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第57話 合法になったら抱く
15分ほどしてから希逢がユニットバスから出てくる。髪の毛を滴らせている。濡れた黒髪は綺麗でつい触りたくなってしまう。そんなことを考えながらドライヤーで髪を乾かしていると、その手を後ろから取られた。
「俺がやる」
「……ありがとう。お任せします」
希逢が後ろから由羽にドライヤーをあてる。8割程は乾いていたのであとは毛先や根元を乾かすだけだ。希逢は自分の髪の毛のセットで手馴れているのかドライヤーのあて方が上手い。由羽は感心しながらあたたかい風に揺られていた。綺麗に乾いたところで、希逢の手がドライヤーのスイッチを切る。
「すごいさらさらだな。絹みたい」
「ホームケアに力入れてるんだ。ブリーチ毛は痛みやすいから」
「ん。じゃあ俺のも乾かして」
甘えるような目で言われて靡かない由羽ではなかった。希逢の髪の毛をタオルドライしてから、ドライヤーをあてる。ぶおおぉんと大きな音が部屋に響いた。希逢は目を閉じている。由羽はサロンでやるように、ヘッドマッサージをしつつ髪の毛を乾かしていく。10分程で乾いた。
「あとは洗い流さないトリートメントをつけて、コームで整えたら寝る準備オーケー」
由羽はユニットバスから個包装のトリートメントを持ってきて開封する。2人分持ってきてまずは希逢の髪の毛につけ、コームで浸透させる。続いて由羽も髪の毛につけてコームで整える。
「はー。ヘッドマッサージすごいわ。身体の力抜けそ」
「リラックス効果があるみたいだから、エステみたいなものかもね」
ふわぁと大きく伸びをした希逢の姿を見て安心する。自分の持てる技術で癒すことができたみたいだ。希逢はそのままベッドに横になり、毛布を持ち上げてこちらを見つめる。
「おいで。由羽」
希逢のさらさらの髪の毛と、色白なくすみひとつない肌は絹のようだ。由羽は「お邪魔します」と一声かけて広げてくれた毛布に潜り込んだ。希逢とバスローブ越しに熱を感じられてじわじわと身体があたたまる。希逢は由羽の髪の毛を指で梳きながら、静かに話しだす。
「俺、12月24日で18歳になるから。そしたら合法的に由羽を抱く」
真剣な瞳で告白され由羽はどきんどきんと胸が高まる。
「不良みたいな見た目なのに、法律遵守はえらいね」
「はあ? 馬鹿にしてんの」
「ううん。馬鹿にしてないよ。自律できててえらいなって尊敬する。俺が希逢くんと同じ立場だったら我慢できなくて襲ってるもん」
「へえ。襲われたいの」
にやりと口端を不敵に上げる希逢を見て、由羽はしどろもどろになって弁解する。
「ち、ちがっ、そういう意味じゃないけど」
「目が期待してんの。じゃあ、お言葉に甘えてその時は合法的に襲うから覚悟しとけよ」
おでこを指の腹でつんと撫でられ、身体の力が抜けていく。
「うん」
「ねみい。そろそろ寝るか」
くわあと大きく欠伸をしながら希逢が身体を伸ばす。
「そうだね。寝ようか」
そろそろと由羽が希逢の身体から離れようとする。眠るときまでくっついていたら、寝にくいと思ったからだ。
「何離れようとしてんの。抱っこしたまま寝るに決まってんだろ」
「えっ。でも重くない?」
「全然。ジムで鍛えてるから任せろ」
「じゃあ、お願いします……!」
由羽は希逢の胸の中に頬を埋める。とくとくという規則正しい希逢の心音に落ち着きを感じる。そのまますうすうと寝息を立てて眠ってしまった。由羽の安心しきった寝顔を見て希逢が微笑んでいることなど知らずに意識を手放した。
「はやく18になりてえな……」
苦笑しながら呟く希逢の願望は、部屋の中にすとんと消えていった。
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