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第31話 初めての推しあーん
駅前の大通りから歩いて5分ほどのところにシックなビルが建っていた。その中のエレベーターに希逢が乗り込むと、由羽も続いて乗り込んだ。
ちら、と由羽は希逢のコーデを見る。さっきまでは外で暗かったからよく見えなかったけど、今日はブラウンが基調のタータンチェックのロングコートに、インナーはハイネックの白のニットを着ている。アイボリーのハイウエストのスラックスに覗く黒いブーツ。あ、これ有名なブランドのブーツだ。履きこなしている姿がかっこよくて、品があって素敵だな、なんてことをぽんやり考えていたから、不意に希逢が由羽の腕を掴んだので驚く。
「ドア、挟まっちゃうよ」
ふん、と鼻を鳴らして希逢が見つめてくる。その目はちょっと意地悪だ。由羽は恥ずかしさで焦りながら、しどろもどろに返事を返す。
「あ、ごごごめん。ありがと」
6階にお店が入っているらしい。腕を掴んだまま、希逢が店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ。2名様でよろしいですか?」
明るい声で大学生くらいの歳の女の子が案内してくれる。2人がけの小さな席に案内された。至近距離で対面する席だ。由羽はどきどきしながら席に座ろうとする。すると、希逢が由羽に
「コート。ここかけられるから、ちょうだい」
「あ、ありがとう」
至れり尽くせりだなと嬉しく思いながら、コートを脱いで手渡す。希逢もコートを脱いで白のハイネックニット姿だ。
「どれにする? これメニュー」
メニュー表を広げ2人で覗き込む。
「えっ。すごい。めっちゃ芸術的なパフェだね」
写真におさめられたパフェは色とりどりで、そのパフェごとにテーマがあるらしい。パフェは飲み口の広いワイングラスのような器に入っており、繊細なデザインの飾り付けが施されている。
「ここの店よくSNSでバズってるから、1回来てみたかったんだよね」
そう言いながら、ちら、と希逢が由羽に視線を送った。由羽はメニュー表に目を奪われてその視線に気づかない。そんな由羽のパフェに夢中な様子に希逢はひとり心の中でくすりと忍び笑いを洩らす。
見れば見るほどかわいいよな。今日の服だって、くまちゃんみたいな色味のコーデだし。やっぱロングのウルフって中性的でいいよな。男からも女からもモテそ。つか、さっきオッサンに女だと思われて絡まれてたし……。変な虫がわかねえように気をつけねえと。
「希逢くんっ。俺、これに決めた!」
「うん。どれどれー。へえ。バレリーナをモチーフにしたパフェか。いいねパンツ見れそうで」
「ち、ちがっ、そういう意図はないよっ。普通に繊細なデザインがかわいかったから!」
「ぶっ」
由羽があわあわとして否定してくるので、希逢は思わず吹き出してしまった。
こいつ、ウブだよなー。おもしろ。からかい甲斐がある。
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