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サヨナラの前の忘れ物 11

バカな女でも、賢くても。 女性は皆、可愛らしい生き物なのだろう。 セックスは好きだ。 重ねた肌から伝わる温もりと、喜びと、快楽。人それぞれ異なる感覚を擦り合わせ、孤独を紛らす瞬間。 清く正しく、そんなありふれた常識じゃ補えない現実に目を向けて。当たり前の日常に、もやはなんの楽しみも感じなくなってどれくらい経つのだろう。 セックスは、本来遊びではないのに。 相手のマインドを感じてみたいと、愛情云々では済ますことのできないリアルを感じたいだけなんだが。 そんな相手はそう見つからず、同じような毎日に嫌気がさしていたある日のことだった。 思い返しても、俺がクズ野郎で竜崎隼が面白い男なことには変わりないけれど。少しだけ、昨日から今日の朝までの回想をするとしようか。 ……俺、どうせ今独りだし。 独りの時じゃねぇと味わえない楽しさってもんもあるからな。どっから話を掘り返そうか、俺の独り言からスタートすんのが丁度いいかも。 そう思い、俺はタバコ吸いつつ瞳を閉じていく。 有線の音楽も、女の喘ぎ声も聴こえない静かな部屋。瞳を閉じれば鮮明に思い出されていく彼との出逢いは、俺にとって必然的なものだったのかもしれない。 「あー、どっかに面白いヤツはいねぇもんかなぁ」 昨日の俺は、BARのカウンターに突っ伏しそう呟いていた。独りで飲みたい時にだけ、俺はこの店の重い扉を開けるから。仕事の付き合いや女を連れてくることのない店で、俺は暇を潰していたんだっけ。 「飛鳥さん、ソレ言うの今日で3回目ですけど」 美味い酒があり居心地のいいこの店は嫌いじゃないが、この店には汚点がある。カウンター越しで笑いながら俺に声をかけてくるクソガキがいんのは、この店のマイナスだ。 それでも、クソガキを相手にすんのは楽しいもので。俺はとぼけたフリをした。 「マジ?」 「マジ……ってか、飛鳥さんなら幾らでも相手出来るっしょ?俺に教えてくださいよ、女の口説き方」 左耳に刺さった安ピンを弄り、ニヤリと笑ってそう聞くガキにはまだ幼さが残る。此処のマスターの息子、18だと本人は言っているがそれはどう見ても嘘だろう。 よくて16そこそこのクソガキだ。 好奇心旺盛なガキ相手に、口説く話もナニもねぇんだけど。そう思いながらも、なんだかんだ懐いてくるクソガキとは結構よく話をしてしまう。 親の仕事の手伝いでバーテンダーをしているガキの話のセンスは悪くない。しかし、バーテンダーとしての腕前は、まだまだマスターには程遠くて。 ウザさ半分、可愛さ半分。 俺に寄ってくる女よりかは幾分か可愛らしく思えるクソガキと、俺は落ち込んだ時にだけ飲むようにしているカクテルを口にしつつ話していた。 「俺が口説くワケじゃねぇからなぁ、勝手に寄ってくんだよ。適当に美味いメシ食わせて、上辺だけの優しさ振り撒いてやるだけ。そうすっと、向こうから抱いてくれってせがんでくっから」 「んなコト言われんの飛鳥さんだけッスよ。じゃあ質問変えます、イイ女ってどんな女ッスか?」 「俺に抱かれてねぇ女」 俺に寄ってくる女は大抵、ヤリ目的が殆どだから。恋だの愛だの、まだ青春真っ盛りなガキの話に俺が適当に応えていると、店の重い扉が開いたんだ。常連客ではなさそうなスーツ姿の男、項垂れた様子でフラフラと歩いてきた彼が竜崎隼だった。 「いらっしゃいませ、お客様」 俺には見せない営業スマイルで微笑むクソガキに軽く会釈し、空いている俺の隣の席に彼は腰掛けて。カウンターの空席なら幾つかあるのにも関わらず、わざわざ俺の横に座ったソイツはすげぇ面白れぇヤツだと思った。 「とりあえず、ビールください」 高くも低くもない声で、そう言ったソイツ。 でも、その声はやたらと綺麗な音に聴こえた。
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