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第34話 あーんって言えよ
「あーんって言えよ?」
意地悪な命令にスプーンを持つ手が震えてしまう。
「あーん」
「ん」
ぱく、とスプーンに吸い付くと希逢が少し目を見開いている。由羽はゆっくりと希逢の口からスプーンを離すとそのスプーンを希逢に渡そうとした。
「おいしいー。あ、バレリーナのパンツ見ないと」
「いや、見ないから!」
希逢は掛け合いの中で、由羽が差し出したスプーンを怪訝な目で見る。
「いいよ。由羽なら俺のスプーン使っても」
「え、でも」
「俺の命令聞けるよね」
「う、はい」
ぎらりと希逢の目が光ったのを見て、由羽はスプーンを手元に戻した。やばいこれ、間接キスになっちゃわない? と内心焦りつつ、でも目の前の希逢は既に希逢が口をつけたスプーンで躊躇いなくもぐもぐとパフェを口に運んでいる。
あ、そういうの気にしないタイプの人なのかも。
1人納得して、バレリーナのパフェに口をつける。まずはホワイトチョコレートで作られたバレリーナの形をしたものを少し割りながら食べ進めていく。パキパキとした食感が楽しい。大きなパフェだけど、甘くてもったりしないからすいすい食べ進められる。全体的にかけられたピンクのソースを口に含む。ふむふむ、桃味だ。珍しいな。普通、ピンクのソースと言えば苺味が多いのに。パフェをもぐもぐと食べ進めていくと、スプーンがゴリ、という鈍い物に当たる感触がした。おそるおそるスプーンを持ち上げてみればグラノーラやドライフルーツが入っている。口の中でザクザクとした食感が楽しい。うきうきで食べ心地に満足していると、じーっという強い視線を感じて目線を上げた。すると、そこにはパフェをまるっと食べ終えた希逢の姿があった。いつのまに食べ終えたのだろう。いや、むしろ由羽のほうが食べるのが遅いのでは? そう思うと待たせてしまうのがなんだか申し訳なくなって、ぱくぱくと口を動かす。
「いいよ。ゆっくりお食べ」
にこーり、と微笑みを浮かべる希逢は肩肘を机に乗せて手のひらを頬に預けていた。
「ひゃい」
希逢からの優しげなフォローもあって、由羽はその後ゆっくりと味わいながらバレリーナのパフェを食べ終えることができた。
「ちょっと手を洗ってくるね」
「おっけ」
由羽が席を立ち御手洗へ向かうと、希逢は店員を呼び会計を済ませた。かけておいたコートを外して手元に置く。希逢はスマホのカレンダーを見つつにらめっこする。ちょうどその頃、由羽が御手洗から戻ってきた。
「お待たせ。あれ? お会計は……」
「済ました。さ、行こ」
希逢は由羽にコートを手渡すと自身も袖を通した。
「あ、あとっ、ありがとう」
「うん」
由羽は頬っぺたを紅くして照れている様子だ。希逢は満足して店を出る。由羽もそれに続いた。エレベーターの中で、希逢が一言零した。その言葉はまるで小さな爆弾みたいに由羽の頭の中で爆ぜた。
「今夜、俺ん家泊まろ」
「ふゅ?」
由羽はどういう意味かわからずに混乱する。希逢には、由羽が混乱して頭の周りに小さなひよこ達が飛んでいるのが見えるように感じた。
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