのまにか、ちょこんと希逢の隣にいて微笑んでいる。まるでオーガンジーリボンに包まれたような儚さを見た。 「……ありがとうございます。すごく……良い髪型です」  芹沢が見ている手前、ラフな口調にはなれなくて仕方なく真面目くんモードをちらつかせる。 「良かったです。ありがとうございます」  由羽はにこ、と笑顔を見せて入口まで見送りにきてくれる。  ーー……やば。めっちゃかわいい。叶うことなら今すぐにでも唇に噛みつきたい。  由羽が深くお辞儀をして希逢と芹沢を見送ったところで、移動に使っている車の中に入り込む。今日の運ちゃんは誰かなと希逢は思いつつ、髪の毛に触れる。この髪の毛に由羽の手がくっついたり離れたりしてたんだな、と思うと身体が熱っぽくなってしまう。

ともだちにシェアしよう!