5 / 7

第5話

 男と寝るのは初めてで、果たして肉体の興奮が続くのか、醒めないのか、ハイドにもわからなかった。興奮を覚えていることすら意外なことなのだ。ただ、ウィルクスを見ていると放っておけなくなった。しっかりした性格のような見た目で、実際もそうなのだろうが、彼が欠落を埋めようと必死になっている様子は見ていて痛々しかった。  カーテンの奥の小部屋は狭く殺風景で、小型のストーブと小さな格子模様のテーブル、それにカウチと簡素な椅子が置いてある以外に物はなかった。ハイドがストーブに火を入れるのを、ウィルクスはカウチに腰かけてじっと見ていた。  ハイドが上着とウェストコートを脱ぎ、シャツを脱ぐと、ウィルクスは彼の肉体に見惚れた。四十歳を迎えても筋肉質の体つきを維持している。ウィルクスはもの欲しそうな目で彼の裸体を見ながら、自分も服を脱いだ。彼の体も引き締まっていて、筋肉も適度についてはいるが、やはり痩せている。  会って一時間ばかりの男娼、そのうえ人ならざる者かもしれない相手を前に服を脱いでいる自分が、ハイドにはおかしかった。興奮していることはさらにおかしい。しかし、だいたいの男なら抱く不快感や罪悪感や恐怖を、彼は感じていなかった。  ウィルクスはなによりもまずハイドを興奮させないといけないと思ったらしく、口でするともちかけた。女にもされたことのない愛撫の方法にハイドはためらいを見せる。ウィルクスはすばやくそれを察し、手ですると言い直した。  カウチに腰を下ろしたハイドに向かいあうようにウィルクスも腰を下ろし、手を伸ばしてハイドの脚のあいだに触れる。中途半端に昂っている性器を軽く握り、上下に擦りあげながらハイドの首筋を舐めた。熱くぬめった舌が皮膚を這うと、ハイドは背筋に震えを感じる。肉体の内側で少しずつなにかが剥離し、壊れはじめているようだ。殻に包まれたままの生卵を力いっぱい振ったときのような。そんな奇妙な感覚に身を任せ、ハイドは青年の腰を抱き寄せる。ウィルクスが耳を噛むと、ハイドの背がぴくりと跳ねる。  耳が弱点だと見抜いたウィルクスはそこを重点的に責めながら、手の中の熱を煽るように擦りあげる。肉の塊はさらに凝固して、吐き出すものでウィルクスの手を濡らした。ハイドの手がウィルクスの薄い胸を撫でる。左の突起に指先を押し当てて転がすと、彼は「ん」と声を漏らした。手は休めないが、ハイドに乳首をいじられるたび唇を噛んでいる。ハイドがちらりと見ると、ウィルクスの脚のあいだはすでに力を得て持ちあがっていた。  その生々しさにハイドは目を逸らす。 「きみはここで感じるんだな」  彼がささやくと、ウィルクスは眉を吊りあげた。怒った顔をそむけ、「三人目の男に、こんなふうにされたんです」とつぶやいた。 「でも、もうずいぶん前の話ですよ。……ハイドさん、き、キスしていいですか?」  ハイドがいいよと言うと、ウィルクスは身を乗りだして彼の唇を塞いだ。ウィルクスが舌を差しこむとハイドはそれを受け入れた。青年の舌はよく動き、ハイドの舌の根元に舌先を埋め、ちろちろ舐める。ハイドは彼の舌を噛み、軽く吸う。わざと卑猥な音を立ててハイドが舌を絡めると、ウィルクスは耳まで赤くなった。親指と人差し指でつままれ乳首を転がされながら、彼はそれでも責めたてた。  なんとか興奮を維持できている、とハイドは安堵を感じた。愛撫はひどく気持ちよかった。だから彼は久しぶりに、肉体の欲求を解放させる必要性を感じた。彼が目を開けて見ると、ウィルクスはハイドのものを愛撫しながらもう片手を自分の背後に回していた。粘膜を擦るかすかな音を立て、尻のあいだを自分でいじっている。見ていると頭がくらくらし、動悸がいっそう激しくなったのを感じたので、ハイドはふたたび静かに目を閉じた。  ウィルクスは男根を責めたてていた手を離すと、手のひらを汚すカウパーを舌で舐めた。ハイドは彼を抱き寄せ、もう一度軽くキスした。ウィルクスは荒い息をつきながら黙っているが、ややあってカウチの上に仰向けで寝そべった。鋭い目は欲情でとろけている。ハイドが脚のあいだに腰を割り入れると、ウィルクスの胸が波打った。探偵はささやいた。 「挿入は、したほうがいいのか?」  この時点でウィルクスは、ハイドが本当には客ではないことを悟った。飢え、危険を冒してウィルクスを求めてくる男たちが、愛撫と前戯で満足したことはかつて一度もなかった。  ウィルクスはうなずいた。ハイドを見上げて、「してください」とはっきり言った。 「これは、女性にするように挿れていいのか?」ハイドは彼の膝に片手を乗せて尋ねた。「挿入する部分は、きみの……」後孔を指でなぞるとウィルクスの体が跳ねる。「ここだな?」  こくりとうなずくと、ウィルクスは両膝の裏に両手を添え、自分で脚を抱えあげた。両膝が胸につくほど持ちあげられ、すべてが丸見えになっている。ハイドは唾液を飲みこんだ。思わず萎えそうな気がして自分の脚のあいだに触れたが、大丈夫だった。彼はウィルクスの手に手を重ねるように片手を添え、もう片手で怒張を握った。肥大した頭で後孔を擦ると、宙に浮いたウィルクスの爪先はぴくぴく跳ねる。 「あ、あぁ……」  彼は力のない声でうめき、目に涙をためてハイドを見上げた。

ともだちにシェアしよう!