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第59話 推しDomからの愛は重めです

 由羽がスマホを確認したのは仕事が終わった夜の8時頃だった。 「わっ。なんだこの大量のメッセージと鬼電。全部希逢くんからだ。なんでだろ? なんかしたかな、俺」  試しに返信してみる。 『ごめん! 仕事でスマホ見れてなくて今見たよ。電話は帰宅したらできるからまた連絡するね』  30分待っても返信が来ない。既読すらつかない。由羽は帰宅してシャワーを浴びた後も、希逢からのメッセージを待っていた。そして、自分なりに希逢の気持ちを予想する。 「怒ってるのかな」  希逢からのメッセージには嫉妬の色が色濃く見えた。直接電話で話したほうが雰囲気もわかるし、伝えやすい。うーん、と悩んでいるとピリリとスマホが鳴った。見れば希逢からの電話だった。手汗をかきながらスマホをつかみ、画面をタップする。 「こんばんわ。希逢くん?」 「ああ。帰って寝てた。で、どういうことか説明しろ」  明らかに不機嫌モードがオンになっている。由羽はなるべく言葉を選んで説明を始める。 「あの日は希逢くんに迎えに来てもらうまでは、職場の後輩とバーにいたんだ。そこで後輩から告白されて、俺が驚いて焦ってる間にキスされたんだ。俺にはその気はないって断ったら謝ってくれて、あと、その……」  状況説明はできたが、その後の部分に重要なことが含まれているので由羽は言葉に迷う。 「ふうん。まあ、大体状況はわかった。続き教えろよ」  希逢の声は先程よりも少し普通の声音に戻っていて、まずは安堵する。 「あの……後輩が、俺に好きな人いるの? って聞いてきて、いるよって答えたら……あ、う、その……」 「|Say《言えよ》」  電話越しのCommandに口元が勝手に開く。 「っ。俺は希逢くんが好きだから、後輩がその人にメッセージ送ったほうがいいって言って送ったんだ。それで希逢くんが俺のこと迎えに来てくれてっ、だから、そのっ」  必死に説明する由羽の慌ただしい手振り身振りの様子が容易に想像できて、希逢はくくくと喉を震わせる。その笑い声が聞こえたのか、由羽がほっと一息ついたのが聞こえた。 「意地悪した。悪い。そういうのCommandで言わせる男はしょうもねえな」  希逢の機嫌はすっかり良くなり、いつものように気だるげな口調だ。由羽はその声を聞いて安心する。それと同時に自分はとんでもない告白をしてしまったんじゃないかと頬が熱を持つのを感じた。 「俺は会ってから伝えたいから、少し待てるか?」 「えっ。も、もちろん。いくらでも待つよ」  ぶんぶんと見えないしっぽを振っているのがバレたのか、希逢が返す。 「忠犬かよ。忠犬Sub公・由羽」 「ちょっとそのニックネーム恥ずかしい。なんか俺ハチ公みたいにずっと待ちぼうけしてるみたいで切ないよ」 「いいだろ。その通りなんだから。今も嬉しくてしっぽぶんぶん振り回してるくせに」 「う……それは、そうだけど」 「はー。でもこれでわかったわ。これ芹沢情報だから、今度芹沢に会ったら一発殴ってやれよ。芹沢の勘違いですって」  ぷぷ、と笑ってしまう。マネージャーの芹沢情報だったんだ。由羽が希逢と同じ立場だったら鬼メッセージや鬼電の動機もわかる気がする。 「じゃ、誤解は解けたところで俺も家のことやって寝るわ。明日朝早い」 「忙しいところごめんね。明日も仕事?」  ふふ、と希逢が電話越しに笑うのが聞こえた。 「謝らなくていい。そういうときはありがとうでいい。明日は持久走大会があるんだよ、学校の」 「そうなんだ。寒いだろうからカイロとか持って頑張ってね。応援してる」 「えー応援してくれんだ。そしたら、持久走大会で校内1位になったらご褒美ちょうだい」 「うん。いいよ」  由羽はほのぼのと答える。 「頑張るわ。オヤスミ」 「うん。おやすみー」  電話を切った後、由羽はすやすやと寝た。一方の希逢というと 「あいつご褒美の意味わかってねえだろ」  と、ベッドの上で腹を抱えて笑った。

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