18 / 49
サヨナラの前の忘れ物 18
自分の竿でさえ、俺は自分で慰めることをしないというのに。他人の熱に触れ、猛り立つ男の表情に俺はご満悦状態だった。
女とか、男とか。
性別なんて関係ないと、そう思えたのはおそらく酒の所為だ。赤の他人のブツに触れても、嫌悪感を抱くことがなかったこの時の俺はどうかしていたと思うけれど。
精液に塗れた俺の指先が辿り着いた場所は、俺との繋がりを求めてヒクつく閉ざされた世界で。俺がゆっくりとソコに指を挿れていくと、隼の表情の中に快楽とは別の何かが見えた気がした。
痛みで悲鳴を上げることもなく、顔を歪めているわけでもない。若干の苦しさを感じているのかもしれないが、そこには気持ちよさも含まれているのが見受けられて。
「ん…ぁ、動かして…いい、から」
「んじゃ、遠慮なく」
ローション代わりの精液を塗り込むように、俺は隼の狭いナカを押し広げていくけれど。
人肌を欲して縋るような誘い方をしても、隼が後ろを使うセックスに慣れていないことは隼の反応を見ていれば分かることだったから。徐々に慣らしてやろうと思っていた俺の行動を急かすように、隼は息を整えながら俺に要求してきたけれど。
「……無理、すんなよ」
「どっちがッ、だ…アっ、ン」
「本数増やしただけで泣いてるお前に言ってんの。ヤケクソでセックスなんかすんな、隼が辛いだけだろ」
「言った、だろ…っ、なんでもいいって…だから、ァ…早く、抱いて…」
寂しさも、孤独感も。
コイツが抱えている負の感情の全てが、この時の俺に向けられていた。
でも、その姿に俺が魅せられるなんて、やっぱどうかしてると思うのに。女か男かの違いだけで、誰としても変わることのないいつもと同じセックスなのに。コイツとのソレは、何かが違う気がした。
俺の知らない感情を知っている男、コイツと繋がり合ったなら、今までに感じたことのない感情を手に入れることができるのか、と。珍しく複雑な考えを持ちつつ、俺は隼の上に覆いかぶさっていく。
最初は色気を感じることがなかった男に、ただ興味が湧いただけの男に欲情できる今日の俺は何からナニまで本当に、どうかしているけれど。
「隼、忘れらんねぇ夜にしてやっから……俺から目、逸らすんじゃねぇぞ」
「あっ、すか…」
閉じられていた隼の瞳が、ゆっくりと俺だけを映し出して。綺麗な音を奏でるその唇で、俺の名を呼んだ男に新たな興奮を覚えた瞬間だった。
この男の前でなら、飾りも偽りもいらないかもしれない。遊ぶだけ遊んで人を愛せないと、初めて誰かに話した本音。一度きりの関係にするのは惜しく感じて、囁いた言葉に俺は思わず自嘲していた。
一連の流れで行為が終わり、ぐったりとした様子で眠りについた隼。きっと、こうして優しく抱いてやるのは今日が最初で最後だろうと思いつつ、隣で寝息を立てる男の肌に赤く染まる痕を残す。
告げられた名前が本名かどうかも分からぬ相手、そんな男を抱き竦めて目覚めた朝は最悪だった。
……これが、隼の忘れ物。
酔っ払いのド変態野郎は、俺に抱かれたことなどすっかり忘れていた。けれど、この先……俺は、自分から俺を誘ったアイツに全部忘れたなんて言わせるつもりはない。
逃がさない為の名刺のやり取りと、ホテルのテーブルの上に残された一万円札。俺が受け取ったその二つから、俺と隼の関係が一夜限りで終わらないこと俺はを確信した。
……そして、今に至る。
長過ぎる回想シーンの幕が降り、俺は自然と訪れた睡魔に身を任せて眠りについた。
ともだちにシェアしよう!