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5 二面性
でもまあ、それでも、僕が王子と接点を持てるわけではなく、変わらず陰で応援してた。
推してる姿を見られるたびに、火野や水元をはじめ、クラスメイトたちからは揶揄われたけど。
中学3年生になり、受験という言葉が聞こえ始めた。
僕は母からの強い勧めがあったのと、高校受験の勉強をするのが嫌なのとで、エスカレーター式に今の学校の高等部に進学する予定だった。
風の噂で、八王子くんは外部の高校を受けると聞いてた。
来年からは王子を見かけることはないのかと、かなり落胆はしたけど、僕の学力では彼の志望校に受かるなんて、夢のまた夢だ。
僕は渋々、己が運命を受け入れた。
が、どうしたことか。
入学式に出席すると、同じクラスに彼がいた。
のちに本人から聞いた話では、厄介なファンを振り落とすために、嘘の情報を流したようで、外部の学校なんて受けてないとのこと。
八王子くんは結構腹黒いのだ。
入学早々、僕は「また同じクラスだね!よろしくね」と、挨拶だけした。
普段はそんなことしなかったのだけど、僕はかなり舞い上がってたらしい。
彼は、「ああ、中等部の時の…、よろしく」と微笑んでくれた。
本当に優しい、みんなの前では。
僕にはその返事だけで満足だった。
それから、彼の裏の顔を知ったのは夏休み前だった。
すでに授業についていくのが精一杯だった僕は、1学期のテストでギリギリの成績だった。
怒り狂った母に塾にぶち込まれ、僕は平日の夜、週に二回の講座を受けることになった。
普段は、終わり次第、さっさと帰宅していたが、その日は講師に質問に行ったせいで、いつもの電車を逃してしまった。
時間を潰すために入ったゲームセンターに、いつも教室で見かける憧れの彼がいた。
おそらく、僕の学校の生徒では無い人たちに囲まれ、カジュアルな普段着で筐体に向かっている。
学校で見る彼と全然違う。
そんな悪そうな姿にもキュンとしてしまった。
僕が彼をガン見していると、その取り巻きと目が合った。
僕は思わず肩を揺らす。
「あ?誰お前?」
「あ、す、すみません」
決して悪いことをしたわけじゃないのに、凄まれて、思わず謝ってしまった。
騒ぎに気づいた八王子くんが、こちらに向かってきた。
「なに?喧嘩?」
「いや、なんかこいつがガン見してきた」
「は?…、ああ、君、同じ学校の…」
そう言って口をつぐんだ八王子くんが、「悪い、俺、先に帰るわ」と僕の肩を組んで、ゲーセンの外に向かって歩き始めた。
「え?お、おう。またな」
取り巻きたちが手を振る。
僕は何が何だか分からず、震えながら、八王子くんと共に歩き始めた。
いつもだったら、ご褒美だと喜んでいたが、今日の王子はなんかヤンキーみたいで怖い。
外に出ると彼は足を止め、「なに?ストーカー?」と僕を睨んだ。
「ちっ!違います!ぼ、僕、頭悪くて、そこの塾に通ってて、たまたまっ…」
僕は、とにかく言い訳をしなきゃと塾を指差して、支離滅裂なことを言った。
自分の慌てっぷりが恥ずかしくて、顔が熱くなる。
「ふーん?」
王子は興味なさそうに言って、頭を掻いた。
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