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失ったものと得られたもの 5

ジャージ姿の俺と、スーツを着込んだ飛鳥。 なんとなく部屋に漂う重めの雰囲気を演出しているのは、俺ではなく飛鳥の方だった。 ソファではなくダイニングテーブルを向かい合って2人で囲み、俺は何故か飛鳥に言われるがままホットコーヒーを用意して。 自分でもよく分からぬ感情を抱きつつも飛鳥に流されこの男をもてなしている俺は、馬鹿なのかもしれない。 「真面目な話って、なにを話すつもりですか……僕と貴方に、こんな改まって話をするほどの話題なんかないでしょう?」 「話題がなきゃ、俺たちはこうして話しちゃいけねぇのか?」 「いや、その……」 ……だって、小っ恥ずかしいじゃないか。 それでなくても、俺は飛鳥相手にとんでもないことをやらかしているのだから。 俺の感情なんてものは何時でも置いてけぼりで、余裕そうな顔をして笑う飛鳥に苛立ちを隠せないのに……それと同量の恥を感じてしまう自分自身が、心底許せない。 けれど。 明るい室内で見る飛鳥はとても綺麗で、陽射しに照らされた栗色の髪が美しいと思えた。 こんなに綺麗な男に、俺は抱かれたのだと。人間、容姿が全てではないが……飛鳥は容姿が全ての方が、似合っている気がすると思った。 飛鳥の中身を多くは知らないけれど、外見が頗る良いのは誰の目から見ても明らかだ。 ただ、本音を呑み込むために口篭ってしまった手前、俺から飛鳥に問い掛けることが難しいこの状況。それなのに、優雅にコーヒーを飲んでいる飛鳥は俺をチラッと視界に入れると声を出して。 「隼にとって、セックスってナニ?」 「……え、はぁッ!?」 尋ねられた言葉に耳を疑い、そうして思考すら奪われてしまった俺は驚くことしかできない。 欲に興味があるお年頃ならまだしも、行為後の朝に向かい合って話すことじゃないだろうに。俺の戸惑は呆気なく無視を決め込まれたのに、飛鳥は無駄に冷静で。 「だから、お前にとってのセックスってなんだと思う?」 「ちょ、いや……それの一体何処が、真面目な話なんですかッ!!」 「クソ真面目だろー、素面で話してんだから。エロがどうのこうのって話じゃねぇの、概念の話な」 飛鳥の頭のおかしい発言に、一々付き合っていたら話にならないけれど。 「概念って……セックスは、好きな人と愛を深め合う行為、だと思う」 深く考えることをやめてしまい、自ずと辿り着いた答えを俺は声に出していた。 「お前、俺のこと嫌いなのに?」 「それはッ」 「セックスは、通過点にすぎねぇだろ。告ってぇ、デートしてぇ、そんでやっとこさ最終地点のセックスに辿り着きましたー、じゃねぇだろ?」 「飛鳥はっ、貴方は例外ですッ!!」 そもそも。 恋愛云々の感情を省いた関係なのだから、深め合う愛もなければ情もないはずなんだ。 それなのに。 儚く微笑む飛鳥の表情は何処か哀しげで、俺ではない誰かを見ているような揺れる瞳に心が僅かに痛くなる。 「……ヤることヤッてサヨナラになるヤツらは、俺とマインドが合わねぇってだけだ」 落ち着いた声色に、傷んだ心が反応する。 もう会うことはないと、そんなふうに別れた後にやってきた、二度目の繋がり……それが何を意味するのか、理解しようにも飛鳥の発言は本当によく分からないことばかりで。 「言ってる意味が、全く分からないんだが」 「セックスにも、相性ってあんだろ。そこが合わねぇヤツとは、どれだけ心を通わせようと違和感が残る。全てを曝け出して受け入れる決意をしても、最終地点で身体が合わねぇヤツとはすれ違うままなの」

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