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サヨナラの前の忘れ物 4

俺の内面は空っぽだが、表向きは仕事人間。 三つ子の魂百までということわざ通りの俺は、他人から見れば真面目過ぎると言われる性格を直すことができない。 どんなに人肌恋しく思っても、どんなに性欲が溜まっていても。今日のように赤の他人とセックスした後に出勤することは数年に1度で。 ……昨日がたまたま、厄日に当たったんだと。 そんなことを考えながら、俺は何食わぬ顔でいつも通りの日常をこなしてゆくことを心掛けた。学校が終わり塾のような感覚でサッカースクールに通う子供達に、コーチとして指導に当たるのが俺の仕事だから。 出勤時間は基本的に11時、このありがたい出勤時間のおかげで、今日の俺は遅刻することなく業務に励むことができているが。 昨日と全く同じ服装のまま出勤するわけにはいかず、ホテルを出た後に俺がなくなくコンビニでワイシャツとネクタイを購入して着替えを済ませてきたことは内緒だ。 そこから事務所へ入り、ディスクワークをして。ロッカールームでコーチ用のユニフォームに着替えた後、その日の練習メニューの確認をし、練習場所のフットサルコートまで行き子供達の指導をして……その後は保護者からの相談や事務作業に追われ、俺の退勤時間は残業も含め毎日23時頃となる。 これが、いつも通りの俺のライフスタイル。 ほぼ毎日が仕事で埋め尽くされていて、恋愛は排除して。なんの変哲もない平凡な日常を送ることが、俺にとっての小さな幸せなのに。 「せーんぱい、そんなに仕事ばっかしてると婚期逃しますよ。いつまで、ボールが彼女なんて言ってるつもりなんですか?」 サッカースクールに通う子供たちに指導し終わった後、事務所に戻り自分のディスクで雑務をしていた俺にそう声を掛けたのは俺より二歳下の部下、戸田 敦(とだ あつし)だった。 俺がヘッドマスターという当社で与えられた役職に就いていることもあり、全国各地にスクール校がある中でも俺が指導に当たっているこのスクールでのトップは俺なんだけれども。 信頼している部下の1人の敦君は、要領よく仕事をする。それに加えて敦君はなかなかの高身長でスタイルもよく、好青年な顔立ちと爽やかな短髪が良く似合う男で。 俺より先に自分の仕事を終えた敦君は、帰り支度を整えると事務所に俺しかいない時を狙って、今みたいにちょいちょい俺との差を見せつけてくるけれど。敦君とはそれなりに親しくしている仲だからか、俺は仕事に関係のない余計なことを口走ってしまう。 「敦君こそ、僕の心配をする前に持ち前のルックスの良さで婚活してきたらどうです?」 「俺は先輩と違ってボールが彼女じゃないですから、キープしてる女の1人や2人くらいいますよ。ですので、ご心配は無用です」 「敦君みたいな男がいるから、世の女性から男なんてと馬鹿にされるのですよ。プライベートについて口出しするつもりはありませんが、お遊びも程々に」 社内恋愛ができるほど、俺が働く職場に女性はいない。もし仕事関係で恋愛に発展することがあるとすれば、それは保護者との交際となるけれど。 そんなことをした時点で、俺たちは指導者としての職を失うことになるから。敦君の遊び相手がスクール生の保護者でなければ、俺が上司として言えることは少なかった。 「先輩は真面目過ぎるんです。その性格さえ直せば、先輩だって充分モテ男の仲間入りすると思うんですけどね。顔は童顔だし、小動物系タイプが好きな女には持ってこいだと思いますよ」
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