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3 fall in loveってこと

僕は両親からの強い希望で、今の学校の初等部のお受験をさせられた。 が、並かそれ以下のおつむの僕は、初等部に受かることは出来なかった。 あの時の落胆した母の顔は忘れられない。 それで、死にも狂いで勉強して、なんとか中等部の編入試験に合格した。 そこで、八王子くんこと完全完璧な王子に出会ったんだ。 本当に勉強して良かった… だけど僕は、なんとか入れた学校だったから、毎日勉強を続けてなんとか食らいついていた。 だから、全く周りが見えていなかった。 王子の存在にも気づいてなくて、友達もゼロだった。 そんな僕がうっかり教科書を忘れてしまい、右隣の女の子に「見せて欲しい」声をかけたが 「え、ごめん。無理」とすげなく断られ、 僕は頭が真っ白になった。 いや、自分がどちらかというと好まれない見た目であることは理解してたけど、まさかそんなに嫌そうな顔で断られるとは思わず、思春期の僕は大きく傷ついた。 すると、左隣の八王子くんが「俺で良かったら見る?」と声をかけてくれた。 その瞬間、ようやく僕は八王子くんという存在を認識した。 そして、うっかり恋に落ちた。 優しそうな笑顔を讃えて、机をくっつけてくれた彼の姿にときめかない人なんかいないだろう。 「えっ…、でも、いいの?」 僕が狼狽えていると「もちろん。俺だって、山路くんのお隣さんだよ」と満面の笑みの王子… その瞬間から、僕の密かな推しが決定した。 でも、僕なんかから声をかけたり、絡んだりするわけにはいかず、陰からこっそりと王子を見守る日々。 それだけで僕は幸せだったんだ。 陰から見守るうちに、今まで知らなかった彼の評価や人気ぶりを知り、改めて僕なんかが近づいて良い存在じゃないと知った。 でも、いいんだ。 僕は男だし、たとえ女の子だったしても、『ジミー』なんて呼ばれてる奴が釣り合うわけがない。 ---- イベントごとで、八王子くんの写真やチェキが出回るのはよくあることだ。 文化祭に体育祭、学年行事… 彼のファンの女の子たちの中で、有志の方々が写真を撮っては1枚数十円で販売する。 喉から手が出るほど欲しかった… が、買うにはその子に声をかけなくてはならない。 声なんかかけた日には、俺が王子を好きだと言うことがバレて、気味悪がられるに決まっている。 これ以上、学校で浮きたくないし、王子にバレて気持ち悪いと思われるのが1番嫌だ。 僕は販売しているのを横目に、歯軋りをする日々を送っていた。 

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