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第32話 きゅるきゅるパフェ
由羽は頬が熱くなるのを感じながら、希逢のことを見つめる。にやにやと口端が上がった意地悪な表情と、細められる黒い瞳。瞳の中は墨を水で溶いたように艶びている。その瞳をみていると、無意識に身体が欲してしまうのだ。Dom特有の支配的な視線を、由羽のSubとしての性が欲しがってしまう。いやいや、今はそんなこと考えない! と自分の助兵衛な頭にかぶりを振って、希逢に問いかける。
「希逢くんは? パフェ決まった?」
「んー」とメニュー表に気だるげな目線を落とすと、「これ」と長く華奢な指先でパフェを指さした。
「天の川がモチーフのパフェ? すごく綺麗だね。青紫と赤紫色の部分、紫陽花みたいな色でとっても綺麗。どんな味するんだろう」
「味見させてやるから、由羽のもちょーだい」
「えっ。いいの? 嬉しい。ありがとう」
ふん、と満足気な表情を浮かべる希逢を見て由羽はあることに気づく。この子褒められて伸びるタイプかも、と。もちろん由羽自身も褒められて伸びるタイプだ。稀に、叱られて伸びるタイプがいると聞くが、由羽は人を叱って伸ばすことが苦手でyourfのメンバーにも、基本的には褒めて伸ばすことをモットーにしている。
希逢が店員に注文を終えると、2人の話題はパフェから別のものへと移った。
「休みは不定期? 美容師って土日も祝日も仕事のイメージあるけど」
希逢からの質問に由羽は「うん」と頷く。
「まあ俺も休みは不定期だから似たようなもんだな」
そうなんだ。希逢くんも休みは不定期なんだ、と由羽は心の中でメモをとる。
「由羽はなんでSweet play課金して俺にいいねしてくれたの?」
突然の核心を突くような質問に、由羽は飲んでいたお冷を喉の途中で詰まらせるところだった。ゴホゴホと咳き込み、呼吸を整える。その間、希逢は「ふ」と軽く1呼吸笑ったのみだった。由羽は机の下で手を揉みながら答える。
「俺、もともと希逢くんーーエースくんのファンで、最初は無課金でアプリ使ってたんだけど最近良いことがあったからそのご褒美で課金することにしたんだ。それと、いいねは……エースくんのこと推しだから、もっとエースくんのこと知りたいなって思ったから勇気を出して送ってみたの」
緊張のあまり早口で伝えてしまったが、希逢の反応が怖くて由羽は目を合わせられないでいた。
「そっか。それはうれしい」
「ふむむ」とご機嫌な様子の希逢を見て由羽は安堵する。肩の力が抜けていく。
よかった。変な奴だと思われて軽蔑されたらどうしようかと心配していたから。
「良いことって何があったの?」
その笑みのまま希逢が聞いてきたので、由羽も少し恥ずかしいけれど、小声で伝える。
「俺、実はインフルエンサーをしてるんだ。まだまだひよこだけど」
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