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サヨナラの前の忘れ物 16
自分の為に生きて、何が悪い。
誰かのためにと言いつつ、人は人への優しさも、それにかける愛情も、結局は全てが自分のために他人へと向けられるものなのだから。
10の優しさを他人に手渡して、それと同じように手渡した相手から10の優しさが返ってくるとは限らない。プラスになることもあるだろうし、マイナスになって返ってくることだってある。
プラスなら、それは利益となるだろう。
しかし、もしそれがマイナスだったなら……人は、不利益を感じると同時に、そこに大抵苛立ちを抱くものだ。
アイツには、ここまでしてやったのに。
コイツには、これだけやってやったのに。
どうして、与えてやった自分だけが不利益にならなければいけないのかと。善人になっていたつもりが、相手の対応次第で人の心は簡単に悪人に変わる。
どれだけ見返りを求めていないつもりでも、無償の愛を提供しているつもりでも。それは結局つもりなだけで、人は、人に与えるものの全てが最初から自分のために用意されている生き物だ。
それならば、誰しも持つ愛情というのは一体どんなものなのだろうか。
俺は、そんなことを考えるのすら面倒で。
端から全部、自分のために生きている俺の所為にすればいいと。俺はそう思うことで、他人への愛情とやらを誤魔化し続けてきたのに。
「…んぅ、アッ…ぁ」
俺が触れる度に、何かしらの反応を魅せる隼の身体が面白くて仕方がなかった。半脱ぎ状態のスーツ姿、白色のワイシャツから晒した乳首。乱れていく男の呼吸音を聴きつつ、俺はソレに舌を這わせて。
「ッ、ん…はぁ、ぅ」
女のように柔らかな肉体でもなければ、豊満な胸があるわけでもないのに。きめ細かで滑らかな隼の肌に、手を伸ばすことをやめようとは思わなかった。キャンキャン喘ぐこともなく、静かに吐息だけを漏らして俺が与える快楽に隼は眉を寄せているだけなのに。
次が知りたくて、この先が欲しくて。
俺は、新しいオモチャを手渡された子供のように男の身体で遊ぶことを覚え始めた。
真っ平らな胸に顔を埋め、緩やかに愛撫する。
その間、聴こえてくる隼の高鳴った鼓動が何故かやたらと心地良く感じて笑みが洩れていく。
女相手だと表情や僅かな反応にまで気を遣い探る必要がある行為だけれど、男相手だと反応が分かりやすくて女より扱いやすい。さっきから俺の脚に触れる隼の性器は、まだ脱がしていない下着の中で張り詰めたままだから。
「こんなんでも気持ちよくなれんのな、お前」
埋めた顔を上げ、俺がそう呟くと。
切なそうに蕩けた瞳が俺を捕らえていた。
「あ、すか…っ、う」
ぎゅっと寄った眉は下がり、快感に流された表情で俺を見る隼。小さな乳首に与える刺激だけじゃ面白味がなくなって、俺は服の上からゆっくり性器を撫でてやりつつ隼に問い掛けていく。
「コレ、硬くなってっけど。乳首とこっち、どっちを俺に弄られたい?」
「い、ァ…どっち、も」
「変態」
俺に触れられて興奮している男に告げた言葉、お前は普通じゃねぇよって意味が混じる変態の二文字。いくら真面目を装っていたとしても、所詮はコイツも俺と同じで一夜限りの関係に目を瞑るのだと分かっているのに。
「俺は…飛鳥を、受け入れたいだけだから…ッ、変態でも、なんでもいいんだ」
「隼…」
「だから、俺を抱いてくれ。遊びなら、お互いが壊れるくらいに気持ちイイことをしよう。飛鳥がまだ知らないこと、俺はきっと知ってるから」
遊びだからと本人の口から告げられ、分かりきっていたことだったはずの誘いを俺はどうにかして覆してやろうと笑った。
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