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第61話 100回キスして
ピンポーンとインターホンを鳴らすと、希逢が出てくれる。
「んー。今開けた」
「ありがとう」
洗練された雰囲気のロビーを通り抜け無機質なエレベーターに乗り部屋へ向かう。その間、由羽の胸がとくとくと高鳴っていた。また自分の見えないしっぽがぶんぶんと動いているのを感じる。部屋の前でトントンとドアを叩けば、ガチャとドアが開いて中から希逢が出迎えてくれる。お風呂上がりなのもあってか、髪の毛がドライヤーしたばかりでほわほわとしている。あかちゃんの産毛のようでかわいいな、なんて思っていると強く腕を引かれてその場で口に吸いつかれた。玄関先で肩を押さえられ身動きがとれない。ちゅ、ぢゅ、と唇の中、口内を舌で絡め取られる。熱くて肉厚な舌に翻弄され、口内をかき混ぜられる。獣のようなキスに足腰が震える。全身全霊で求められていることが何よりも嬉しくて、由羽はその口付けに身体を任せた。たっぷり10分ほどキスをしていただろうか。味わい尽くしたと言わんばかりに、希逢はご満悦な様子だ。由羽はぷるぷると震えながら、玄関のドアに背をもたれているので精一杯だった。
「はは。足腰震えてんね。ごめんな。待てなくて」
ぽすぽすと希逢に頭を撫でられる。ほう、と微睡んでいると希逢に優しく手を握られリビングへ連れていかれた。
「由羽仕事お疲れ。ここ、座って」
どかっと希逢が座ったソファの隣をぽんぽんと示され座る。すると、じっと目を合わせてきて頬を緩めている希逢に吸い込まれそうになる。はっとしてケーキを買ったことを伝える。
「これ、俺からのご褒美。タルトケーキ買ってきたよ。今食べる?」
「まじ? 嬉しい。ケーキとか久しぶりすぎる。冷蔵庫にしまっておくわ。後で食べよ」
希逢にケーキの入った白いボックスを手渡し、由羽は桃色のリップを塗り直す。先程のキスでかなり色落ちがしてしまったから。グロスも塗って少し大人っぽく見せる。そうこうしているうちに希逢がキッチンから戻ってきた。
「さっそくだけど。ケーキのご褒美も嬉しいけど、俺はもっと特別なご褒美が欲しい」
真剣な瞳で言われると不思議と身体が前のめりになる。希逢の表情を見つめる。
「特別なご褒美?」
きょとんとして首を傾げていると、希逢から爆弾発言が落とされた。
「俺に100回キスして」
「ひゃ、ひゃっかい!?」
「うん。ねーお願い」
きゅるるんとした期待を込められた目で見つめられ、由羽はたじたじと目を泳がせる。まさかそういったご褒美を想像していなかったので、顔に熱が集まってしまう。
「はは。照れてる顔かわい」
「み、見ちゃやだ」
ふい、と由羽がそっぽを向くと希逢がぽむぽむと由羽の頬を掴む。
「ふうん。俺の言うこと聞けるよね?」
「……うん」
「じゃ、お好きなとこどーぞ。俺がカウントするから、由羽は好きなようにキスしていいよ」
「わかった。失礼します……」
希逢の身体からはせっけんの匂いがする。すんすんと首筋をかぐ。いい匂い。由羽はまず、ソファの上で希逢の頬っぺたにキスをしてみた。ふに、とした柔らかい頬。希逢の肌はつるつるすべすべで、きっと肌管理もストイックなのだろうと考える。黄金のあかちゃん肌なのだ。
「はい。1回」
にこにこと由羽のことを優しい眼差しで見つめてくれる希逢にほだされ、由羽は次々とキスをしていく。服からはみ出している腕に、手のひらに、人差し指に。人差し指を舐めると、ぴく、と希逢の身体が跳ねたような気がした。熱にうなされたような強い瞳で希逢が見てくる。恥ずかしさのあまり口元を手で覆う。すると、その手を開かせてくる。
「Come 」
希逢がCommandを放ち、由羽はそろそろと希逢の膝の上に座る。髪の毛に触れられ、遊ばれる。毛先をくるくると回して指に巻き付けている。
「ほら。まだ3回しかキスしてないよ。もっと頂戴」
希逢の瞳が妖しく光る。ぬら、と濡れた舌を突き出して由羽を揺さぶる。由羽は導かれるようにしてその舌に自分の舌を這わせた。
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