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第60話 ご褒美ください
翌日の夕方に希逢から1件のメッセージが届いた。
『持久走校内1位!』
1枚の写真も添付されていた。友人に撮ってもらったのだろうか。紺色の体操服を着ている立ち姿。ピースサインを浮かべているが、表情は仏頂面だ。おそらく友人に「はい、ピース」と言われやむなくポーズをしたのだと思われる。由羽は今日は夕方に仕事が終わったため帰宅しているときにそのメッセージを電車の中で見た。高校生らしいあどけなさと素直じゃない姿を見て、希逢は本当に高校生なのだと理解する。それが微笑ましくて電車の中では笑うのを我慢するのが大変だった。希逢に
『おめでとう。いっぱい走って疲れたでしょ。今日はゆっくり休んで』
と返信したところ、爆速で返事が来た。
『ありがとー。ねえねえご褒美ちょーだいよ』
由羽は、ああそんな約束をしていたなと思い出す。高校生のご褒美って何かな。チュタバのコーヒー券とか、ホールケーキ? 無難にアマニャンのギフトカードとか? 身近に高校生の友達がいないから流行がわからなくて迷っていると、希逢から追撃のメッセージが届く。
『今夜、俺ん家集合ね』
「えっ」
と電車内で思わず声を出してしまった。由羽は恥ずかしさを覚えながらメッセージを打つ。
『急にいいの? 身体疲れてない?』
心配するメッセージを送れば、希逢から
『問題ない』
と返ってくるので、由羽はむむむと考え込む。幸い、今日はもう帰宅しているところだし明日は遅番だから昼までは自由だ。
『ね。おねがい』
希逢がうるるんとした目でこちらを覗き込んでいるシーンが浮かび、由羽は決心する。
『うん。今から向かうね。住所教えて欲しいな』
『やった。東京都〇〇区の……』
『了解。希逢くんは今はお家?』
『うん。風呂はいってアイス食ってるとこ。インターホン鳴らしてくれれば出るから。待ってる』
『オーケー。向かいます』
由羽はまずはご褒美にと駅構内にあるお気に入りのケーキ屋でケーキを選ぶことにした。タルトケーキが有名な店で、ピースとホールどちらのサイズにするか迷い、ピースの詰め合わせを選んだ。4つのタルトケーキが入ったセットで手土産にちょうどいいとお店の人が教えてくれた。それぞれ味が違うので、食べたい味を後で希逢に選んでもらおうと考える。
タクシーで希逢の家へ向かう途中、そういえばご褒美ってなんだろうという疑問が浮かんだが、希逢に2日連続で会えることが嬉しくて、どんなご褒美でもいいやと楽観的に落ち着いてしまった。
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