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10 当日
八王子くんとは疎遠になったまま、文化祭当日を迎えた。
クラスで目立たない僕は、その準備にほとんど関わることがなかった。
当日の仕事も、指定された2時間の間、もう1人のクラスメイトと受付をするだけだ。
一方で、大人気の八王子くんは、クラスの出店にもっといて欲しいと言われていたが、
生徒会の見回りなどがあってほとんど参加できずに残念がられていた。
しかしながら、その2時間以外の時間をどう過ごしたらいいのか…
中等部の頃は、文化祭といえば、合唱と演劇の発表だったから、クラスの出番以外は鑑賞だった。
が、高等部からは出店だ。
とはいえ、1人で色々と見て回るなんて僕にはできそうにもない。
そう思っていると、朝のHRの直後に花井くんがやってきた。
花壇でしか会わないから、こんなふうに自分のクラスに来るのは初めてだ。
「山路くん、今日時間空いてる?」
「え、う、うん。店番で15時から17時までは、教室にいなきゃいけないけど、それ以外は」
15時から終了の17時までは、体育館などでイベントが盛りだくさんで、誰もがクラスの仕事を嫌がったので、僕が請け負った。
1人でイベントを楽しめるわけもないし、体育館に人が集まるはずで、出店に来る人も少ないからWin-Winだ。
「そっか!じゃあさ、それまで僕と回ろうよ。
昨日、誘おうと思ってたのに忘れてた」
「そ、それはいいけど、あまり人混みとかは…」
「僕もあまり人混みは得意じゃないから任せて。
他学年の出店もチェック済みだから、少ない労力で楽しませる自信があるよ」
「そ、そう?ありがとう」
花井くんはクラスは友達はいなくても、文化祭は楽しむ派みたいだ。
そのエネルギーが羨ましい。
ふと、教室中から視線を感じて見回すと、僕が花井くんと話しているのを、好奇の目で見られていた。
そりゃ、僕みたいなジミーが、明るくて顔が綺麗な他クラスの花井くんと話していたら、不思議なのかもしれない。
僕は居た堪れなくなって、花井くんの背中を押して教室から出た。
クラスの出店は、教室を使うので仕事のない僕が居座るのも邪魔だろうし。
「僕のクラスも展示が良かったな」
僕が花井くんに言った。
人が少ない時間の店番とはいえ、やはり人と関わるのは怖い。
花井くんのクラスは、展示だ。
全クラスが展示になるとまずいので、決まりで1学年で1クラスだけ、展示が許される。
その枠を勝ち取ったのが、花井くんのクラスだ。
当日何もしなくていいのは羨ましい。
なんなら、学校をサボれるし。
「そう思うかもしれないけど、準備期間は結構地獄だったよ。
皆と仲良く作らなきゃいけなくて、帰宅部なのに学校に残ってたし」
「…、確かにそれは嫌かも」
「ね?」
僕は一応、当日も仕事があったので、事前準備はクラスの陽キャに任せていてもお咎めはなかったけど…
文化祭なんてなくていいのにな。
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