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7 独り

最初は何が何だかわからないまま、お昼を一緒に過ごしていたけれど 相変わらず、八王子くんからはあまり話しかけてこないし、皆が知らない王子が見られるのは嬉しいから、このままでいいかと思った。 いや、むしろこのままの時間がずっと続いて欲しいとまで願っているんだけれど。 秋が深まって来たある日、八王子くんから連絡が来た。 滅多に彼からラインが届くことはないんだけれど、「ライン、追加してもいいかな?」という僕の問いかけに頷いてくれた時は、踊り出してしまいそうだった。 まあ、僕は友達がいないから、何を送っていいか分からなくて、全然やりとりはしていないんだけど。 だから、通知で八王子くんの名前が見えた瞬間、僕は携帯に飛びついた。 『明日から生徒会始まるから、文化祭までは昼行けないと思う』 そりゃ寂しい気持ちはあったけども、それ以上に律儀に連絡をくれたことに僕は驚き、 彼の優しさに嬉しくなってしまった。 お昼会えなくても、これを機にラインのラリーが続けば嬉しい。 『そうなんだ! 連絡ありがとう! 生徒会、頑張ってね!』 何度も読み返し、打ち直して、数十分後にようやく送信ボタンを押せた。 トーク画面を開いたまま、眺めていると しばらくして既読がついた。 けど、返事が来ることはなかった。 それで気づいたけれど、僕と八王子くんは、昼ごはんを食べるだけの関係で、友達じゃない。 お昼に会えないからといって、他の時間に会うこともなく、SNSすら繋がりがない。 つまり、僕たちの関係は完全に断たれた。 八王子くんに呼ばれなかった日は、教室の隅でひっそりとご飯を食べていたが、 無人の場所で孤食と 賑やかな場所で孤食とでは 全然話が違う。 とにかく居づらくて、3日目には場所探しを始めることになった。 意外とみんな、それぞれの場所を見つけているみたいで、中庭や空いてそうな教室はすでに誰かがいた。 でも、八王子くんと過ごす空き教室は、僕なんかが1人で使うのは忍びない。 しかも、鍵がかかっていた。 もしかしたら、彼が鍵を持っているのかも。 だとしたら、貸して欲しいなんていうのは烏滸がましいな。 それで、結局僕は、ちょっと日陰になっている花壇の縁に座ってお昼を過ごすことにした。 庭というわけではなく、校舎沿いに連なっている花壇の一つ。 日陰だからか、晴れていてもしっとりとして仄暗い。 八王子くんには似合わないけれど、僕にはちょうどいい。

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