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12 鉢合わせ
八王子くんの重みを肩に感じながら硬直していると、「なんか話して」と言われた。
久々すぎて話す内容が思い浮かばず、逡巡していると八王子くんは「なんでこんなところにいるの?」と聞いてきた。
「えっと…、お昼をたべる場所を探してて、たまたま見つけて、いつも誰も来ないから居心地が良くて今日もここにいたんだ」
そう説明してみたが、彼は特に内容に興味があるようではなく、目を閉じて黙っている。
「高等部の文化祭って本当に賑やかなんだね。
僕なんか、圧倒されて逃げてきちゃった。
こんな静かな場所があって本当に助かった」
そのまま話を続けようとしたところで「居場所がないなら俺に言えば、あの教室の鍵、貸したのに」と、八王子くんが言った。
「…、え?」
僕は言われたことがうまく飲み込めず、聞き返した。
が、それ以上は語ってくれない。
八王子くんの声こそ、とても耳あたりがいいんだから喋っていて欲しいのに。
っていうか、今、言ったことが聞き間違えじゃなかったら、八王子くんはあの場所を僕に貸してくれるって言った!?
それって、なんだか自分が彼に大切にされているみたいに聞こえる。
にやけそうになる口角を引き締めて、僕は自分に言い聞かせる。
彼はきっと、こんな野外で過ごしている僕を憐んでいるだけなんだ。
このくらいの優しさは誰にでも向ける人だ。
これが僕じゃなくて、女子や友達なら、もっと優しい提案をするはずだ。
例えば…、1人にするのも可哀想だから、生徒会の合間に会う時間を少しでも作ってくれる…、とか。
僕へは場所の提案だけだし、全然特別扱いなんかじゃないんだから!
僕は自分にそう言い聞かせて、そういえば花井くんの話をしていなかったと思い出した。
「そういえば、僕、友達ができたんだ!
他クラスの人なんだけど、一緒にお弁当を食べてて、今日も一緒に回る予定の花井くんって言うだけど…」
そう言いかけて、花井くんが戻ってきて、この様子を見られたらあらぬ誤解を生んでしまうのではないかと気づいた。
僕に友達はいないけど、膝枕や肩にもたれかかるとか、男友達とはしないよね?
慌てて八王子くんから離れようとしたところで、後ろから声が聞こえた。
「えっ、あれ?八王子くん、だよね?
山路くん、仲良かったの!?」
振り返ると、両手にビニール袋を下げた花井くんが僕たちを交互に見て驚いていた。
まずい。
学園の王子が、僕みたいなジミーと仲がいいだなんて思われたら、八王子くんが可哀想だ。
「違うよ!
その、見回り中だった八王子くんが、急に体調が悪くなって、そう!急に体調が悪くなって
ここで休んでただけだから!
全然、僕なんかと仲がいいとかではないから!」
僕が必死に説明すると「そうなの?大丈夫?」と花井くんは納得したようだった。
不意に八王子くんが立ち上がった。
離れた重みに、僕は寂しくなった。
僕にだけ聞こえる声で「俺の次はあいつってわけ?男なら誰でもいいのかよ」と呟いた。
「…、え?」
僕がびっくりして彼の顔を見上げると、冷たい表情で俺を一瞥し、花井くんに向き直って
「2人で過ごしているところ、邪魔してごめんね。回復したから見回りに戻るよ」
と笑顔で言うと、校舎へ戻って行った。
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