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第33話 実は俺、インフルエンサーなんです
「ふうん。どんなインフルエンサーしてんの」
希逢の帯びる空気が変わったことに気づき、由羽はしどろもどろになりながら答える。
「えと、主に動画配信してて、メンズメイクのやり方とか、メイクレシピとか、ヘアアレンジのやり方とかを視聴者さん向けに投稿してるよ」
由羽はまた早口に説明をしてしまい、後悔する。緊張すると早口になってしまう癖は子供の頃からのものだ。
「メンズメイクのやり方って、由羽すっぴん見せてるの?」
「まあ、スキンケアから見せてるからすっぴん見せちゃってるかな」
すると、途端にむす、と膨れ面をして希逢が由羽を見てくる。
なんだろ、なんか気に触ること言っちゃったかな……。
少ししょんぼりと肩を落としていると、ぷに、という触感が頬を撫でた。
「俺以外にすっぴん見せないで。俺にしか由羽の顔見せないでほしい」
「う、うん」
真剣な表情で言われるものだから、由羽はびっくりしながらこくこくと頷く。頬を撫でるのは先程メニュー表の写真を指さしていた希逢の指だった。華奢だけど骨がくっきりしてて、ごつごつとしている指先。人差し指と中指にはシルバーの指輪がはめられている。重厚な雰囲気が感じられた。
「お待たせしました。こちらご注文のパフェになります」
そのタイミングでパフェを持った店員が席に来た。2つのパフェを提供すると、その場を立ち去っていく。由羽は目の前に現れたパフェの造形にうっとりとして、言葉が出ない。
「由羽。ほら、写真撮ってあげる。こっち見て」
「えっ」
いつのまにか、希逢がスマホのカメラを向けている。希逢はパフェをお披露目するように手のひらでポーズを撮った。視線はカメラを見つめる。
「うん。いいね。後で送る」
「希逢くんも撮ろうか?」
「ん。じゃあ頼も」
由羽がカメラを向けると急に希逢の目つきが変わる。モデルの目になった。切れ長の瞳が由羽を見据える。由羽はパフェよりも希逢の表情に引き込まれて写真を撮っていた。
「すごいね。さすがサロンモデルさんだ」
「まあまあそれはおいといて。ほら、あーん」
希逢に感心していると、由羽の前に青紫と赤紫色のジュレをスプーンに掬った希逢の指が見えた。
「ほら、おくちあけて」
「はい」
あー、と口を開けて希逢が掬ってくれたパフェに口をぱくと吸い付く。つるん、と冷たいスプーンが舌の上を滑って出ていくのが少し恥ずかしかった。
「どお」
「あ、おいしっ、です。なんか、甘い葡萄みたいな味する」
「じゃあ俺もしてもらお」
あー、と軽く口を開けている希逢の姿に由羽はどきりとする。まるで親鳥から餌を待つ雛のようなそれに微笑ましくも思える。けれど、由羽の頭の中にはこんな艶やかな唇にキスされたら溺れちゃいそう、などという不埒な気持ちしかなかった。それを恥じながら、由羽は自分の前にあるバレリーナのパフェの白いアイスとその上にかかるピンクのソースを掬い希逢の口に近づけた。
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